#WeToo 性暴力をなくすために、私たちは何ができるのか

性犯罪再発防止の専門家と伊藤詩織さんの対話から考える
Kaori Sasagawa

世界で広がりをみせた、セクハラ・性暴力を許さない意思を示す「#MeToo」ムーブメント。

ジャーナリストの伊藤詩織さんらの告発によって、日本でも被害の声を上げる動きは一時的に加速したが、今は落ち着いてしまっているのが現状だ。

なぜ日本では他国ほど #MeToo が広がらなかったのか?

新たなムーブメントとして誕生した #WeToo とは?

海外で性暴力の被害者支援などの取材を続ける伊藤詩織さんと、日本で先駆的に性犯罪再発防止プログラムに取り組む大森榎本クリニック・精神保健福祉部長で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんの対話から、日本における性暴力を減らしていくための道筋を探る。

(左)大森榎本クリニック・精神保健福祉部長で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さん(右)ジャーナリストの伊藤詩織さん
(左)大森榎本クリニック・精神保健福祉部長で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さん(右)ジャーナリストの伊藤詩織さん
Kaori Sasagawa

なぜ日本の#Metooは批判にさらされたのか

――おふたりは日本における #Metoo のムーブメントはどのように見ていましたか。

伊藤:『Black Box』を出版したとき、ちょうど#Metooのムーブメントが起きたタイミングだったんですね。

性犯罪やハラスメントの被害者が、自分が受けた被害をオープンな場で話せるスタートラインに立てた。そういう意味で、2017年は大きな素晴らしい一歩になったと私は思っています。

ただ、アメリカをはじめとする欧米と日本では受け取り方や反応にすごく差があったと感じました。日本では個人を責める批判の声が多くて、悲しかったですね。

Kaori Sasagawa

斉藤: #Metooでカミングアウトをしたのは、ほとんどが女性でしたよね。ところが、受け手となるはずの男性が、正確に受け取って反応してくれなかった。

日本で #MeTooの運動が他国ほど広がらなかった要因のひとつはそこだと思います。ネット上で目にする #MeTooの記事に対しても、理不尽な反応が多かった。バカにしたり、攻撃したり、売名行為だと決めつけたり。

――伊藤さんが会見で被害を訴えたときにも感じましたが、被害者側の落ち度を探そうとする反応が多く見られました。

斉藤:そうなると、対話なんて成り立ちませんよね。受けとめて、しっかり相手に返すという作業が対話ですから。

こういう発言をすると男性側から批判が来ると思いますが、私は男性側の"対話力の脆弱さ"も大きいのでは、と感じています。

MeTooへの罵声は、男性側の弱さの裏返し?

――女性側ではなく、男性側の対話力の弱さ?

斉藤:痴漢をはじめとする様々な性暴力の問題に向き合っていると、極限まで追い詰められたときやストレスフルな状態が続いたときの男性の反応は、「自死」か「暴力」の2パターンが多いんですよ。

たとえば、強姦を繰り返す人のキーワードは「自暴自棄」なんです。「どうせ死ぬんだったら最後に強姦しよう」という思考パターン。

Kaori Sasagawa

そこを踏まえた上で「対話力の脆弱さ」に話を戻しますが、夫婦関係でも妻から責められた夫が、「うまくかわす(その場限りの対応)」か「反論する(逆ギレ)」か「無視する(聞いているふり)」というパターンが多いんです。

私も含め、実はちゃんと対話ができる男性は少ない。それが #MeTooに対する反応に表れていると私は思います。

――男性は、対話の相手として、女性のことを実は対等に思っていないかもしれない?

斉藤:それもあると思います。日本はまだまだ男性優位社会で男尊女卑の価値観が社会に根深く残っているので。

私はDVの加害者臨床にも15年以上携わっているのですが、自分より弱いと思ってる、目下だと思ってる相手から反論されたり、攻撃されたりすることに、すごく恐怖をかんじる男性が多いんですよね。

彼らは、その恐怖から自分を防衛するために、女性を殴る。

伊藤:アメリカとスウェーデンでも、それぞれまったく同じ話を聞きました。

「男の子だからしっかりしなさい」「男だから泣いちゃ駄目」と言われて育った男性は、孤立してしまいその結果、暴力性が生まれてしまうんだ、と。

斉藤:そういう刷り込みの中で育ってしまうと、弱さや恐怖を認める価値観が形成されないまま大人になってしまう。

DVの本質は実は加害者側の「恐怖」で、それを認めることが更生の鍵なんです。ただ、それは男性にとってはすごく苦しくてしんどい作業でもある。

Kaori Sasagawa

――もちろん誠実に対話できる男性もたくさんいると思います。ただ、夫婦や親子といった男女の関係性の中では、そういった旧来の価値観がダイレクトに表れてしまう部分も大きい。

斉藤:今回の#MeTooの男性の反応を見て私はそう感じました。

男性側が責任性を追及されても、そこから逃げずに受けとめて、前に進んでいく力。これこそが深い部分での共感でもあり、対話する力の本質であると考えています。しかし、それが全体的に弱い印象を受けます。

もっとオープンに被害を話し合っていこう

伊藤:私は、日本人がディスカッションに慣れていないことも関係している気がします。批判されたら、自分自身が否定されたと思ってしまう。

#MeTooについて男友達と話し合ったときも、すごく意見がすれ違ったんですよ。「これまでは合意だったのに、急にそうじゃないと言われても」「冤罪だってあるだろう」「男として生きづらくなる」と言われるたびに、「お前が#MeTooの声を上げたから」みたいに責められている気がしてしまって。

――時代も変わって、過去にはOKだったことが、今の基準では許されないケースも増えてきました。もしかしたら、過去の自分がアウトな行為をしていたかもしれない、という怖さがあるのかもしれません。

伊藤:今、斉藤先生のお話を聞いてそう思いました。加害側に立った過去があるから黙ってしまうのかな、って。

でも誰だってそうですよね。私だってこれまでにきっと、意図せずとも誰かを傷付けてきたことがあるはずだから。だからこそ、未来のためにこれからのスタンダードをつくっていこう。そういう思いで生まれたのが「#WeToo Japan」なんです。

セクハラやパワハラ、SOGIハラ、そういった一切の暴力を許さない「これから」を作っていくためのプラットフォームとして。

Kaori Sasagawa

――MeではなくWe、「私たち」みんなの問題として連帯していこう、ということですね。

伊藤:いろいろと話し合っていく中で、「きっと日本ではMe(私)は難しいんだね。じゃあWe(私たち)にしよう」となりました。

私たちみんなで助け合いながら、話し合いながら、聞き合いながら、少しずつでいいから前に進んでいけたら。もっと肩の力を抜いてオープンに話し合あっていきたいと思っています。

斉藤:他者との対話を積み重ねていくことで気づけることがたくさんあります。

私も加害者臨床家として、加害者と対話を続けていくことの重要性を改めて認識させられました。

私の仕事は、加害者の責任性を追及したり批判することではない。加害者の行動を、被害者の心情を反映させながら社会からこれ以上分断されないように変容させていくことです。

彼らの加害行為には共感できないけれども、変わっていくときに生じる痛みは尊重したい、そう思っています。

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"男女格差"は過去のもの? でも、世界のジェンダーギャップ指数で、日本は144カ国中114位です。

3月8日は国際女性デー。女性の生きづらい社会は男性も生きづらい。女性が生きやすい社会は、男性の生きやすい社会にもつながるはず。制度も生き方も、そういう視点でアップデートしていきたい。#女性のホンネ2018 でみなさんの考えやアイデアを聞かせてください。ハフポストも一緒に考えます。

(構成:阿部花恵 / 編集・撮影:笹川かおり)

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