理想の結婚相手は公務員が独占? 実はサービス残業だらけのヤバ過ぎる実態。 (後藤和也 大学教員/キャリアコンサルタント)

「公務員になれば安心」というほど、皆さんの人生は単純なものではない。
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Jacobo Zanella via Getty Images

先日「結婚したくなる異性の勤め先」なる調査結果を目にした。男女ともに1位・2位を国家公務員と地方公務員が独占した。

結婚相手の勤務先として望む会社は?1位は国家公務員(13.6%)だった。2位は地方公務員(12.7%)。(中略)男女別にみると、男性が女性に望む勤務先は地方公務員(10.2%)、国家公務員(9.3%)、トヨタ自動車(5.4%)、ANA(4.3%)、任天堂(3.6%)がトップ5を占めた。女性が男性に望む勤務先は国家公務員(17.4%)、地方公務員(15.0%)、トヨタ自動車(10.4%)、ANA(6.8%)、伊藤忠商事・パナソニック(ともに6.0%)がトップ5に入った。(結婚したくなる「異性の勤め先」、トヨタ・ANAなど人気 1位は安定の......? IT media ビジネス ONLiNE 2018/06/22)

同調査によれば、結婚相手の勤務先として重視するポイントは「給与額」がトップで、2位は「社員を大切にする」、3位は「福利厚生」、「勤務地」や「子育て支援」などの声もあったという。公務員はそれらを満たした職に見えるのかもしれない。

筆者はかつて新卒で国家公務員として就職した。その後人事院に出向し、各省庁の勤務時間管理や給与処遇についての監査を担当する他、公務員対象の職員相談員を務めた経験を持つ。その経験から「公務員=安定・安心」という発想について、なるべく客観的に考えてみたい。

■公務員の給与は高いのか

国家公務員の給与額については、人事院勧告によって民間企業との均衡を図りつつ、国会審議を経て決定される(詳細は別記事「公務員の給与引き上げは正しい。」で言及している)。詳細への言及は避けるが、一定程度規模以上の中小企業についても調査の対象とされている。俸給表(いわゆる給与表)も公開されているため一読してもらえればと思う。

平成29年度の人事院勧告資料によれば、事務次官(事務方のトップ)の年間報酬額が23,175千円なのに対し、企業規模3,000人以上の役員の年間報酬額は55,763千円となっている。ちなみに、企業規模が1,000人以上3,000人未満の場合は31,814千円、500人以上1,000人未満の場合は27,998千円となる。省庁の頂点であり、いわゆるキャリア組同期の中でも一人しかなり得ない事務次官の給与とて、同程度の規模の民間企業役員には遠く及ばない水準なのだ。

「税金から給与を払っているのだから厚遇する必要はない」「世の中の大半の人はもっと低賃金で働いている」等の批判はあるだろう。しかし、民間企業に置き換えれば大企業並みの省庁でも、規模に比して報酬が低く抑えられている、という事実をまずは押さえてほしい。

「将来の天下りで当該差額がキャッシュバックされるのでは」という声もあるだろうが従前に比して天下りが困難になっている。最終的に国会によるチェックが入るため、良くも悪くも公務員の給与額については恣意的に増減できる代物ではないのだ。

■公務員は「社員を大切にする」組織なのか

特に霞が関の中央省庁に勤務する国家公務員は多忙なことで知られている。残業時間は最大で月200時間位に及び、職員はカップラーメンを作る暇すらない人もいるという(残業は月200時間超も、カップ麺すら待てない...忙殺される厚労省職員 AERA dot. 2018/06/22)。

慶應義塾大学特任教授の岩本氏は、現役の国家公務員と国家公務員経験者の合計6人にインタビューを行った結果、過労死ライン(月80時間)を超える月100時間以上の残業が常態化しているとの意見が出たといい、「月の平均残業時間は130~140時間で、200時間を超えることもある」「若い職員の中には、月曜から金曜まで帰宅できず省庁で仮眠する者もいる」「土日いずれかに出勤する職員もかなりいる」などの指摘も出たという(国家公務員で「月100時間超」の残業が常態化、メンタル不調が多発か 慶大調査 IT media ビジネス ONLiNE 2018/06/06)。

国交労連は、本府省庁で把握している年間残業時間と実情とに80時間程度のかい離があることを指摘する(「働かせ過ぎ」の真因から目を背けることなく実効ある対策に着手すべき――職員にのみ負担を強いる「ゆう活」は中止を(談話) 国公労連HP 2016/05/20)。さきほどの記事からはそれをはるかに上回る過酷な環境がうかがえる。

■公務員がサービス残業をする理由

いずれにせよ、公務員の職場に「サービス残業」が蔓延しているのではないか、ということはかねて指摘されてきた。それが事実とすれば、なぜ公務員におけるサービス残業は改善しないのだろうか。

1点指摘すれば、財政上の理由が大きいだろう。仮にサービス残業との差額を一人一人に支給するとすれば、残業代は際限なく膨らむことになる。公務員の給与財源は税金であるから、天井知らずの残業代を支給すれば世論の批判を浴びる。それ故、限度を超えた残業代は闇に葬られることになる。

企業が残業を減らそうとするインセンティブは、膨れ上がった残業代(人件費)を逓減し、そのために如何に業務を効率化するか考えることから生じるのであって、公務員のように残業代が実情を大きく下回る額しか支給されない場合、そうしたインセンティブは発生しない。

冒頭の記事のように、就職氷河期以降人気職種となった公務員は、毎年相当数の就職希望者が発生する。残業抑制には社員の健康管理や企業イメージ保持の側面もあるが、常に代打がいる環境ではそうした効果も期待されないことになる。

加えて、かねて指摘されている国会対応等、国民の奉仕者たる公務員特有の業務事情もある。とにかく公務員の仕事は、自己犠牲的になりがちなのだ。

■人事院は違法状態を打破すべき

残業逓減が主たる目的でないにしろ、「働き方改革」が国策の今、公務員を巡るこうした現状を看過すべきではない。現状打破のカギについて、筆者は「人事院」にあると考えている。

人事院勧告(公務員の給与額決定)で知られる人事院であるが、その業務は勤務時間や安全衛生の管理など多岐にわたる。公務員全体の人事部的な役割と権限を持つ官庁だ。一般にはあまり知られていないが、法令・規則上、1年に複数の官庁に対し、勤務時間や安全衛生管理、給与の支給状況等について調査や監査を行う権限を持つ。民間企業に対する労基署に近いイメージだろう。

労基署が企業を検査する際、たとえばPCのログを取得する等、客観的な出退勤のデータを用いて企業が管理する残業時間とのかい離を厳しくチェックする。労基署の検査と人事院の調査は趣旨が違うかもしれないが、技術的にサービス残業を炙り出すことは十分可能なはずだ。外部の有識者や組合がサービス残業の存在を主張している現状を放置することは、人事院としても好ましくないだろう。

その結果、サービス残業の実態があるとすれば、それは明確な法令・規則違反となる。「労働の対価を払う」という大原則に対して「財源がない」という言い訳が通用しないのは、官も民も変わりはないのだ。極論かもしれないが、一度膨大な残業代を満額支給し、現実を目の当たりにすることで、初めて「どうやって残業を減らせばよいのか」という国家的な議論が生まれるのではないか。「必要悪」という言い訳は、決して許されるべきではない。

■結び

本稿は決して公務員を批判する意図で書いたわけではない。「公務員ならば安心だろう」という安易な発想で、就職という一大イベントを迎えてほしくないという危機感から筆をとったのだ。

民間企業においては、あの手この手で「働き方改革」に着手している。一方、それに指導・助言すべき公務員の職場で改革が進まないとすれば、これほど皮肉で悲しいことはない。

どんな業界・職種にもホワイトな面とブラックな面があるだろう。時期によって繁閑があることは当然だ。大切なのは、自分なりに希望する仕事の働き方について実情を把握し、その一長一短を承知したうえで自身のキャリアについてもっと真剣に考える、ということではないか。「公務員になれば安心」というほど、皆さんの人生は単純なものではないのだから。

【参考記事】

後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント