新専門医制度が迷走している。今回も、このことを論じたい。
6月7日、塩崎恭久厚労大臣は新専門医制度への懸念を表明し、プロフェッショナル・オートノミーの下、医師がお互いの立場を超えて話し合い、国民のニーズに応えるシステムを構築するように要請した。
このメッセージは、専門医認定機構の幹部だけでなく、「実質的に彼らと「共謀」している医系技官(厚労省幹部)」への批判だった。
なぜなら、新専門医制度は、医学界の幹部と厚労省が二人三脚で推し進めたものだからだ。
医系技官と専門医認定機構の「共謀」のポイントは、専門医資格と処方権の連動だ。イレッサ薬害事件以降、厚労省は一部の薬剤の処方を学会が認定する専門医に限定してきた。例えば、話題のオプジーボが処方できるのは、皮膚悪性腫瘍指導専門医やがん薬物療法専門医が在籍する施設だけだ。
今後、特定の診療行為を専門医に限定する規制は益々強化されるだろう。厚労省、学会の何れにも都合がいいからだ。
厚労省にとっては、医療統制に使える手段が増える。
学会にとっては、新たな利権の創出だ。専門医資格の有無が、病院収入に直結するため、若い医師が就職する際には専門医資格が必須となる。学会は何もしなくても、会員が増え、会費収入が入ってくる。
日本外科学会などの「腐敗」は、さまざまなメディアで批判されている。
また、「スタンプラリー」を求め会員が長蛇の列をなす光景が、いまやありふれた光景だ。専門医資格を更新するために、学会に参加した証の判子だけもらい、帰ってしまう。何のための学会かわからない。
日本は法治国家だ。こんなメチャクチャなことは法的に出来ないようになっている。厚労省と専門医認定機構は、法律を無視して横車を押したことになる。
例えば、この制度が運用されれば、全ての後期研修医が三十代半ばまで、強制的に有期雇用の非正規職員になるしかない。
また、直接、労働契約を結ばない専門医認定機構が「カリキュラム」を通じて、若手医師の職場や居住地域を決めてしまう。憲法違反の可能性が高い。
新専門医制度は、派遣法にも違反する。学会は人材派遣業者ではない。それなのに、新専門医制度では、若手医師を拠点病院・連携病院などに強制的に異動させる。
もし、合法的にやろうとすれば、全ての若手医師を基幹病院が雇用し、協力病院には「研修」の名目で派遣するしかない。その場合、人件費、保険、年金は基幹病院が負担する。基幹病院の経営戦略上、これでいいのだろうか。
かくの如く、新専門医制度を巡る議論は杜撰だ。指導者の未熟さを反映しているのだろう。
厚労省と任意団体が協力し、独占的な権限をもつことは、全体主義的な社会システムであり、不埒な指導者が出てくれば容易に暴走する。民主主義の対極だ。このようなシステムを避けることこそ、二十世紀の教訓だ。
いまこそ、学会は、その本義に立ち返って議論したらどうだろう。学会の本来の目的は会員の交流だ。近年、IT技術が進化し、会員の交流は容易になった。
学術誌も増えた。論文を発表する際にも、わざわざインパクトファクターの低い日本の学会誌に投稿する必要はない。従来型の日本の学会モデルが通用しなくなっている。学会は変わらねばならない。
ところが、彼らがとった対応は不誠実だった。専門医資格で若者を縛り付けようとした。医療現場への統制を強めたい医系技官と思惑が一致し、事態はこじれた。
こんなことをしていたら、わが国の学会に将来はない。どうすれば、会員の情報交換を活発にできるかを考えるべきだ。おそらく、徹底した情報開示と、権威勾配のない自由な議論の場の提供だ。
* 本稿は『医療タイムス』の連載を加筆修正したものです。