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2018年11月02日 16時03分 JST | 更新 2018年11月02日 16時03分 JST

避妊薬を使っても、「想定外の妊娠」が起きてしまうのはなぜ? 太平洋の小さな島で、目の当たりにしたリアル

妊婦さんの声を聞いてみたところ...。

太平洋にある人口27万人の小さな国・バヌアツを知っていますか。日本ではまだまだ馴染みのない国です。私はその国のクリニックで保健師として2年間働きました。そこで出会った患者さんのストーリーは、日本の常識からはみ出るようなことばかりでした。でも、恋愛をして、結婚して、家族が出来て、という過程は国が違っても、根本は同じです。

全10回の連載で、バヌアツのディープな性事情を紹介しながら、そこから見える日本の性や生きることを皆さんと考えていきたいと思っています。

私が活動していたバヌアツ家族計画協会のクリニックのサービスは、妊産婦検診、家族計画、性感染症の検査と治療です。その中でも一番のメインは家族計画、つまり避妊薬の処方です。

バヌアツで使える避妊薬の選択肢としては以下の6つがあります。

1.低用量ピル 

2.ホルモン注射剤 

3.皮下埋め込み式ホルモン剤

4.IUD(子宮内器具)

5.卵管結節

6.緊急避妊薬(アフターピル)

村での巡回診療の際に同僚が作成した教材。バヌアツで使用できる避妊薬を木の板に貼りつけて、実物を見せながら住民に説明します。

日本でも低用量ピル、IUD(子宮内器具)、卵管結節、緊急避妊薬は選択肢としてありますが、バヌアツではホルモン注射(3ヶ月おきの接種)と皮下埋め込み式のホルモン剤(5年または3年タイプ)も使用の認可が下りています。

薬は基本的に国際機関からの寄付であることが多く、一定の値段設定は決まっていません。クリニックや病院ではそれぞれの値段で販売しています。病院はどの方法にも関わらず一律で300円程度、配属先クリニックではピル1シート(1か月)200円、ホルモン注射600円、皮下埋め込み式やIUDは1000円、緊急避妊薬は500円という価格設定です。

バヌアツ人にとって避妊薬を買うことは金銭的負担なのか、否か?という点ですが...

バヌアツの物価は殆ど日本と一緒です。バスは1回の乗車で150円、500mlペットボトルのお水は1本70円、バヌアツ人がよくランチに使う定食屋さんは1食300~400円。

ピル1シート200円はそれほど高価ではないと感じます。(ただし首都限定です。村や島に行くと自給自足生活なので首都とは金銭感覚が異なります。)バヌアツで一番人気な避妊薬は「ホルモン剤注射」、次に「低用量ピル」です。

日本よりも避妊薬には色んな選択肢があるバヌアツ共和国ですが、国全体での避妊薬の普及率は40%前後。

なぜ避妊薬の使用が進まないのでしょうか?そもそもバヌアツで避妊薬は必要とされているのか?

私が感じた「バヌアツでの避妊薬が進まない4つの理由、、、」を紹介します。

村の10代の女の子達に集まってもらい避妊薬の説明をしました。

理由① 学校で性教育の授業がない、性に関しての知識がない

基本的な知識がないと、妊娠出産の仕組みが分からない、そして避妊薬の作用の仕組みも分からない。なので、クリニックに来る患者さん、特に若い女性や初めて避妊薬を使う人には、まず子宮がどこにあるのか、卵子とは何か、どうなったら妊娠するのか、、、とても基本的なところから説明を始めます。無闇に「避妊薬を使おう」というメッセージは、反って、患者さんの不安、避妊薬への誤解、間違った使用方法に繋がる、ということを感じました。

理由② 避妊薬を使うと妊娠出来なくなる、病気や癌になるという噂

避妊薬にはもちろん副作用もあります。彼らから一番多い訴えは、「避妊薬使ったら生理が来なくなった!身体の中に血が溜まって汚い!」という声。確かに生理がこなくなったり、少なくなったりします。ホルモン剤使用に伴うよくある副作用の一つです。しかし、バヌアツ人の多くが「生理がこない」=「妊娠している、又は身体に不潔なものが溜まって病気になる」という認識なので「生理がこない」ことに対する恐怖感は高いようです。その他にも、避妊薬を使うと「二度と子どもができない」「がんになる」という噂もたくさんの患者さんから聞きました。

理由③ 避妊薬を使うと不特定多数の人と性関係を持っても妊娠しないから、女性が他のパートナーと遊び歩くことを助長することになる

島への巡回診療に行った時に男性陣が上記のように言っていました。では、避妊薬を使わないならば男性がコンドームを使うのか、と云うとそうではなく、「夫婦だから避妊する必要はない」と。そもそも避妊が必要なのはなぜか、というところから、住民と医療者サイドでは価値観が違いました。

そんな声を聞きつつ、地方の村々を巡回診療していくと、自分の中にも葛藤が生まれました。「彼らに避妊薬を使う必要はそもそもあるのか。。。国際社会が「使え」と勝手に押し付けているのではないか。。。」

バヌアツでは、特定多数の人と性的関係を持つことさえ、おおらかに受け入れられている社会です。もし望まない形で子供が生まれても、大家族やコミュニティの中で衣食住に困ることなく子どもは育ちます。子どもの教育よりも日々を生きるサバイバル力が重視されます。

彼らの価値観を変え、避妊薬を使うことを正当化するためのロジックはどう正当化されるのか。

避妊薬を使うことは本当に彼らの為なのか、それとも私のような外人や医療者のエゴ、おせっかいなのか。

モヤモヤとしながら活動しつつ、最終的な私の気持ちの落としどころは「彼らに"避妊をする"という価値観、新しい選択肢を知ってもらう」ということにしました。いつか必要な時に、選択肢の一つとして彼らが使えるようになればいいのではないか、と。

理由④ 避妊薬を継続して使えない環境

バヌアツ人は「避妊薬をつかったことはある」のだけども、「継続して使えない」のが現実です。

活動先のクリニックの妊産婦検診対象者のデータを整理してみたとき、「今回の妊娠は計画外でした」と答えた妊婦のうち50%近くが「避妊薬を使用している、又はしていた」と答えていました。

なんで薬を使っているのに妊娠したの?薬を使っているんだから、妊娠をコントロールしていたんじゃないの?という疑問が沸きました。

そこで、妊婦さんの声を聞いてみたところ、、、

「使ってみたけど副作用が辛くて1回だけでやめた」

「ピルを飲んでいたんだけど、飲み間違えた」

「旦那に避妊薬を使っていることがバレてやめざるを得なかった」

「クリニック行ったら薬がないって言われたから諦めた」

 という様々な理由がありました。

バヌアツでは避妊薬を使い始めることは簡単に出来るようですが、自己判断で辞めたり、適切に内服出来なかったり、と「継続」することが難しい、ということを知りました。

患者側のコンプライアンスも問題ですが、クリニック側にも問題があることは確かです。実際に私の活動期間中にも、在庫管理ミスや資金難で輸入が間に合わず、ピルの在庫が2~3か月無くなっていたことがありました。

以上4つが、私が感じる「バヌアツで避妊薬の使用がなかなか進まない理由」でした。

村の巡回診療と言っても、村にたどり着くには苦労することが多いです。薬や診療器具、自分たちの宿泊に必要なものを担ぎつつ、プランテーションや川や森を移動して目的地を目指します。

それでは、日本の避妊薬事情はどうなのか?

ピルだと1シート(1ヶ月)は3000円前後。緊急避妊薬は種類により値段も違いますが、バヌアツで使用しているものは日本では保険適用外のため約15,000円!高い...!!

バヌアツのクリニックでは「アフターピル欲しいんだけど」って、気軽に来る患者さんにたくさん出会いました。時には自分は仕事の都合で行けないから家政婦や旦那を送り込んでくる常連者もいました。しかも、薬局でも購入できるので自己判断で内服出来ます。

手軽に安価に手に入るという一方、医療者としては自己判断で内服をすることに心配な点もあるのは事実です。

とにかく、日本とバヌアツの事情を見比べてみて感じたのは、日本でもバヌアツと同じく避妊薬が浸透していないということ。値段の高さも1つの理由でしょうけど、副作用が怖い、自然なままが一番という、何となく社会全体が「避妊薬」に対して懐疑的。そして学校や家庭での「性教育」はちゃんと役に立っているのか、現実的なことを教えられているのか、と個人的な疑問も浮かびます。

村人からの質問「どうやって妊娠するの?なんで双子が出来るの?」という質問に答えるため、即席教材を作成中。小さな女の子がお手伝いをしてくれました。

性教育が遅れている、という点はバヌアツも日本も共通することですが、バヌアツで驚いたのは、リアル「14歳の母」がたくさんいたこと。10代(15~19歳)の妊娠率は、バヌアツでは1000人に対して66人。日本は5人。こうやって比較すると日本の10代の妊娠がとても少ないことが分かるかと思います。

バヌアツの10代の女の子達の妊娠が、望んだ妊娠なのか、望まなかった妊娠なのか、という点は個別に異なりますが、妊産婦検診で出会った15歳の女の子は、超笑顔で「計画妊娠です!」と答えてくれました。

同僚に「15歳で計画妊娠って普通なの?」って聞いたら「あ~、親に交際を反対されていたりしても、子どもが出来れば認めざるを得ないからね~」と。

バヌアツ人の10代の女性達が「妊娠」して「出産」している現状を見て、全ての10代の妊娠が悪いのか?と考えると、「違うのではないか」と感じました。

確かに10代の妊娠は、出産だけでなく育児のことも含めて色んなリスクがあると言われています。社会的な背景も違うので、10代の妊娠をバヌアツと日本では同じように比較は出来ません。

しかし、バヌアツでは10代の女の子が出産したとしても、母親だけでなく、実母やコミュニティや社会のサポートを受けつつ、子ども達が育っています。

村に巡回診療に来ていることを聞いて徒歩1時間かけて診察に訪れた母子。

10代の妊娠を、性教育や避妊薬の普及で予防することも大切です。

でも、いくら予防しても「ゼロ」にするのは難しいと思うのです。

ならば、「10代の妊娠」があったとしても、どんなサポートがあれば日本でも母子ともに健康に過ごすことが出来るのか、それを考えるべきだとバヌアツの10代の妊婦さんとの出会いから感じました。