コラム・オピニオン
2021年03月05日 14時14分 JST

前進ではなく飛躍を。2021年、自然との平和的な共存をしなければ、地球は手遅れになる【国連環境計画事務局長 寄稿】

11月には、コロナの影響で延期されていたCOP26(国連気候変動枠組み条約締結国会議)も予定されている。そこに向けて各国政府は何をすべきか。

新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックが続く中、地球環境の悪化が止まらない。

欧州が地球温暖化対策の枠組みをリードする中、アメリカはバイデン大統領就任と同時にパリ協定に復帰。日本でも2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロ「カーボンニュートラル」が、他の先進国に足並みを揃える形でようやく宣言され、政財界があわただしく動き始めている。

しかし「このままでは手遅れになる」と警鐘を鳴らすのは、環境分野における国連の主要機関である国連環境計画(UNEP)の事務局長 インガー・アンダーセンさんだ。

2021年11月には、コロナの影響で延期されていたCOP26(国連気候変動枠組み条約締結国会議)も予定されている。そこに向けて各国政府は何をすべきか。

アンダーセンさんがハフポスト日本版に「今始めれば、自然との平和的な共存は可能だ(Making peace with nature is possible, if we start now)」という題名で寄稿した。

国連事務次長兼国連環境計画
国連事務次長兼国連環境計画(UNEP)事務局長のインガー・アンダーセン氏

2021年も新型コロナウイルスのパンデミックが続いています。しかしこの年を、私たち人間が自然と共存し、地球を癒しへと導く一年として歴史に残すことはできます。

新型コロナウイルスは、私たちの生活を一変させました。長引く危機は、一刻も早い世界規模のアクションを起こすよう求めています。

3つの環境危機――気候変動、自然界の喪失と崩壊、そして大気・土壌・水の汚染は、地球にとっての緊急課題です。長期的に見れば、新型コロナウイルスよりもっと大きな困難を引き起こすでしょう。

人間が地球とその生態系を悪化させてきたことを、科学者たちは何年にもわたって詳細に伝えてきました。

それにも関わらず、政府や金融機関、企業、個人などが取っている行動は、今そして将来の世代を、温暖化や種の大量絶滅、大気や水汚染の苦しみから守るにはほど遠いものです。

Spencer Platt via Getty Images
国連気候行動サミットに出席し、地球温暖化に本気で取り組んでいない大人たちを叱責したスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさん。

国連環境計画(UNEP)は2020年、「新型コロナウイルスの影響で温室効果ガス排出量が減ったにも関わらず、地球温暖化は進んでおり、このままでは今世紀のうちに世界の平均気温が3℃以上上昇するだろう」と発表しました。

(編集部注:温暖化対策に関する「パリ協定」では世界の平均気温上昇を産業革命名と比べて、2℃より低く抑え、なるべく1.5℃に抑えることを目的としている)

2021年2月にイギリス財務省が発表した「ダスグプタ・レビュー」は、国連環境計画のこれまでの警告を裏付ける報告書です。一人当たりの自然資本(自然が人間に提供する資源)の残りはこの20年で40%も減少しています。世界中の10人のうち9人もが、汚染された空気を吸っていることもわかっています。

こういった困難な問題の解決策を見つけるのは複雑で、時間がかかります。しかし、専門家たちはすでに解決策を進展させています。そして、これらの解決策を実行する経済的な裏付けは明白であり、実行する体制は整っています。これ以上の言い訳はできません。

今年、国連は各国政府や関係者たちを集めて、気候変動や生物多様性、土地劣化など喫緊の課題について話し合う会議を開きます。新型コロナウイルスの影響で、こういった首脳会議の開催は遅れており、準備も困難でした。

しかし先ほど述べたように、もう言い訳はできません。世界の国々は、地球の緊急事態に真剣に対処する姿勢を会議で見せなければなりません。

政策決定者たちの指針となるのが、我々が発表した報告書「Making Peace with Nature (自然との共存)」です。この報告書には、科学的に評価された環境劣化の全ての証拠が集められ、同時にそれらを元に戻す最先端の対処方法が提示されています。この報告書は、健全な地球に暮らす人類の幸福を約束する持続可能な将来が書かれた見取り図となっています。

環境、社会、経済の分野で取り組むべき問題は密接に関わりあっています。私たちはこの全ての問題に同時に取り組まなければなりません。

Xinhua News Agency
国連環境計画の報告書の発表に際して記者会見に出席したアントニオ・グテーレス国連事務総長とインガー・アンダーセン国連環境計画の事務局長

例えば、気候変動と生態系の崩壊によって、最も貧しい国の食料と水の供給が深刻な打撃を受けた場合、貧困を終わらせることが含まれている持続可能な開発目標「SDGs」を2030年までに達成することはできません。

経済社会システムの変革(transformation)以外に選択肢はないのです。つまり、自然を重視し、自然環境を守ることをあらゆる決定の最重要事項にしなければいけません。

そうすることで、銀行や投資家は化石燃料に融資することを止め、各国政府は何兆ドルもの助成金の交付先を、自然に優しい農業やクリーンエネルギー、そして水などにシフトするでしょう。世界中の人たちが消費より健康や福祉を優先し、環境フットプリント(企業活動や製品が環境に与える負荷を評価するもの)を減らそうとするはずです。

Huffpost Japan
17の目標

前進の兆しはあります。しかし私たちの対応よりもっと早いスピードで、問題は悪化しています。私たちが2021年に求められるのは前進(step up)ではなく、飛躍(leap up)です。

パリ協定にもとづき二酸化炭素の排出を実質ゼロにすると約束した国の数は126にのぼります。各国に求められているのは、「国が決定する貢献(NDC)」の更なる削減努力の追求を11月の国連の気候変動会議(COP26)の前までに提出し、排出実質ゼロに向けた取り組みをすぐに始めることです。

COP26では、温室効果ガス排出権取引市場の運用ルールについて、各国が合意することも必要です。気候変動の影響に対処するために、先進国が開発途上国に毎年提供すると約束した1000億米ドルの資金も、必ず支払わなければなりません。

また、2020年以降について定めた生物多様性の枠組みでも合意できるラインを探り、生態系の破壊に終止符を打たなければなりません。私たちに求められているのは自然を破壊せず、森林を伐採せず、海洋資源を枯渇せず、世界中の人々に食料を供給することです。

資源を再利用して、二酸化炭素排出量を減らし、何百万人もの早世につながっている化学薬品や有害物質を取り除く。この様に循環型経済社会に移行することで、私たちは雇用を生み出しながら理想的な経済を作り上げることができます。

ALFSnaiper via Getty Images
火力発電所から出る煙

地球の緊急事態への対処は、社会全体での努力によるものです。しかしそれを先導するのは、各国の政府なのです。まずは新型コロナウイルス感染症を的確に対処し、賢明で持続可能な回復をする必要があります。また、繁栄を生み出す未来の産業のために、機会創出が必要不可欠です。

循環型経済社会の移行は公平で公正、かつコロナ禍で仕事を失った人のために雇用を創出するものでなければなりません。また広く影響を及ぼす決定については、様々な方法で市民の声を反映させなければいけません。

力を合わせることで、私たちはこれらを実現できます。科学と共に、人間はコロナ禍でも革新を生み出し、脅威に対応する素晴らしい能力を示してきました。

気候変動、自然喪失、そして汚染の3つの地球危機は、新型コロナウイルスもより深刻な脅威です。私たちは2021年を自然と共存した年にし、その後も平和的にこの自然との関係性を継続していかなければいけません。

(文:国連環境計画事務局長 インガー・アンダーセン 翻訳:Satoko Yasuda / ハフポスト日本版)