貧困は病だ 1

貧困は世代を超えて連鎖すると言われています。収入の少ない家庭で育った子どもは、十分な教育を受ける機会に恵まれず、結果として収入の高い職に就くこともできません。

日本が抱える"貧困"は、既に子どもたちの健康に影響を及ぼす所まで進んでいる

年明け早々から開かれている通常国会で、"子どもの貧困に対する新しい政策"が議論されています。日本の"貧困"は、既に国全体で考えるべきレベルの問題となっており、特に子どもたちの"貧困"は、その健康に悪影響を与える所まで来ているのです。

日本なのに"貧困"?

日本は、世界の中では比較的豊かな国であるという印象があるかもしれません。2014年の日本のGDP(国民総生産)は460兆円を超え、アメリカ・中国に次いで第3位です。携帯電話の普及率が100%を超えるなど物質的に豊かな国であり、さらに世界一の長寿国でもあります。

しかしその一方、同じ2014年の統計で、日本の"貧困率"は16.0%を超えており、OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国で10番目に高くなっています。さらに「子どもがいる世帯のうち、大人が1人の世帯」だけで見ると、"貧困率"はなんと50.8%。OECD平均の31.0%をはるかに上回っており、OECDのワースト1位です。

つまり日本という国は、「世界で3番目に経済力があるにも関わらず、およそ6人に1人は"貧困"」であり、さらに「子どもがいる1人親世帯の"貧困率"は半数を超えている」というのが現実なのです。

"貧困"は連鎖し、健康に悪影響を及ぼす

一般に、"貧困"は世代を超えて連鎖すると言われています。収入の少ない家庭で育った子どもは、十分な教育を受ける機会に恵まれず、結果として収入の高い職に就くこともできません(図参照)。

それだけでなく、ここ数年の様々な研究により、"貧困"と健康との関係も明らかになってきました。

昨年の記事で、米国での研究結果をご紹介しました。日本でも同様の傾向を示すデータが出始めています。

厚生労働省が公表した「平成26年国民健康・栄養調査結果の概要」によると、世帯収入が低いほど、穀類は食べるが野菜や肉は食べない、運動習慣が少ない、喫煙者が多い、肥満の割合が高い、歯の本数が少ない、という傾向が見られています。これは、世帯収入が600万円以上の世帯と、200万円未満の世帯で比較した、あくまで傾向ではありますが、この状態が続くと、子どもたちの健康に関して、次のような流れの起きることが予測できます(図参照)

収入・学歴の低い家庭に育った子どもは、健康的な食習慣を身に着けることが難しく、将来的に生活習慣病を発症しやすい状況に置かれることになります。空腹を満たすことはできても、健康な体を作るために必要な栄養素を摂ることができないのです。それはまた"貧困"からの脱出を困難にすることでしょう。

悪影響は妊娠中から

厚生労働省の調査によると、日本の出生数はここ数年横ばいの一方、2,500g未満で生まれる「低出生体重児」の割合が年々増加傾向にあります。何らかの原因で、きちんと母体の胎内で成長できずに生まれてくる子どもたちが増えているのです。

その要因は色々あるようですが、最近注目されているのが、多胎妊娠、妊娠前の母親の痩せ、低栄養、妊娠中の体重増加抑制、喫煙などの因子です。

中でも注目すべきなのが低栄養。近年の欧米などでの疫学研究から「妊娠中に低栄養にさらされて発育不全で生まれた子どもは、その栄養状態に適応してしまい、エネルギーを倹約する体質を持つ」と考えられています。

つまり少ない栄養で育つことを身体が覚えてしまい、他人と同じような栄養を摂った場合には摂り過ぎとなるため、他人よりも早くメタボリックシンドロームや循環器疾患をひき起こすのではないか、と懸念されているのです。

もう一度、「国民健康・栄養調査」を思い出してみてください。世帯収入が低いほど、穀類は食べるが野菜や肉は食べない、運動習慣が少ない、喫煙者が多い、肥満の割合が高い、歯の本数が少ないという傾向が見られています。

つまり、"貧困"であるがゆえに健全な食習慣を身に着けられていない人たちが妊娠したら......妊婦さんであるにも関わらず健全な食生活による「十分な栄養」を摂ることができず、加えて喫煙などの影響もあり、発育不全で不健康になりやすい子どもが生まれる可能性は高くなるのです。その子どもたちが、生まれてからも不健康になりやすい食生活を送るのだとしたら、"貧困"から抜け出すなんて不可能に近いことでしょう。

当人に責任は全くないのに社会的に不利な状態に置かれてしまうという意味で、子どもの貧困は"病"と捉えてもおかしくない問題です。そして、その"病"を防ぐには、どこかで"貧困"の連鎖を断ち切らなければなりません。国として、地域として、私たち大人がきちんと考えていくべき問題です。だからこそ、今、国を挙げて対策を講じようという動きが出てきているのです。

これからしばらく、この子どもの貧困について報告していきます。

元看護師ライター 葛西みゆき

参考資料

内閣府 子どもの貧困対策に関する検討会について(第3回資料)

厚生労働省社会・援護局 生活保護受給者の健康管理に関する研究会 2014年10月6日

法政大学 大原社会問題研究所 大原社会問題研究所雑誌 657号 2013年7月号(6月25日発行)

診断と治療社 チャイルドヘルス Vol.18 No.3 連載「子どもの貧困」第1回 なぜ豊かな日本で子どもの貧困が問題なのか?

(2016年1月20日「ロバスト・ヘルス」より転載)

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