関西出身ライターによる「お国の言葉」絵本のススメ

両親が関西弁、でも子どもたちは標準語。ふとした時の寂しい気持ち。そんなジレンマを少しだけ緩和させてくれた出来事がありました。

両親が関西弁、でも子どもたちは標準語。ふとした時の寂しい気持ち

上京して今年で7年になります。夫婦揃って関西出身なのですが、子どもたちは標準語です。私たちも家では関西弁ですが仕事の時や外では標準語(のつもり)、普段はそんなこと全く気にしてないのですが、時々を思うことがあります。

帰省した時、お互いの実家に帰ると、数日で子どもたちはイントネーションや語尾がうつります。ただ、ネイティブから言わせると残念なことに、エセ関西弁で...... なんだかムズムズ(苦笑) 東京に住んでいるのですから当然のことですし、親の勝手でそんなこと言われても酷な話なのですが、毎日聞いてるはずの言葉でもこうもなるのか...... と。

それと少し寂しい時があります。怒った時やホッとした時など、自分の感情が溢れ出た時には、瞬発的に関西弁が出ます。 例えば、関西では子どものことを愛情込めて「あんた」と言ったり「あほ」と言ったりもします。可愛いさ余って「あんたあほやなぁ」とポツリ。でも子どもからは「あんたもあほも『本当は』言ったらいけないんだよ」との返し(苦笑) 

ニュアンスは伝わっているから、息子も「本当は」と付けているのですが。同じ境遇のママとこの話をしていたら「この前も自分の子に『えぇ加減に片付けんかったら、このおもちゃ全部ほるで!!』って怒っても、ほる(=捨てる)の意味が通じなかった」と。

このジレンマって関西弁のみならず、ほかの地方出身のパパやママの中でもありませんか? ふとした時、自分の故郷の言葉が伝わらない時の寂しさって。

絵本がきっかけで...... 子どもたちの関西弁が上達?

そんなジレンマを少しだけ緩和させてくれた出来事がありました。

息子が幼稚園から関西弁の絵本を借りてきたのです。最初は長谷川義史さんの「はいチーズ」(絵本館)でした。ご存知、大阪在住の大人気絵本作家です。「面白いんだよこの絵本。お母さん読んで!」と持ってきました。いつも読み聞かせはしていますが、関西弁の絵本は初めて。

いざ読んでみると、イントネーションやらスピード感やら行間やら、そして絵から滲み出てくる空気まで...... 何から何までコッテコテの関西弁。読み進めてみると、妙に拍車がかかって気持ちよく読め自分でもびっくり!

子どもにも大好評で、何度も読んで聞かせました。

字もそんなに読めない頃からよく嗅ぎ分けてきたな、と不思議に思うのですが、その後も関西弁の絵本を度々借りてきました。

「ぼちぼちいこか」(偕成社)これはマイク・セイラーというアメリカ人作家の絵本なのですが、邦訳が今江祥智さん。これまた一言ひと言がとってもあったかい、えぇ関西弁なのです。英語だと逆にどう書いてあるのか疑問に思うほど、オチもあってぴったり。読んでいてほっこりしますし、子どももお気に入りの一冊に。

そしてきわめ付けが田島征彦さんの「じごくのそうべえ」(童心社)。きっかけは幼稚園の読み聞かせサークルで、年1回行うスライド上映する作品に選ばれたのです。桂米朝の上方落語を題材にした落語絵本で、古典的な関西弁。東京のお母さんたちで望むには結構ハードル高いな...... と思いきや、みんなの練習の成果あって大成功! 子どもたちにも迫力ある絵と関西弁のおもろい掛け合い(そして子どもたちが喜ぶ糞尿も出てきますので)で大爆笑でした。

その後もわが家で大ブームとなりそうべえシリーズで購入。毎晩読み聞かせしているうちに覚え、地獄やら閻魔さんやらで怖がっていた3歳の息子もそらで言うようになりました。それが今までにないぐらい流暢な関西弁でびっくり! 

台詞だから入りやすかったのでしょうね。「ここ、どこやろか。死んでしもたんや」イントネーションも完璧で、兄弟で上手に諳んじています。だからと言って、普段話す言葉が関西弁になるか、と言うと全くそうではないですが、少し上手になったのと、ブツブツ呟いている関西弁を聞いて何だか嬉しくなるのでした。

子育てにおいて方言を使うよさって何?

とりとめもない話ですみません。何が言いたいかと言うと、関西弁だろうとどこの方言だろうと、幼少期に聞いていた・話していた言葉って、自分の根っこの部分に残ると思うのです。しばらく離れていたとしてもスッと戻れる、そして何だか安心する音の響きやテンポになるのだと思います。

だから私も関西弁の絵本に出会った時、自分でもびっくりするぐらい気持ちよく読み聞かせできたのでしょう。これが私にとって他の方言の絵本だとそうはいかないのですが、素でとらえられたのでしょうね。それにその土地の文化や出てくる世界観が「わかる」嬉しさも相まって、こんなにも心地よいものだとは思ってもみませんでした。そこは誇りを持って、大切にしたいと思うのです。だから息子たちにも関西弁も根っこの部分に一緒に残しておいてほしいなと思うのです(きっともう残っているとは思うのですが)。

時々「子どもが方言だと東京でいじめられるのでは」と心配して、家で方言を封印しているご家庭があると聞きます。実際に同郷の友人で、ご主人が東京の方だと「家で関西弁は話さないでほしい」と封印させられた場合もありました。

それぞれのご家庭の考え方ですが、放っておいても子どもは環境に柔軟ですし、勝手にその土地の言葉にスッと馴染みます。それに関西弁のみならず、いろんな地方の言葉がテレビで飛び交う時代です。(それこそ30年前、幼いころ東京に来て関西弁を話していると白い目で見られましたが)今は個性として受け入れられる時代です。それよりも自分は「素」で話せる言葉で子育てしたいし、それをもっと子どもたちと楽しみたいと思うのです。そしてその助けに絵本はとても役立ちますよ、ということ。

関西弁のみならず、他の方言でもたくさん絵本は出ています。言葉の楽しさももちろんですが、それぞれの土地の文化や風土なども伝わってくると思うので、一度試してみてください。関西出身の方・西の方には上記の作家さんの絵本オススメです! 普段なかなか読み聞かせまができないお父さんにもぜひ。得意の関西弁で読んであげたら、子どもたちもきっと大喜びですよ。

【ライター 飯田 りえ】

関西の女性誌編集部&MOOK編集部に勤務。とにかく自分で見て、歩いて、聞いて、食べて...リージョナル誌編集者として7年過ごす。その後、結婚を機に上京しフリーに。雑誌、WEBを中心に幅広く執筆中。6歳3歳の男子に振り回されながらも「成長を見届けながらしっかり育児を楽しみたい!」と日々アクティブに活動中。

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