「女性が軸を持って選択できる環境が必要」POLAが卵子凍結を福利厚生に導入、美容部員の「一つの手立て」に

近年、福利厚生として社員の「卵子凍結」をサポートする企業が増えています。化粧品大手のPOLAに、導入した背景や今後の課題について聞きました。

近年、将来の妊娠・出産に備える「卵子凍結」の費用を負担する福利厚生制度を導入する企業が増えている。

アメリカでは10年近く前から巨大IT企業GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)を中心に、卵子凍結費用の補助制度が広がってきた。

日本では2021年にメルカリが「卵子凍結支援制度」の試験導入を発表。採卵や凍結保存、凍結卵子融解、体外受精や顕微授精までの費用について、1子当たり200万円を上限に会社が負担する。社員とその家族が対象で、最終的に凍結した卵子を使用しない場合や、妊娠や出産に至らなかったとしても費用の返還は求めないーとした。

メルカリのオフィス
メルカリのオフィス
メルカリ

 企業が卵子凍結を後押しすることに対して、「従業員の妊娠や出産の先延ばしにつながるのでは」と懸念する声もある。

メルカリの担当者は「会社として『推奨』しているものではなく、あくまで多様な選択肢を用意することで、働き続ける上での不安を軽減することが目的」と説明する。社内で制度は好意的に受け止められ、22年5月に本導入されたという。

このように、女性従業員に対して「キャリア形成の選択肢」を増やすとして、さまざまな業種で卵子凍結にかかる費用補助制度の導入が広がりつつある。

POLA、福利厚生導入を機に男性社員から相談も

化粧品大手の「POLA(ポーラ)」では、さまざまなサービスの中で従業員が自由に選べる「選択肢の一つ」として、卵子凍結や不妊治療に関わる費用補助が行われている。

「POLA(ポーラ)」の看板=東京都港区
「POLA(ポーラ)」の看板=東京都港区
時事通信社

ポーラが導入している法人向けサービス「Cradle(クレードル)」では、働く女性に向けて生理や妊娠に関するヘルスケアサポートを提供するもので、その一環として卵子凍結の保管初期費用や、卵巣内の卵子の数などを調べる「AMH検査」の費用を補助するクーポンが発行される。

もう一方の「WELBOX(ウェルボックス)」では、卵子凍結の保管初期費用や、不妊治療の個人負担費用について、最大8万円を補助する運用をしている。このサービスは、旅行や映画、通信教育などさまざまなメニューがあり、あくまで卵子凍結は数ある選択肢の一つ、という位置付けだ。

福利厚生の対象範囲は従業員とその家族(ウェルボックスは事実婚含むパートナーも利用可能)。実際に男性社員からも「妻と卵子凍結を検討しているから詳しく教えてほしい」といった相談が寄せられている。

福利厚生として導入されたことをきっかけに、パートナーと卵子凍結を含めライフプランについて本格的に考え始めたという声もあるという。

コーポレート室・サスティナビリティ推進チームの鈴木ひなさんは、卵子凍結への補助を福利厚生に導入する意義について次のように語る。

「若い世代は不妊治療という言葉自体への想像が湧かず、卵子凍結に関する知識を備えていない場合が多いと思います。従業員一人ひとりの将来的な選択肢を広げるためにも、まずは福利厚生に導入することで、卵子凍結という存在を知ってもらい、自身やパートナーのライフプランに目を向けるきっかけになってほしいと考えています」

企業が卵子凍結を福利厚生に取り入れる意義について語る鈴木ひなさん
企業が卵子凍結を福利厚生に取り入れる意義について語る鈴木ひなさん
yu shoji

 一方、百貨店などで働く販売職の女性スタッフへのサポートは課題だという。ポーラでは、全社でフルリモート・フルフレックス制度(自由に就業時間を決められる働き方)が浸透している一方、美容部員の場合は、リモートワークの導入が難しく、不妊治療とのバランスが取りにくいケースも見受けられる。

鈴木さんは「すぐに現状を変えるのが難しいなかで、卵子凍結という選択肢があることが一つの手立てになるのでは」と語る。

卵子凍結の「当事者」ではない社員への研修の必要性

卵子凍結や不妊治療に関する福利厚生導入は各社で進んでいるものの、社会ではこうした悩み自体が“タブー視”されており、話題にしづらいのも現状だ。

ポーラでは、働く女性の健康課題を考える異業種合同プロジェクト「タブーを自由にラボ」を実施。プロジェクトを発案した馬庭千晶さんは、その背景について次のように説明する。

異業種プロジェクト「タブーを自由にラボ」を企画した馬庭千晶さん
異業種プロジェクト「タブーを自由にラボ」を企画した馬庭千晶さん
POLA

「世の中にフェムテックのアイテムは増え、卵子凍結という言葉も浸透しつつある一方、まだ一部の人のものであり、自分は関係ないと考えている人も多い。こうしたプロダクトや福利厚生を提供するだけでなく、それに関わる悩みを発したり、言いづらいことを共有したりする場が必要だと感じました」

23年5月に始動したプロジェクトには、女性活躍や健康経営に取り組む15社約30人が集い、“モヤモヤ”の声が多かった「月経時の心身の不調」「福利厚生」「妊娠・出産」「更年期」「ヘルスリテラシー向上」の5つのチームに分かれて、課題解決の具体案を探った。

「タブーを自由にラボ」では女性が働きながら感じている“モヤモヤ”を共有し合った
「タブーを自由にラボ」では女性が働きながら感じている“モヤモヤ”を共有し合った
POLA

「妊娠・出産」のテーマに取り組んだチームからは、卵子凍結や不妊治療に対する男女での温度差や、不妊が「女性の問題」と思われがちな現状にモヤモヤの声が挙がったという。

「周囲のリテラシーが追いつく前に制度ばかりができても使いにくい」との意見もあり、男女を問わず、これから当事者になり得る新入社員や、当事者の上に立つ管理職に向けた社内研修の必要性が指摘された。

馬庭さんは「キャリアと妊娠、出産の両立について、女性が自分自身で軸を持って選択できる環境かどうかが大切なこと。それには不安や悩みも付きまとうので、いかに企業が寄り添っていくかが大切になる」と語る。

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