道半ばのミレニアム開発目標
2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」。2016年からの15年間で国際社会が達成すべき17の目標と、それを実現するための169のターゲットを掲げています。
SDGsの特徴の一つとして、ジェンダー平等やすべての人の健康の増進など、女性のエンパワーメントを意識した記述が多いことが挙げられます。例えば、目標3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を増進する」、目標5は「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」とあります。このような目標が明言されるのは歓迎すべきことです。しかしこれは、2000年からの15年間で達成すべき8の目標を掲げた「ミレニアム開発目標(MDGs)」でさえ、今なお未達成であることを反映してもいます。
出産したばかりのザンビアの母と子=2013年 ©JOICFP
達成できなかった「妊産婦の健康の改善」
その一つが妊産婦の健康の改善です。MDGsでは「2015年までに妊産婦の死亡率を1990年の水準の4分の1に削減する」ことを目標としました。2015年7月発表の「ミレニアム開発目標(MDGs)報告2015」によると、世界全体で1990年では出生10万人あたり380人だった妊産婦死亡率は、2013年には同210人となり、45%減少しました。それでも年に28万9000人が妊娠・出産が原因で命を落としており、目標である4分の1の水準、つまり、出生10万人あたり95人未満には、はるか及びません。
また、2015年11月にWHOなどが発表した「妊産婦死亡の動向:1990‐2015」は、妊産婦死亡数は年に30万3000人、つまり、世界で1日あたり830人の妊産婦が死亡していると報告しています。MDGs最終年である2015年になっても目標達成に遠く及ばないのです。
このような状況の中、SDGsでは「2030年までに妊産婦死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する」と、目標の数値をより高く掲げました。達成には国際社会の強い実行力が求められます。
紛争や災害、妊産婦の健康を直撃
なぜ、妊産婦死亡率は改善しにくいのでしょうか?WHOなどは、紛争・紛争後や災害の状況は、特に妊産婦死亡率の改善を妨げるとしています。このような不安定な状況では、保健システムは大きく破壊されるからです。国連人口基金(UNFPA)の「世界人口白書2015」でも、妊産婦死亡の5分の3は、自然災害や紛争下で起きているとしています。
実際に、IPPF(国際家族計画連盟)アラブ世界地域事務局によると、シリア危機では、医療施設などのインフラの破壊や、治安と暴力の問題などにより、シリアの妊産婦死亡率は2010年に比べて2013年に大幅に悪化しました。また、妊産婦死亡率が出生10万人当たり500を超える国20カ国すべてがサハラ以南のアフリカというのも見過ごせません。この地域、特に地方では、アクセス可能な医療施設が自宅近くにないため産前健診を受診できなかったり、専門技能者の立会いがない中での出産が多かったりという現実が数多くあります。
診療を待つネパール大地震の被災女性たち=2015年 ©JOICFP
教育や就業の機会も奪われる
妊娠・出産では健康上の問題以外にも、早婚により学校中退を余儀なくされるなど教育の機会を奪われたり、家事・子育ての負担が女性だけにかかるため、就業の機会を阻害されたりすることがあります。家庭内暴力の問題も深刻です。妊娠・出産をはじめとした「性と生殖に関する健康と権利」(セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を促進し、守ることは妊産婦死亡率の改善のみならず、教育の機会の確保、栄養状態の改善、経済活動への参加など、多くのSDGsの目標達成につながっていくのです。
日本でも、「セクハラ」「マタハラ」の問題や、結婚ができる年齢の男女差や夫婦同姓を義務づけた民法上の規定、女性国会議員の少なさなど、ジェンダーに関する課題が少なくありません。開発途上国への協力だけでなく、主体的な問題解決の姿勢が必要です。
アドボカシーグループ プログラムオフィサー
宮地佳那子