ある日、日本人の知り合いから、フランスについて書かれた日本人のエッセイ本が届いた。最近、日本ではやっている本だという。その本を読むと、フランスに対するあこがれがすごく伝わってくる。
が、読んでいて少し引っかかったのが、「フランス人女性はあるがままの自然体」で社会に受け入れられているという断言。本によると、フランス女性はノーメークで、スーパーで買った服を着こなして、何のコンプレックスもなく生活しているそうだ。そして、そんなフランスマダムを例にして、あなたもまねしたほうがいいよ、と読者にアドバイスをしている。
もちろん著者を批判するつもりはないが、「フランス人女性は超すばらしい」と日本人の皆さんがすぐに結論を出す前に、フランス人が日本人をどう見ているのかを伝えたいと思う。
フランスで大人気の日本式美容法
実は、今フランスでは、『Layering, secret de beauté des Japonaises(レイヤリング、日本人女性の美の秘密)』という日本人の美容法についてつづられた本が話題になっている。この本を出したフランス人女性は、日本文化の専門家というよりも、ミニマリズム、自然派のスキンケア、オーガニック生活などのスペシャリストとして活躍しており、日本女性の自然派のイメージに便乗している。
少しだけ脱線してしまうが、フランス人が「日本」と聞いて連想するイメージは、漫画やアニメを除けば、長寿、健康、自然、「沖縄ダイエット」(沖縄でよく食べられている食材、大豆、全粒粉、魚や海藻などを優先的に食べるダイエット)などだ。
フランスではここ10年ほど、オーガニックの店が急増しており、こうした店舗には必ずみそ、しょうゆ、ワカメ、ごま塩、にがりや豆腐、昆布など日本の食材が販売されている。美容のグッズとして、最近大ヒットしているのは、なんとこんにゃくのスポンジ。これが、先ほどのレイヤリング法に欠かせないアイテムらしい。
「レイヤリング」という言葉を、日本に住んでいたときに聞いたことはないが、著者によると、どうやら「レイヤー(層)」を剥がすように、油で化粧を落とし、洗顔をし、化粧水をつけ、美容液をつけ、目の周りのケアをし、保湿をし、最後にリップクリームを塗る、という7つのステップを順々にやっていくのが日本式のレイヤリングケアのようだ。
確かに日本人のほうがフランス人よりも、それぞれの手順をしっかり踏んでいるのは事実かもしれない。しかし、著者の言う、日本人は基本的にスキンケアのプロセスを短縮できるBBクリームを使用しないといった主張や、化学薬品がたっぷり含まれる市販の化粧品よりも、米粉や植物油のような天然素材をよく使うなどの内容が、日本に住んだことがある自分にとっては少々疑わしく感じられた。
遠くから来た新しいコンセプトはいつでもまぶしい。それは、かつてフランスが日本の芸術的な影響を受けアールヌーヴォーを作り、その後、日本がフランスからきたアールヌーヴォーに夢中になったように、海を超えて遠くから持ち運ばれたものに人は魅了されるのだと思う。日本人女性がフランス人を「ノーメークの神様」と声高に叫ぶ一方、フランス人女性は日本人に美容法を見習おうとしているのである。
日本の化粧文化に興奮した20代
ここで、フランス人と化粧について、私の例を紹介しよう。といっても、フランス人の化粧も十人十色なので、1人のフランス人女性の例として聞いてもらいたい。
私は中学生のとき(12歳くらい)に化粧を始めた。最初は母にもらった安物の化粧品を使っていたし、メークも下手だった。メークが失敗した日は、学校で友達に笑われる始末。そんな苦い経験もあって、その後は控えめなメークに落ち着いた。友達には仮面のような厚化粧をしている子もいたし、さまざまなスタイルがあった。
22歳で来日すると、初めてお給料をもらったのが日本だったため、その興奮と日本の化粧文化に感化されて、使い方もよくわからずにいろいろな化粧品を買い集めたものだ。その後、半年かけてアジアで一人旅をした時期があり、その間はすっぴんが当たり前になっていた(社会的プレッシャーがなかったのか、それとも、周りの目が気にならなかったのかわからないけれど)。
20代半ばでフランスに帰国してからはメークをする生活に戻った。自分のルックスを磨きたくなり、アイシャドウの塗り方や、ファンデーションの選び方などが習えるメークの個人レッスンまで受けた。化粧上手な日本人の友達にいろいろなアドバイスを受けたり、彼女にたくさんのメーク用品をもらったりもした。
そして、30代に近づく頃、ミニマリズムへのあこがれに負けてしまい、そして化粧品に含まれる化学薬品などが気になり始め、素顔とまではいかないまでも、かなりシンプルメークになった。そして、ママになった今、メークをする時間もエネルギーもないし、すっぴんでいることに違和感を感じない。
日本人のスキンケアへの並々ならぬこだわり
日本人が書いたフランス本を読むと、「ありのままのすっぴんマダムだからこそ、ムシューに愛されている」というようなことが書いてある。確かに、と思う部分もあれば、私のパートナーから「やっぱり化粧しているほうがいいな」というような指摘を受けることもたまにある。
フランス人のすっぴんにあこがれている日本人だが、私の印象では、これまで訪れた国の中で、日本はずば抜けて化粧やスキンケアにこだわっている国だと思う。
日本に住んでいるときは、電車でメークをしている女性や、私が働いていた県立高校の授業中、1時間だらだらとマスカラを塗り続ける女子高生を実際によく見た。また、日本のテレビ番組で見たメークレッスンも細かくて印象的だった。ほかの国で見たことない塗り方がいろいろあるのだと驚愕したものだ。
友人と温泉に行ったとき、「お風呂にこう浸かると、化粧ののりがよくなる」というスキンケアのアドバイスを受けたことがあるが、あまりの細かさに「誰がその違いに気がつくのかしら」と笑ってしまったこともある。
ただ、友人たちがメークをする様子を見て、日本人の精密さはメークにも表れるのかと感心した。まるで茶道のごとく、または芸術作品を作り上げるかのように丁寧に仕上げていく。たとえると、チベットの仏教徒が長時間かけて繊細に描き、数分足らずで消してしまう砂の曼陀羅のように、最終的な美だけが目標ではなく、作り上げるプロセスが大事なのだと感じた。
しかし、日本では行きすぎた「メーク信仰」がストレスになっているとの印象も受ける。「まゆ毛を書かないと外に出られない」のはまだいいとして、「彼氏が寝てから化粧を落とさないと恥ずかしい」というのは信じられなかった。フランス人の私から見れば、すっぴんの日本人女性はとてもきれいだ。そもそも日本人男性はそこまで女性のメーク前とメーク後の違いを気にしているのだろうか。
もう1つ、「行きすぎた例」を見掛けたことがある。東京で仕事をしていたとき、仕事場の化粧室でのこと。ここでは、女性たちが毎日、ある時間になると決まって並んで「メーク直し」をしていた。フランス人もメーク好きな人はいるが、職場のトイレでみんなで横並びになって、隣の人が何を使っているかをのぞき込んだりはしない。
トイレで並んでメークするのは何で?
私から見れば、みんな十分にキレイなのに、なぜ日に何度も塗り直す必要があるのか、とても不思議に思う。でも、考えてみれば私も中学生のときに、授業中に友人とトイレに行って、一緒にメークをしたことがあったっけ。日本人女性はあの楽しさを味わいたいのかもしれない。彼女たちにとっては、見た目がどうの、ということではなく、メークをする過程が大事な行事であり、周りの女性と一緒にメークをするのも、絆を深める機会になっているのかもしれない。
他方で、日本には「本音と建前」の文化があるとよく聞くが、それも影響しているかもしれないとも考えた。日本では、感情をストレートに表すのは良くないというのと同じように、素顔のままでいるのも好まれない。それよりは、建前で物を言い、化粧で顔を隠したほうが、人間関係がうまく行くという面もあるのではないだろうか。「本音と建前」、そして「素顔と化粧」。フランス人からすると、このギャップの比較がとても面白い。
とにかく、日本とフランスの文化の共通点がある。どうやらお互いの国の女性は自分の見た目に永遠に不満を感じていて、美の追究は日々の悩みである。満足することを知らないという点で、先進国にありがちな一種の"mal du siècle(現代病)"ともいえなくもないが。
日本で出版されるフランス本のタイトルには、日本はダメで、フランスはすばらしいというタイトルが多いけど、そこまでして日本人女性にダメ出しをする必要があるのだろうか。日本人女性ほどではないにせよ、フランス人が日本の美容文化にも惹かれているのは間違いない。日本人はすごく謙虚なんだろう。とにかく、日本女性も、フランス女性も、お互い負けずに世界で輝こうじゃないですか!
(レティシヤ・ブセイユ:ライター、イラストレーター)
【東洋経済オンラインの関連記事】
ハフポストでは、「女性のカラダについてもっとオープンに話せる社会になって欲しい」という思いから、『Ladies Be Open』を立ち上げました。
女性のカラダはデリケートで、一人ひとりがみんな違う。だからこそ、その声を形にしたい。そして、みんなが話しやすい空気や会話できる場所を創っていきたいと思っています。
みなさんの「女性のカラダ」に関する体験や思いを聞かせてください。 ハッシュタグ #ladiesbeopen#もっと話そうカラダのこと も用意しました。 メールもお待ちしています。⇒ladiesbeopen@huffingtonpost.jp