ソーシャルメディアやニュースアグリゲーター(まとめサイトも含む)が浸透するに伴い、ネット上で評判の高い記者が執筆する記事にアクセスが集中する傾向が目立ってきた。オンラインサイトを強化していこうとする新聞にとって、サイトへの集客を増やしていくためには、記者の個人ブランドにますます依存することになりそうだ。
米国の新聞では署名記事が一般化しているため、優れた記事を執筆する記者はそれなりに名が知られるようになっている。ネット時代に入ってサイトの署名記事がグローバルにリーチするようになり、評判記者の個人ブランドが一段と拡大するようになってきた。また新聞サイトのブログでは記者独自の主張を盛り込んだ記事が人気を呼び、特定の記者ブログへのトラフィックが際立って増えてきた。さらに記者個人がツイッターやフェイスブックのようなソーシャルメディアを活用して読者と交流するようになり、ファンである読者(フォロワー)を抱えるようになってきた。記者自身で個人のブランド力を高める機会がグンと増しているのだ。
そこで例として、ツイッターを活用している人気記者が、どれくらいのフォロワーを獲得しているかを調べてみた。オンラインサイトが充実しているNYT(ニューヨーク・タイムズ)、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)それにガーディアンの有力新聞の記者を追ってみた。幸い Muck Rackでは、新聞や雑誌、ブログネットワークなどのメディア組織別に、フォロワー数の多いジャーナリストやブロガーがランキング表示されている。フルタイムの記者だけではなくて、契約しているブロガーやコラムニストも含まれている。ただし、MuckRackに登録している記者/ブロガー/コラムニストだけが対象となる。
4日ほど前に調べた結果であるが、取り上げる3新聞において、1万人以上のフォロワーを擁する記者(ブロガー、コラムニストも含む)数は次のようになった。登録していない記者もいるので、実際にはもっと多い可能性がある。
・NYT:110人
・WSJ:50人
・ガーディアン:100人
また3新聞において、フォロワー数の多い記者のトップ6は次のようになっていた(いずれも、MuckRackより)。
ツイッターを活用していない記者も多いし、また記者のカバー分野によってフォロワー獲得の難易が異なるので、フォロワー数で記者の人気度を速断するのは正しくないかもしれない。ただ現在のソーシャルメディア時代においては、フォロワーが多い記者の記事が新聞サイトに数多くの読者を誘導しているのも事実である。
一つ前のブログ記事で、有力新聞から飛び出た看板ジャーナリストが、個人ブランド力を武器に新しいニュースメディアを立ち上げるようとしていることを紹介した。上のトップ6の中で、WSJ1位のMossberg氏とガーディアン2位のGreenwald氏が、近く新聞から去ることになっている。また驚いたことに、4日前にキャプチチャーしたランキングでNYT1位にいたDavid Pogue氏が、先ほど見にいくと彼の姿が急きょ消えていた。2日ほど前にPogue氏がNYTを近く辞めて米Yahooに移ることが発表されたためのようだ。
Pogue氏は、ファンに相当するツイッターフォロワーを約150万人も抱える人気ブロガーである。以下の、ガジェットを中心とした技術分野をカバーするブログPogue's Posts を執筆している。
同氏は、テクノロジー技術系コラムニストとしてNYTに13年間も席を置いていたが、2日ほど前に突然、ヤフーCEOのMarissa Mayer氏とPogue氏自身のそれぞれのブログで、NYTからヤフーへ転籍することを明らかにした。米ヤフーはコンシューマーテクノロジー分野の情報発信に力を入れようとしており、彼がその牽引車となる。
もともと米国では記者などの転職は日常茶飯事だが、ソーシャルメディア全盛時代になってくると、ネット界隈で個人ブランド力の大きい記者は確実にサイトへの集客を当てにできるだけに、これまで以上に記者の転籍が増えそう。
◇参考
・Pogue, Times Technology Columnist, Is Leaving for Yahoo(NYtomes.com)
(※この記事は「メディア・パブ」2013年10月24日の記事を転載しました)