SMAPの独立騒動に学ぶメディアリテラシー。

一区切りがついたとみれらるSMAP解散騒動。ウェブメディア編集長として、改めて正しい情報の受け取り方・メディアリテラシーについて考えてみたい。

先日から大きな話題になっていたアイドルグループ・SMAPの独立騒動に、一旦区切りがついた。1月18日に放送されたフジテレビSMAP×SMAPでファンに向けて謝罪がなされ、中央に立った木村拓哉さんは「ただ前を見て進みたいと思います」と、独立・解散が回避したと受け取れる発言で短い挨拶を終えた。

今回の独立騒動ではスポーツ各紙を中心に、事務所に有利・不利関係無く様々な情報が乱れ飛んだ。なんとなく気になってアレコレと記事を読んでしまったが、これは正しいと確証を得られたものは一つとして無く、多くのマスコミで真偽不明な情報が飛び交っていた。そしてそれらの記事に多くの人が振り回されていた。

人気アイドルが解散の危機にある事は確かにビッグニュースではあるが、なぜこれほど怪情報を元に大騒ぎしているのか、不思議でしょうがなかった。

ウェブメディア編集長として、改めて正しい情報の受け取り方・メディアリテラシーについて考えてみたい。

■「恩義」が飛び交った失笑モノの報道について。

今回、多数報じられた記事をざっくりとまとめると、独立のきっかけとしてSMAPのマネージャーが退職することになった、マネージャーに恩義を感じていたメンバーがそれについていこうとした、しかし事務所に恩義を感じていた木村さんは一人残ろうとした、その結果分裂・解散の危機に陥った、という話になっている。

さて、もうこの時点で失笑モノということになるのだが、何がおかしいか言うまでもないだろう。多数のメディアで飛び交った「恩義」という言葉だ。

スマップのメンバーに限らず、誰かが誰かに対して恩義を感じている、という極めてプライベートな情報がさも真実であるかのようにメディアに乗っている時点でおかしい、という事になる。テレビやメディアで本人が直接喋りでもしない限り、こういった話は家族や親友、恋人など極めて限られた人が相手でなければ口にしないだろう(あくまで今回の騒動でそういった発言は無い、という事になる)。

そしてこの記事を執筆している時点で、公式発表で恩義という言葉は一切使われておらず、メンバーやマネージャーに直接取材をして書かれた記事も無い。だから彼らはマネージャーや事務所に恩義なんて感じていない、という事ではない。確認のしようがない情報を元に、マネージャーと事務所の間でメンバーが揺れ動いていると報じられていること自体が失笑モノ、ということだ。

■信用できる情報はたったの3つだけ。

自分が確認した限り、現在公式発表として把握出来るものは以下の3つだけだ。

●1/13 株式会社ジャニーズ事務所から報道機関各位へ、「SMAPの一部メンバーの独立問題と担当マネージャーの取締役辞任等に関する報道がなされ」、「この件について協議・交渉がなされている事実は存します」といった内容のFAXが送られた。

●1/18 株式会社ジャニーズ事務所から、報道機関各位へ、本日放送のSMAP×SMAPで「生中継にて5人の現在の心境を語らせて頂きたい」といった内容のFAXが送られた。

●1/18 フジテレビ・SMAP×SMAPにて、メンバーによる謝罪の言葉が放送された。

※カッコ内は報道されたFAXの文書からの引用

この中で「独立騒動」と言えるような内容は、1つ目のメンバーと事務所が協議・交渉をしているという文言と、3つ目の生放送でメンバーの草なぎさんが「今回ジャニーさんに謝る機会を木村くんが作ってくれて」と語った点だけだ。

これ以外のメディアが報じた膨大な関係者のコメントは全てが確認できない出処不明の情報でしかない。なぜなら発言者の所属も名前も顔写真も一切明記されていないからだ。

おそらく、あの情報は信用出来る、これは本当だ、と文句を言いたい人は多数居るだろうが、改めて報道された記事を確認して貰えれば分かるように情報源はテレビ局関係者など会社名すら書かれていない。発言者が誰か分かればこの記事の内容は本当ですか?と確認できるが、分からなければ確認のしようがない。

だから全部嘘ということではなく、「確認できない情報は信用に値しない」という最低限のリテラシーをまずは持つべきだ。ここでいう確認は自分自信で実際に確認する必要は必ずしもない。誰かが確認・検証が出来る情報は確認が出来ない情報に比べて信用度が高い、ということだ。これだけインターネットが発達したご時世に、検証可能なウソ情報が放置される可能性は低いからだ(あくまで多くの人が関心を持つ重要なニュースや出来事に限られる)。

■発言したことと、発言内容が真実かどうか別である。

先ほどの3つの公式発表に加えて、4つ目以降の公式発表と考えられる記事も今後出るようだ。これはジャニーズ事務所の副社長や関連会社の役員が実名で雑誌インタビューに答えるもので、独立騒動に関する事務所からの公式見解と考えて良いと思われる(詳細は本文と関係が無いので省く)。

ただし、当然この内容も話した内容が客観的な事実・真実かどうかは分からない。発言をしたことは事実であっても、それは発言内容が事実であるかどうかと関係は無い。発言内容を確かめる方法は一般読者に無く、あくまで事務所側にとっての見解に留まるからだ。

■通信社の報道は間違えていない?

今回の件は当初スポーツ新聞が報じ、通信社も早い段階で以下のように報じたようだ。

人気グループ「SMAP」のメンバー5人のうち、中居正広さん(43)ら4人がジャニーズ事務所を退社し、独立する方向で協議していることが13日、事務所関係者の話で分かった。木村拓哉さん(43)は残留する意向だという。

SMAP4人が独立を協議 - 共同通信 47NEWS 2016/01/13

通信社が事務所関係者に取材をしてこういった情報を出せば、独立は確定したかのように読めてしまう。実際、当初独立は確定路線かのような記事が多数報じられた。しかし、今の時点でもこの報道は一切間違っていない。あくまで「協議している」としか書いていないからだ。この記事を読んで、独立が確定した事実だと思った人は、一般読者に限らずメディア関係者でも多数いたのではないかと思う。

メディアについては以下の記事も参考にされたい。

■「ハーフは劣化が早い」発言は何が問題だったのか?

■「資生堂ショック」という勘違いの勘違いについて。

■フェイスブック・ツイッターのブロックは「出入り禁止」である。

■サイバーエージェントの社長をディスる人がヤバい件について。

■フィギュアスケートの羽生結弦さんも理系女子の小保方さんも「現代のベートーベン」も、みんな同じだ。

正しいメディアリテラシーがあれば、2ちゃんねるや匿名ブログからでも有益な情報、正しい情報を得ることは出来るだろう。逆にリテラシーが全くなければ新聞や通信社、テレビのニュースを見ても、あるいは自らが現場に居る当事者であっても正確な事実を把握する事は出来ないだろう。

出処不明な情報をあれだけ大量に流したスポーツ新聞はさらに信用を失っただろうね、と知人の編集者は話していた。おそらくそういう判断が最も客観的な意見ということになるのだろう。今回の騒動で多くのメディアは普段の10倍以上のアクセスを集めて大儲けしたと思われるが、失ったものも大きいのではないかと思う。

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