前回、女性活用について書き、その中で、求められる能力と、仕事セーブ要因で女性を分けて考えたマトリックス(以降、働き方マトリックス)について、「これは女性に限った話ではない」とのコメントを多くいただきました。まさに皆様にいただいたコメントどおり、です。今回はこの点について、続きを書いていこうと思います。
■高付加価値×仕事セーブ要因ありの人たちへの対応がカギ
今後の働き方を改善していくには、働き方マトリックスにおいて「高付加価値x仕事セーブ要因あり」に分類される人への対策が鍵だと考えています。このカテゴリーの人の活性化のポテンシャルが大きいことだけでなく、「ルーティン×仕事セーブ要因あり」の人のモチベーションアップにつながること、「高付加価値×仕事セーブ要因なし」の人に精神的な余裕をもたらすという面もあるからです。
今回の記事では、話が発散しないように「高付加価値×仕事セーブ要因あり」に分類される人を念頭に書きたいと思います。仕事セーブ要因がある人に対する対策としては、育児休暇や保育施設等「サポートする仕組み」についての議論が非常に活発に行われています。私もこういう仕組みは大切だと思いますが、それに加え(またはそれ以上に)「仕事の評価」が大事だと考えています。
日本における評価でよく言われることは、「超長期にわたる、労働時間等の仕事へのインプット量」や、「組織・上司への忠誠心」をベースにしている、ということです。これは需要不足型経済において、製造業中心のキャッチアップ型成長を終身雇用制度のもとで実現する際には、非常によく機能しました。
しかしながら、終身雇用制度が変容し、製造業からサービス業中心となった現在、これらの前提条件は全て根底から変化してしまっています。さらに、特に今回議論の対象にしている仕事セーブ要因を抱える人たちは、そもそも従来の働き方モデルでは主要な働き手としては認識されていなかった側面があります。したがって、仕事の評価軸や仕組みを新しい環境に見合った形に作り変えることが喫緊の課題です。具体的には、以下の3点が重要だと考えます。
(1)「決められた時間の中で最大の効果を上げる」仕事を評価する
(2) 「この人にしかわからない」仕事をつくらない
(3) 「一定期間内のチームへの貢献」を正当に評価する
以下順番に見ていきます。
■(1)「決められた時間の中で最大の効果を上げる」仕事を評価する
これまで、日本では主に労働時間、つまり仕事への「インプット量」で評価される傾向がありました。これが産業のサービス化に伴い「アウトプット」で評価されるべきという議論もしきりにされています。しかし、仕事セーブ要因のある人たちを活用するためには、いかに「決められた時間の中で」最大の効果を上げたかを評価することが必要です。言い換えれば、絶対量ではなく、効率性を重視するということです。
仕事セーブ要因、といえば、今は待機児童問題からもわかるように育児が大きくクローズアップされがちです。しかし、今後は高齢化が進み、医療も進んでくることから、介護をしながら、あるいは病気と付き合いながら仕事をするケースの方がずっと多くなります。さらに男性の生涯未婚率も上昇傾向にある(「20~44歳の年齢別未婚率の推移(1950年~2005年)男性」2010年国勢調査より)ことから、男女問わず、自分の親の介護に直面するケースが増えてくることが想定されます。
その結果、いかに定時までに、あるいは時短勤務の中で仕事を仕上げて、しかもクオリティを落とさずにできるかということを徹底して考えてから仕事に取り組むことが求められるようになってくるのです。決められた時間の中で最大のパフォーマンスを出せる人がもっとも組織に貢献する人として評価されるような仕組みを導入することが強く求められます。
■(2)「この人にしかわからない」仕事をつくらない
仕事セーブ要因がある人たちを活用する際にもう一つ念頭におく必要があるのは、「特定の個人に依存する仕事を極力つくらない」ということです。
育児や介護といった仕事セーブ要因というのは、事前にその予定を計画するのが難しいものです。一方で、会社全体としては、社員の個人的事情により顧客に迷惑をかけることはあってはなりません。これを満たすためには、仕事を出来るだけ標準化すること、常に業務進捗状況を「見える化」しておくこと、業務引継ぎをきっちり行う等、仕事のやり方を確立することが求められます。個人に依存した仕事の仕方ではなく、組織として結果を残すことにどのように貢献したか、ということが重要になるのです。
したがって、これからは長時間頑張った(頑張ることができる環境にあった)人だけが評価されるのではなく、「組織としての仕事ができることにどれだけ協力したか」がもっと評価されなくてはなりません。そのための仕組みづくりや仕事の仕方を工夫する、という行為がもっと評価されれば、柔軟な働き方もしやすくなってくるはずです。
こうした仕組みを実現することは、人数の少ない中で仕事を回している中小企業にとってはきついことです。ましてや私のような個人事業主にとっては「いったいどうしろと?」といわれてもおかしくない提言かもしれません。しかし、介護で仕方なく、あるいは病気の治療でどうしても欠席、という事態に柔軟に対応していく未来は、間違いなく多くの働く人たちに訪れます。知恵を絞り、複数の担当者で仕事に当たることができる仕組みを作っておくことが、「案件そのものの中止、あるいはペンディング」という最大のリスクを回避でき、信頼される仕事につながるといえます。
■(3) 「一定期間内のチームへの貢献」を正当に評価する
これまで日本の多くの組織では、業務上の貢献を、超長期にわたり評価してきました。しかし、働き方が多様化した今、特に仕事セーブ要因がある人たちを活用するためには、短期の期間内の成果を正当に評価していくことが重要です。
たとえば、一人ひとりの職務を明確にし、その職務での評価軸を作成、社内コンセンサス(同意)を得て運用する、というのも一案です。売上目標を達成したか、チームをまとめてメンバーが成果を出せたか、コンプライアンスを遵守したか、等の評価項目を作り、それぞれについて5段階評価するなどして評価を実施します。また、仕事セーブ要因がある人は、チーム全体の仕事の一部を担うことが多いと思われますので、その成果は直接の上司だけでなく、チームメンバーから多面的に評価してもらうような考慮も必要です。
現在の長時間労働が評価される状況は今しばらく続くかもしれません。しかし、こうした組織の一員としての仕事ができる人たちを評価しようという目を私たち一人ひとりが持つことが、仕事セーブ要因をもつ人が増え「人が足りない」状況が生まれてくるこれからの時代には必要になるのではないでしょうか。
働き方については以下の記事も参考にして下さい。
■至上最恐のクライアント?!OfficeCOMブログ
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOMブログ
■結局「女性活用」って何すればいいの? 小紫恵美子
■女性が経営者にむいている理由 小紫恵美子
■事業は永遠に生き続けられるか?~大事な事業を確実に引き継ぐためには 小紫恵美子
ここまで、仕事セーブ要因がある人たちを活用するための施策を考えてきましたが、これらは、それ以外の人たちを活用するためにも有効なのでは、と考えます。
小紫恵美子 中所企業診断士