「レイプ神話」とは? 性暴力めぐる誤解、被害者支援のカウンセラーが指摘

今回の事件で、実態と違う『強姦神話』が報道、読者・視聴者側それぞれに広く根付いていると感じました。(被害者カウンセラーの周藤さん)

強姦致傷罪で8月23日に逮捕された俳優の高畑裕太氏(不起訴処分となり9月9日に釈放)にまつわる報道が「女性や過去の性犯罪被害者を苦しめる内容」だったとして、性暴力の被害者支援団体が、報道機関に対して、今後の性犯罪報道での改善を要望するネット上の署名運動をChange.orgで展開している。

署名運動を主宰する「性暴力を許さない女の会」の周藤由美子さんは、女性のための民間のカウンセリングルーム「ウィメンズカウンセリング京都」で1995年から被害者の相談・カウンセリング業務に従事し、現在は2015年8月に京都府が設置した「京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター」でスーパーバイザーを務めている。

周藤さんはハフィントンポスト日本版の取材に対して「今回の事件で、実態と違う『レイプ(強姦)神話』が報道、視聴者・読者側それぞれに広く根付いていると感じました。その、実態に合わない『強姦神話』に沿って事件を見てしまう視聴者・読者を納得させるため、容姿について踏み込んだ報道をしてしまう。それが結果的に女性を二重三重にも傷つける内容になってしまったと思います。また、誤解を元に『(神話に)合わないから、強姦はなかったんじゃないか』という勘ぐりも生まれたと感じます」と話す。

そのため、署名への呼びかけとともに、間違った「強姦神話」についても広く知ってもらいたいと訴えている。周藤さんが指摘する5つの「強姦神話」とは何なのだろうか。

■周藤さんが指摘する5つの間違った「強姦神話」

1:強姦とは「いきなり襲われる」ものだ

事件があった夜、高畑氏が歯ブラシを持ってきてほしいと頼んだ上で、「女性が自分から部屋に行った」ということが報じられました。この点が「合意していたのでは?」という邪推を呼ぶことになりました。

この邪推の背景にあるのは、「暗い夜道でいきなり襲われたりするのが強姦だ」という思い込みではないでしょうか?

警察庁科学警察研究所で主任研究官を務めた内山絢子さん(犯罪心理学)の「性犯罪の被害者の被害実態と加害者の社会的背景」という調査報告があります。これは1997年10月〜98年1月末に、強姦と強制わいせつの加害者553人について、全国の担当警察官が回答した大規模な調査です。

この調査で、強姦事件の約20%は顔見知りによる犯行でした。また、成人による強姦では、6割以上が計画的な犯行だったことが指摘されています。

屋内で、言葉巧みに2人きりにさせられて犯行に及ぶというのは、1つの典型的な例と言えますから、「自分から行った」ことを理由に、「合意があったのでは」と考えるのは的外れな批判です。

2:「そんなに嫌ならもっと抵抗するはずだ」「必死に抵抗すれば防げたはずだ」

まず力や体格の差が圧倒的に違えば、防げないことは当たり前です。

私が相談を受けた事例で、大半の被害者は「殺されると思った」と言います。そして、抵抗すれば、相手が興奮してどんなことをしてくるかわからないという恐怖心を抱いている。だから抵抗しない場合も多いです。

中には、「これ以上抵抗せず穏便に帰ってもらおう」と思った被害者が「コンドームをつけて」と言った、という例も過去にありました。「抵抗は無理だけれど、せめて妊娠や病気は防ぎたい」という気持ちからですが、この神話があると、そんな場合にまで合意とみなされかねません。

3:強姦された被害者は「しばらく泣き暮らす」

女性が事件の数日後に「パーティーに参加していた」との報道があり、これが「被害申告は虚偽ではないか」という疑念を誘発していました。

しかし、被害直後に、被害者が日常を早く取り戻そうと、一見、何事もなかったかのように暮らしている場合もあります。相談に来られた被害者の母親で「うちの子は被害にあったのに平気な顔をしているんですよ」と言って不思議がった方もおられました。ただ、「よく様子を見てください」と話すと、やはりいつもと様子が違っていたと話されたことがありました。

平然としているように見えても、心の中はわかりません。

4:「被害者はすぐに警察に届けないものだ」あるいは「すぐ届けるものだ」

「女性がその日に被害届けを出したのは怪しい」などと言って、最初から「美人局」が目的だったのではとするコメントもネット上にあふれましたね。

でも私が受けた相談の事例では逆に「時間が経ちすぎて被害が立証できないので被害届は受け付けられない」などと警察署で門前払いされた例もありました。早くてもダメ、遅くてもダメ。被害者は一体どうすればいいのでしょう?

強姦の被害者がいつ頃、警察に届けるか、これは「人によって違う」としか言いようがありません。

私のこれまでの経験では、最初に相談した人がどう言うかに非常に左右される面が大きいと思っています。例えば、母親に相談したら「誰にも言っちゃダメよ」と言われたという人もいましたし、逆に誰にも言いたくなかったのに「警察に行こう」と無理やり相談に連れて来られた、という人もいました。

警察に行くのが早くても遅くても、女性の話が事実かどうかの可能性が変わることはありえません。

5:強姦では「好みのタイプ」を襲う

事件では、女性のプライバシーに踏み込んだ報道が多く見られましたが、その中でも、40代であることを起点にして、「(襲いたくなるほど)美人だった」などと容姿や容貌、過去の経歴について報じるものが多く見られました。この報道は、おそらく「強姦では『好みのタイプ』『性的魅力がある人』を襲う」という誤解に基づくものなのではないでしょうか。

内山さんの論文の中では、強姦の対象者を選定した理由について聞いた項目がありました。成人の加害者が被害者を選定した理由(複数選択)の第1位は「警察に届け出ないこと」で44%、第2位は「おとなしそうだと思った」で26%となっています。逆に「好みのタイプ」は選定理由の12%でした。加害者にとって、好みや性的魅力は二の次なのです。

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