銃乱射これまでの被害者1196人の実名リスト、アメリカの新聞が掲載。メディアは、むしろ加害者の名前を伏せる動き

日本では被害者の実名報道の議論が進む中、アメリカでは模倣犯を促しかねないとして、銃乱射事件の加害者の実名報道が再考されている。
指名手配写真 イメージ写真
指名手配写真 イメージ写真
ISABELLA CARAPELLA/ HUFFPOST

被害者の実名報道について、日本では今、大きな議論が起こっている。

京都アニメーションの放火殺人事件で亡くなった35人のうち、まだ公表されていなかった25人の氏名が8月27日に公表された。 

7月18日の事件発生から40日を経て、8月2日に公表された10人を含め、亡くなった35人全員の身元が公表されたことになる。

被害者の実名報道をめぐっては、遺族や京都アニメーションが公表に否定的だったことから、SNSでは「実名報道は必要ない」という意見が多く、公表した京都府警やマスコミに非難の声が殺到した。

過去約50年の銃乱射事件の被害者1196人の名前を掲載した米紙

そんな中、アメリカでは8月の日曜版の新聞に、過去約50年の銃乱射事件による被害者約1200人の名前のリストが掲載され、話題となった。

アメリカでは日本同様、レイプ被害者など偏見や二次被害への懸念が強いケースを除いては、被害者の実名報道が一般的だ。近年急増している銃乱射事件でも例外ではない。

アメリカでは、この数週間だけでも銃乱射事件によって30人以上が亡くなっている。

米有力紙ワシントン・ポストは8月11日、1966年以後アメリカで発生した銃乱射事件の被害者1196人の名前の一覧を12ページにわたり掲載した。

同社のTwitterにはリストの写真と共に「1196。これがこのページに掲載されている名前の数です。彼らの普通の日常は、大量殺人犯によって銃殺され、奪われました」とのメッセージが投稿された。

公共での銃乱射事件はこの数年急増しており、約1200人に上るリストの中、約3分の1は2012年12月に発生したサンディフック小学校銃乱射事件以降の事件による被害者だという。

アメリカは他の先進国に比べ、銃乱射事件が突出して多発しているが、議会は銃に関する有効な法律を立法できずにいる。

同紙のエグゼクティブ・エディターのマーティン・バロン氏は、「この国での銃乱射事件による人間への被害がどれほどのものか、振り返る時です。そして、命が奪われてしまった方々を偲びましょう」と声明で呼びかけた。

「このページは、彼ら被害者、そしてその家族や友達に捧げます。これは、私たち、そしてこの国中の誰もが、失った人々を忘れないようにするためです」

銃乱射事件の犯人の名前を公表するべきか?

日本で被害者の実名報道の必要性について議論がされる中、アメリカのメディアでは、銃乱射事件の加害者の詳細を公表することが、将来犯罪を企んでいる可能性のある人物に影響を与え、計画を加速させることに加担するのではないか、というジレンマに直面している。

この動きは、銃規制の活動家や警察、学者などが報道機関に対して圧力をかけて急速しており、銃乱射事件の加害者に関する報道に対しての再考が求められている。彼らは、加害者たちの最終目的は「名声」であり、名前を報道することが模倣犯を促すと主張しており、メディアに犯人の名前や写真の公表を辞める事を推奨している。

近年は、多くのメディアがこの推奨を考慮し、銃乱射事件の加害者の名前や写真、動機の公表を除く、もしくは縮小化している。この動きは、「危害を減らす」という誠実な目的のため、メディアで驚くほど加速している。

(※ハフポストUS版は、銃乱射事件の加害者において、犯行に関連する過去や思想については報じるが、個人的な私生活についての報道は、以前に比べて縮小させています。加害者の写真の掲載は慎重に行っており、名前は事実を明確にする為に行っているが、不必要に繰り返さないようにしています)

実際に、ニュージーランドで3月15日に発生したモスクでの銃乱射事件の際、ジャシンダ・アーダーン首相は加害者について、「男はこのテロ行為を通じて様々なことを手に入れようとしました。そのひとつが、悪名です。だからこそ、私は今後一切この男の名前を口にしません」演説し、国民にも「大勢の命を奪った男の名前ではなく、失われた人たちの名前を語ってください。男はテロリストで、犯罪者で、過激派です。私が口を開く時、この男は無名です」と語った。

一方、一部の専門家は、ニュースから銃乱射事件の加害者の情報を除外することは、読者の事件や暴力への理解を低下させてしまうなど、予測できない影響がある可能性を懸念する。

ノースイースタン大学の犯罪学者、ジェームズ・アラン・フォックス氏は、模倣犯が影響を受けるのは加害者の名前や顔の公表ではなく行動だと言い、事故現場の映像や、被害者の家族や生存者へのインタビューなど全ての要素が、社会へ悲痛を与えることへの引き金になりえるという。

また、著者で教育者であるジャクソン・キャッズ氏は、実名を使わず「加害者」「容疑者」「銃撃者」などの言葉を使うことによる制限を指摘。これらの表現では、加害者の性別や人種も分からない。過去の多くの銃乱射事件の加害者は男性であり、白人が多い。これらの情報なしでは、文化的背景や犯罪パターンが明確化されないという。また、加害者を除いた受動的な文章では、犯罪を起こした側への責任からも注目がそらされる事も懸念されている。

UCLAの客員教授で、テロ事件専門のジェフリー・サイモン氏は、SNS時代の影響も指摘する。「もしメディアが公表しなければ、人々はネットで加害者について詮索するでしょう。それは、加害者にもっと注目を与えることになる。公表しなければ、逆に人々はもっと好奇心が高まります」

 
加害者の名前や写真を報道しない事が、今後犯罪を犯す可能性のある人物が実行に移す事を防ぐ力があるかは分からない。フォックス氏は、重要な情報を提供しつつ、加害者を英雄化させないような、バランスのある報道が必要だという。加害者の背景や事件と関連性のあるものは報道するべきで、それを除外することは、無責任で誤解を招く恐れがあるという。しかし、加害者がその日何を食べたか、などの無関係な情報は不要だと話した。

議論は続く

メディアの重要な責任の一つは、正確で、必要な要素が全て揃った情報を読者に届けることだ。しかし、誰もが情報や意見を発信し拡散できるSNS時代の今、メディアの手法や理論も再考が求められている。

被害者の実名報道は必要か?

アメリカでの銃乱射事件の加害者報道は模倣犯を誘発するのか?

日本もアメリカも、まだ答えは見つかっていないようだ。ネット時代のメディア報道には何が相応しいのか?これから議論を続けていく必要がある。

ハフポストUS版の記事をもとに、翻訳、編集、加筆しました。

注目記事