東京都福生市にある「YSCグローバル・スクール(子ども日本語教室)」。
外国から日本にやってきた子どもたちの日本語を学ぶ環境が国の制度が今年度春から変わったことで課題が浮き彫りになっている。
現場で支援活動を続ける田中宝紀(いき)さんに8bitNewsが聞いた。
東京の日本語を母語としない子どもたち15名に、専門家による日本語教育を無償で提供したい!
田中さんたちは、2010年から東京都福生市やその周辺に暮らす外国にルーツを持つ子どもたちに、専門家による日本語教育や学校の勉強を理解するための教科学習支援を行っている。
こうした子供達への教育は、昨年度までは、文部科学省からの委託事業として行っていたため、十分な予算の下で運営することができていたが、今年度はこの事業が打ち切られ、支援プログラムの全面有料化に踏み切らざるを得なかったという。
対象としていた子どもたちのうち、外国人ひとり親家庭や困窮世帯の子どもたちにとっては費用負担が重くのしかかることになった。こうした状況の子どもたちは30%以上にのぼる。
田中さんたちが支援の対象としてきた、東京の西多摩地域に暮らす外国にルーツを持つ子どもたちの数は、外国籍の子どもだけでも約1,000人。日本国籍を持つ外国につながる子どもや西多摩地域隣接エリアに住む子どもたちを含めると、まだまだ支援を必要としている子どもたちはたくさんいる、と田中さんは語る。
■文部科学省はなぜ制度を変えたのか?
田中さん達が昨年度まで文科省から受託していた「定住外国人の子どもの就学支援事業(通称:虹の架け橋教室事業)」は、2009年から実施された事業だ。当時、リーマンショックの影響で、自動車産業を中心に製造業に就労していた日系ブラジル人が大量に派遣切りに遭い収入が激減。子供を通わせていたブラジル人学校の月謝を支払うことができなくなるケースが相次いだため、3年間の時限付きで国がこうした子供達の教育費を基金で賄う取り組みがこの「虹の架け橋教育事業」だった。
その後、日系ブラジル人だけではなく、不就学や不登校に苦しむ子ども達の就学や復学をサポートする枠組みへと拡大し、事業が2014年度まで延長され実施されることになった。
しかし、ここ数年でリーマンショック後の経済危機の余波が薄れ、景気回復がいわれるようになり文科省は「虹の架け橋教育事業」の2015年度以降は継続しないことを決定。その代わりに「定住外国人の子どもの就学促進事業」を新設し、予算規模を約4分の1に圧縮。事業主体を地方自治体に移管。これまで国が10分の10拠出していた事業費は「地方自治体3分の2、国3分の1」の補助事業へと改められた。
田中さんの説明によると文科省のこうした判断は「地域ごとに異なる外国にルーツを持つ子どものニーズに、きめ細やかに対応するため」だというのが主な理由とのことだったが、実際には自治体側の理解ややる気に大きく左右される結果になっている。
田中さん達が運営する日本語教室のある福生市とその周辺ではやはり温度差が生じているのが現状で、同じ教室内でも住んでいる自治体が異なることによって補助を受けられる子どもと、受けられない子どもが出てしまった。
■ 現在、公立学校の37,000人が日本語指導を必要としている
田中さんたちは、こうした子どもたちへの無償授業を行う為独自で資金調達を計画。クラウドファンディングを使って15人分の資金集めを行ってきた。
田中さんたちの説明を引用すると、平成26年度の文科省の調査によれば、現在、全国の公立学校には外国籍児童生徒が約73,000人在籍。また、日本国籍の児童生徒を含む37,000人が、ほとんど日本語がわからない状態で、学校へ通わなくてはならない。
一方で、こうした日本語の力が不十分な子どもたちが適切な日本語教育を受けられる機会は地域格差が大きく、学校内で何らかの支援を受けている場合でも、担当者が子どもの日本語教育に関する知識をまったく持っていなかったり、ごく限られた時間数しか支援を受けられない場合が少なくないという。
田中さんたちは、専門的な言語教育を受けられないことで、会話はできても相手や自分の心の内側を理解するような深い思考を重ねることができず、アイデンティティを確立できずに社会からドロップアウトしてしまう可能性が高まり、日本社会にとってもリスクを増やすだけだと、こうした子供達への教育支援が不可欠だと強調している。
社会から見落とされがちなこの問題に、ぜひ、多くの人たちの関心が寄せられ、継続的な支援や抜本的な制度改革につながることを願う。