アベノミクスで日本経済がひとまず上向きになってきた。
第一の矢である大胆な金融緩和は、伝統的でない方法を使ってでも人々の経済への期待値を変えないといけない、として、大胆に打ち出された。中央銀行の総裁は、マーケットとの対話が上手くできなければいけないが、日銀は今までそれを上手にはやってこなかった。今回の黒田総裁はその点、意志がはっきり見えている。だから人々がそれに対して期待をしているのだ。ただ、大胆な金融緩和は魔法の杖ではない。実体経済で見ると、個人消費が伸び、完全失業率も減るなど雇用も上向いている。しかし、円安であるにもかかわらず輸出は期待したようには伸びていない。
金融緩和の効果は、いわば今は高い下駄をはかせてもらっているようなものだ。それだけでも経済にはプラスだが、それだけではすまない。第二の矢の財政支出は今は必要だが、いつまでも続けることはできない。だから第三の矢である成長戦略がカギを握るのだ。
成長戦略をどうしたらいいか。私は、一言でいえば日本経済の新陳代謝をよくしなければならない、と考えている。日本になぜマイクロソフトやアップル、Facebookなどのように元気に急成長する会社が生まれないのか。ベンチャーなど新しい企業がどんどん参入をし、逆に役割を終えた企業は市場から退出する。この当たり前のことが日本ではできていない。また、中央や地方政府の参入規制などがあり、同時に業界ごとの利益を監督官庁が集約し、調整する、という業界と結びついた業者行政が長年行われてきたことも問題だ。
そのいびつさが端的に表れているのが、例えばJAL救済の結果だ。私はこのゴールデンウィークにイギリスに会議参加のため出張したが、JALを利用した。理由は簡単だ。会議主催者が、ANAよりもチケット代がずっと安かったJALを選んだからだ。では、どうしてJALがそんなディスカウントが可能なのか。それは、債務免除を受け、さらに政府から幾重もの財政的、非財政的支援を受け、政府支援を受けていない同業他社との競争条件を歪めているからだ。これでは、必死の自助努力を行っている同業他社の足を引っ張るだけだ。とても健全とはいえない。このような例が随所にあるのだ。
金融も同じ構図だ。日本は間接金融が主流だが、銀行が問題解決型ではなく、問題先送り型の金融を行ってきたことが企業の再生ないしは生成を阻んできた。さらに、銀行が企業の株を保有し、企業同士も株を持ち合う。要は、株式持ち合いが株主によるチェックの目が銀行にも企業にも行き届かない結果をもたらしてきた。こうした構造的問題が随所に根深く存在するのだ。それがこれまでもう役割を終えた企業も延命されてきてしまった要因の一つだ。独立取締役のような、次元の違う目で経営に注文を付けることが可能なコーポレートガバナンスも十分機能してきていないのだ。
今こそ政府は成長戦略の中核的政策として、新陳代謝を阻んできた様々な要因をなくす政策を導入すべきだ。規制改革を断行し、金融も企業・経済再生型へシフトさせ、業者行政から競争政策へ転換する。さらに、コーポレートガバナンスを強化し、株式持ち合い構造解消、銀行の株式保有制限などを行うことで、企業が自らの競争力を自律的に向上させる。私が本部長代理を務める自民党の経済再生本部ではゴールデンウィーク明けにもそうした政策パッケージを打ち出す予定だ。具体的な中身については、次回にもう少し詳しく述べたい。