共通番号法(マイナンバー法)は昨年の通常国会で成立したが、2016年からの利用開始に備えての準備は遅れていた。しかし、ここにきて規定類の整備に目途が立つなど、やっと動き出したようだ。特定個人情報保護委員会は、『特定個人情報保護に関する規則(案)』と『特定個人情報保護評価指針(案)』を公表し、3月5日に意見募集を開始した。内閣大臣官房番号制度担当室は2月24日に施行令(案)に関する意見募集を締め切ったが、これを受けて、近く施行令を閣議決定するとの報道が流れている。
僕が副委員長を務める情報通信政策フォーラム電子行政研究会では、共通番号法の衆議院通過の際に歓迎の声明を発表したが、その声明にも書いたように「各国に立ち遅れていたわが国の電子行政を前進させ、国民生活を向上させるための基盤として」マイナンバーが利用されていくことを強く期待する。
マイナンバーの利用範囲は、今のところ、社会保障・税・災害対策分野に限定されている。これは、マイナンバーをキーにしての個人情報漏えいを懸念した慎重論に配慮してのものである。しかし、この種の議論で保護だけを強調するのは間違っている。適切な保護と同時に利活用を進めない限り、国民生活を向上させる方向での電子行政の前進は期待できないからだ。
僕らの声明では「少子高齢化する社会で、健康・医療・介護サービスを効率よく提供していくには、共通番号を利用することが適切です。今後速やかに、健康・医療・介護分野に共通番号の利用範囲が拡大されるように期待します。」と、特に強調した。一方、厚生労働省は、2012年9月に『医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備の在り方に関する報告書』を公表して共通番号の利用に反対している。この報告書は、医療情報には個々人の機微に関する情報が含まれているため、マイナンバーとは異なる、医療等分野でのみ使える番号や安全で分散的な情報連携の基盤を設ける必要がある、としている。
マイナンバー制度は、多様な行政事務に同一の番号を用いるものではなく、個々の行政事務には個別の番号が付与され、それら個々の行政事務間をマイナンバーで紐付けする仕組みである。このようなセクトラル方式を採用し、かつ、紐付けシステムのセキュリティを高めておけば、個々の行政事務に関して情報漏えいが発生しても、他の行政事務に関する情報までは漏えいしないという、技術的な歯止めをかけることができる。特定個人情報保護委員会を設置したのは、制度的な歯止めである。マイナンバーシステムに相乗りすれば、マイナンバーと医療等IDという異なる二つの番号を持つわずらわしさから、国民は逃れることができる。
利活用の範囲拡大に向けて機運を盛り上げるため、僕らは二つの会合を計画している。3月14日には、電子行政研究会が『共通番号制度の可能性と個人情報保護』セミナーを開催する。共通番号制度における保護と利活用のバランスを焦点に、柴山昌彦衆議院議員(衆議院内閣常任委員長・前総務副大臣)に総括講演をお願いした。
3月19日には、本丸の健康・医療・介護分野での利活用を真正面から取り上げて、シンポジウム『超高齢社会におけるICT活用』を開催する。西山正徳元厚生労働省健康局長に「高齢化とICT活用の未来」と題する基調講演をしていただく。今後について議論を深めたいと考えているので、マイナンバーの利活用に慎重な人々もぜひ参加して欲しいものだ。