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2016年04月07日 18時08分 JST | 更新 2017年04月06日 18時12分 JST

「安倍首相は現実主義者だ」(上)  古谷経衡氏に聞く

2016-02-23-1456217311-2962687-logo.png朝日新聞社の言論サイトである「WEBRONZA」は今を読み解き、明日を考えるための知的材料を提供する「多様な言論の広場(プラットフォーム)」です。「民主主義をつくる」というテーマのもと、デモクラシーをめぐる対談やインタビューなどの様々な原稿とともに、「女性の『自分らしさ』と『生きやすさ』を考える」イベントも展開していきます。

特定秘密保護法や安保法制など、国論が分かれる政策を進めながら、底堅い支持率を維持している第2次安倍政権。ネット右翼などに詳しい著述家の古谷経衡氏に、安倍首相の実像や日本の大衆について持論を語ってもらった(聞き手は川本裕司・朝日新聞記者)。

古谷経衡 ふるや・つねひら 1982年、札幌市まれ。立命館大卒。インターネットや歴史、社会、若者などについて執筆。TOKOYOFM「タイムライン」パーソナリティー。著書に「右翼も左翼もウソばかり」(新潮新書)、「ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか」(コア新書)など多数。

聞き手:川本裕司 かわもと・ひろし 1959年生まれ。学芸部、社会部、編集委員などを経て、オピニオン編集部。

自民党の支持層が変わってきた

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古谷経衡さん

――安倍晋三政権になってから3年余り、内閣支持率がおおむね40%を超えて安定しています。理由はどこにあるのでしょうか。

「安保法制が成立した昨年秋に支持率が下がりましたが、また戻りました。閣僚の失言などで少し下がることがあっても誤差の範囲内です。理由は、自民党の支持層が変わってきたからではないでしょうか。90年代までは、土建、農林水産、運送、郵便といった職能団体に支えられてきたのですが、ゼロ年代以降は大都市部に住む、それまでの職能団体とは無関係の無党派的中産階級から支持を集めるようになっています」

「例えばそれは、構造改革を訴えた大阪市の橋下徹前市長が好きなような、貧困とは遠い層です。自民党は小泉内閣を経て、明らかに職能団体に依存した地方型の政党から、職能団体とは無縁の都市型の政党になったといえます。

小泉元首相は、自民党の有力な集票団体だった特定郵便局長会(全特・当時)を切り捨てても衆院選で大勝しました。職能団体を通じた投票行動は、戦後日本に特有の〝職能を通じた民主主義〟でしたが、その前提を支える終身雇用が崩れ、非正規雇用も増大したために職能団体の権勢が低下し、そういった団体をあてにする必要性も低下したのです」

「基本的にこの路線を第2次安倍政権も継承していますので、90年代以前の自民党では考えられないような〝TPP(環太平洋経済連携協定)交渉〟なども平然と進めます。農協という職能団体からの票が離れたとしても、自民党は大都市部の無党派・中産階級から支持されると確信があるので、こういった政策にでるわけです。〝打って出る攻めの政策〟〝成長戦略〟〝第三の矢〟、所謂〝既得権〟を持つとされる従来の職能団体からは嫌われますが、〝改革〟を是とする都市部の無党派にはウケます」

中高年層・大都市部在住・中産階級が支持している

――支持基盤が変わってきたという指摘ですが、安倍政権の政策の評価はどうでしょうか。

「株価が民主党政権時代よりもはるかに高くなっているのは客観的な事実で、失業率も改善されています。これは素直に評価してよいと思います。安倍政権の支持層の中核である都市部の中産階級は、いわゆる『格差社会』や『長期デフレ』でそれほどダメージを受けておらず、消費税が上がっても『自分で頑張れば良い』という自力救済型のポジティブ・シンキングの人々が多いのでしょう」

「なぜなら彼らは、景気が良かった時代に企業内で地位を築いたり、いまよりもずっと経済環境の良かった時代に起業して成功している人々だからです。よって安倍政権の支持層は、若者ではなく30代なかばから40代以上~70代くらいまでの中高年層・大都市部在住・中産階級が多い。

この傾向は『ネット保守(ネット右翼とも)』とも言われる人々の類型とも一部重なります。深刻なデフレ不況の影響を受けている若年層は、学生団体『SEALDs』に代表されるように決して安倍政権に親和的ではないのがその証拠の一つでしょう」

「貧困や不況とは縁遠い、都市部の裕福な『プチ富裕層』が安倍政権支持者の中枢です。私自身、安倍首相をおおむね支持しておりますが、若い頃から独力で仕事をやってきた、という自負があります。だから、安倍首相や自民党支持者の多くが生活保護や社会的弱者への再分配には厳しい視線を向けます。自分たちは頑張ってきたのに、国家や社会に甘えるとは何事か、という理屈です。

実際には時代状況や運、親の資産がそうさせているだけなのに、それが〝自分の実力〟と思っている人も多いことでしょう。貧困や格差から遠いので、そういう発想になります。逆に言えば〝格差社会〟のある種の〝勝ち組〟が安倍首相の支持層、ということもできます」

週刊誌報道に対する〝耐性〟が出来た

――約1年間と短命で終わった第1次政権の教訓を踏まえているのでしょうか。

「いま思いますと、第1次政権で失速したきっかけは、郵政造反組の復党を認めたことでした。小泉路線を継承しなかったのが失敗だったと受け止められたのです。当時の報道の言葉を借りれば『後退する改革』。そこで第2次政権では、前述したTPPに調印し、農協改革もやる、岩盤規制も突き崩す、といった大都市部の"非職能団体民"に支持される政策をとっています。

これは率直に第1次政権の反省という部分もあり、更には小泉から継続されている清和会的な潮流を受け継いでいるとみれば、安倍首相がもともと持っていた性質、という風にも見えます。正社員を既得権益だと言って批判している竹中平蔵氏を実質的ブレーンに迎えているわけですから、"元来の性質"である観は否めません」

――甘利明経済再生担当相があっせん疑惑のスキャンダルで辞任したあと、支持率が上がるという現象が起こりました。

「甘利さんの人間性やテディベアに似た外見が少し影響したのかもしれません。第1次政権時に辞めた松岡利勝農水相や赤城徳彦農水相のときに比べれば、同情を誘うような辞任会見に映りました。週刊文春のスクープがきっかけでしたが、逆に文春が芸能人や議員の不倫疑惑といったスクープを毎週のように報じて、甘利さんの問題もそのネタの一つという形で相対化され薄まったような印象があります。週刊誌報道により世論が沸騰するというのが、毎週毎月のように続いているので、〝耐性〟が出来てしまったのでしょう。新聞や他の週刊誌が第一報として甘利さんの疑惑を報じていれば、もっとダメージがあったように思います」

――一強多弱といわれ、野党への支持が増えない理由は何でしょうか。

「麻生太郎政権は『アニメの殿堂を造る』などと言っていたのが象徴でしたが、旧来型の自民党バラマキ政治、ハコモノ政策と映り、小泉改革路線が継承されていない、と国民に受け止められたように思います。政権交代を一度してみようという空気もあり、民主党に改革路線を期待したのですが、八ツ場ダムの建設中止などが実現せず、あるいは『事業仕分け』など改革するべき対象のピントがずれ、既得権益を崩せずに失望を生みました」

「かつてのスペイン人民戦線は、スペイン内戦時代に『反フランコ』の一点でアメリカ人作家のヘミングウェーからソ連軍事顧問団まで連帯しましたが、結果は敗北でした。

現在、野党が反安倍政権を旗印に手を結んでも選挙対策であることは明白。民主党が民進党に名を変え、生活の党や共産党も合流や協力姿勢を見せていますが、そもそも政策がバラバラなのに『反安倍』の一点で集結していても人民戦線の二の舞いになるのは火を見るよりも明らかです。世論調査でも『期待しない』という人が多くなっているじゃないですか。理念なき集結では、結果、野党は負けが必定でありましょう」

「独裁者」批判は根拠が薄弱だ

――野党側の戦術が下手ということでしょうか。

「リベラルは、安倍首相に対して『独裁者だ』と攻撃しますが、根拠が薄弱です。実際には安倍さんはイスラエルで昨年1月、『ホロコーストを二度と繰り返してはならない』と発言しました。公式な発言の限りにおいては、安倍首相は『戦後民主主義』を肯定しております。成蹊学園で内部進学してきた温和な首相が、独裁者になるとは思いません」

「あるいは北朝鮮のミサイル発射(テポドンショック)や拉致問題、核の脅威、尖閣諸島での中国漁船衝突事件、韓国大統領の竹島上陸といった出来事がたてつづけに起こり、リアルな現実世界で、日本人の外交安保に関する皮膚感覚が変わっています。安倍首相に言われなくても危機感を持ったのだと考えます。だからこうした潮流は安倍首相が先導しているのではなく、どちらかと言えば『下から』の変動でしょう。

リベラルが『安倍首相にだまされている』というストーリーにもっていこうとするのは、換言すれば日本人には自主性・判断力がないといっているのに等しく、さすがにそれは日本人を愚民視しすぎと考えます」(続く)

2016-02-23-1456217138-8420084-logo.pngWEBRONZAは、特定の立場やイデオロギーにもたれかかった声高な論調を排し、落ち着いてじっくり考える人々のための「開かれた広場」でありたいと願っています。
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歴史家のE・H・カーは「歴史は現在と過去との対話」であるといいました。報道はともすれば日々新たな事象に目を奪われがちですが、ジャーナリズムのもう一つの仕事は「歴史との絶えざる対話」です。そのことを戦後71年目の今、改めて強く意識したいと思います。
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