被選挙権年齢を下げれば若手の政治家が増える?海外事例が教える被選挙権年齢引き下げのポイント

日本は2017年時点で、30歳未満の国会議員は存在しない。

半世紀ぶりの選挙権拡大の実現により18歳の若者が投票権を行使できるようになった2015年から早4年が経った。

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衆院2補選/街頭演説を聴く人々
時事通信社

それに応えるようにして模擬選挙や主権者教育などによる単なる投票率の向上を目的としない政治教育の取り組みが各地で広がっている。若者団体の傘団体である一般社団法人 日本若者協議会は、若者世代の声を届けることを目的に現職の議員と若者による討論会を開催するなどして、国政レベルの若者政策に影響力を高めるとりくみを続けている。

NPO法人Rightsは、2000年から若者の政治参画機会の拡大を目的に、選挙権年齢・被選挙権年齢引き下げの調査・研究とアドボカシー活動を続けてきた。今回は、改めて被選挙権年齢の18歳への引き下げと若手政治家を増やすことの意義と根拠を選挙制度国際基金(IFES)の最新のレポート”Raising Their Voices”を頼りに整理してみたい。

世界の被選挙権年齢の平均は21.9歳

18歳で投票ができるようになっても、その年齢で政治家となることが許されないということは、政治家になる能力が若者にはないという含意がある。日本においては票を投じることが18歳でできるようになったが、実際に若者が政治家として立候補できる年齢(被選挙権年齢)は最低でも25歳(衆議院議員・都道府県議会議員・市町村長・市町村議会議員)である。

国際的には、下は若くて18歳、上は25歳を被選挙権年齢と定める国が多い[1]。全世界の国会におけるの被選挙権年齢の平均年齢は、21.9歳である。[2] ここでいう「国会」とは二院制の場合は上院ではなく下院(日本でいう衆議院)のことを指す。被選挙権年齢は世界のデータを見ると3分割でき、18歳、21歳、25歳の3つのグループに分かれていることがInter-Parliamentary Union (以下 IPU)[3] により報告されているが、これは2014年のNPO法人Rightsの独自調査とほぼ一致している。当時の調査によると、世界で被選挙権年齢を18歳に定めている国は全体の24%、21歳は30%、25歳は29%である。

日本は、衆議院(下院)においては25歳が被選挙権年齢であるので、この3つのグループでは25歳のグループに位置する。日本同様に被選挙権年齢が高い国は、世界でも1/3あるということだが、18歳から21歳を被選挙権年齢と定めている国は全世界の半数以上であることから、日本の被選挙権年齢が高いことは明白である。

被選挙権年齢が低い国ほど、政治家は若い

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演説するスウェーデンの若手政治家 Gustav Fridolin
TT News Agency / Reuters

 政治家として世代を代表することは、当該世代の利益を政策に反映させる実質的な方法である。Stockemer とSunderströmらの国会における年齢の代表制についての分析では、若手政治家の存在意義がこのように述べられている。

「議会における若年世代の存在の大きさは、同じ世代のその他の若者の代弁者となれているかどうかの”程度”を示すことになる。中高年世代の政治家と若年世代の政治家とでは、若者にかんする議案や提案に違いがでる。議会における若い政治家の存在は、この2つの世代の政治家、ひいては世代の架け橋となりうるのである。若者の政府に対するポジティブな姿勢を強め、不利な状況にあるグループからのニーズに政府が応える責任能力を高めることにもなるだろう。」[4]

つまり、若手政治家を増やすことは、若者の政治的無関心や批判的態度を乗り越えるひとつのメカニズムとして機能するということである。

また被選挙権年齢が相対的に低い国は、若い政治家の数が多くなる兆候があることも報告されている。Stockemer らの調査では「被選挙年齢の要件は年々下がっており、35歳以下または40歳以下の若い政治家は、1%以上の増加をみせている」[5] という分析がされている。

これに関連した調査をIPUが実施している。曰く、21歳以下に被選挙権を付与している国においては、平均で33.4%が45歳以下の政治家で占められている、ということだ。一方で、被選挙権年齢が21歳以上である国においては、この割合が27.3%に下がる。[6]つまり、被選挙権年齢が高い国のほうが相対的に、政治家の年齢が高い傾向にあるということだ。[6.5]

ちなみに日本は2017年時点で、30歳未満の国会議員は存在しない。18歳で投票ができるのに同じ世代を代表する政治家が10代にも20代にもいないのである。

被選挙権年齢を下げて若手政治家を増やすことに成功したトルコ

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トルコで行われたの選挙の様子
Murad Sezer / Reuters

社会の要請としての「被選挙権年齢の引き下げ」は、若手議員の増加を後押しすることがトルコの事例から明らかになっている。トルコでは若者が被選挙権年齢引き下げを求めた時に、実質的な参政権をできるだけ拡大することも同時に求めていた。2006年、トルコでは被選挙権年齢が30歳から25歳に引き下げられたがその際には、複数の若者団体が主導した多方面にわたるアドボカシーキャンぺーンが功を奏し、政策立案者の被選挙権年齢引き下げの決定を後押しした。

その後の2011年の選挙の際には、キャンペーンを主導したアドボカシー団体一同は、政党の候補者名簿に若い政治家を増やすことと、若手政治家の出馬を妨げることになりかねない「政党登録費」の削減をロビイングすることに成功した。キャンペーン実施中、アドボカシー団体は若者問題(若者政策といってもいい)に触れながら若手の議員候補者を取り上げ、最終的には国会に25歳〜30歳の議員を送り出すことに成功した。[7]

投票年齢の引き下げと被選挙権年齢の引き下げを同時に行ったオーストリア

しかし被選挙権年齢の引き下げは、社会運動の結果として結実するばかりではない。オーストリアにおける被選挙権年齢の19歳から18歳への引き下げは、2007年の投票年齢の引き下げとともに議論されて実現した。[8] 当時の世論においては、被選挙権年齢の引き下げは投票年齢の引き下げよりも、世間を騒がすものではなかった。おそらくそれは被選挙権年齢引き下げ年数が、1歳だけであったことと、その影響力が小さいと考えられていたからだという。被選挙権が引き下がったとしても、若い候補者は投票と政党によって、選出されなければ議席を得ることにはならないからである。これは被選挙権年齢の引き下げを過剰に恐れる人々を落ち着かせる題材となる。

被選挙権年齢引き下げ時に、年齢の上限も撤廃してしまったウガンダ

一方で、被選挙権年齢の改革はときには物議を醸すことがある。被選挙権年齢の引き下げは、被選挙権年齢の上限を含む「年齢規定の撤廃」の議論に結びつきやすいからだ。実際に、ウガンダにおいては、政治家の資格要件の議論が、特定の候補者の資格要件の確保のために利用されたことがある。2017年、ウガンダ国会は憲法の大統領候補者の年齢上限を削除した修正案を採択し、現職のヨウェリ・ムセベニ大統領の長期在職を可能としてしまった。もともとの年齢規定は35歳から75歳であった。この修正を加えたことで、任期の5年から10年への延長も実現したことで、無期限の在職が現実化したのだ[10]。もともとは年齢上限は、政権が長期の独裁化することを阻止して民主化をするためのものだったとはずのものが、これでは若手政治家の影響力を上げるどころか、独裁政治という民主主義と対極にある統治を促すことになってしまう。被選挙権年齢の引き下げがいつの間にか「年齢規定の撤廃」へと議論が推移していないか注意する必要がある。

海外事例からまなぶ被選挙権年齢引き下げのポイント

以上で紹介した研究と事例より、被選挙権年齢引き下げのポイントをまとめると、

・日本の被選挙権年齢は世界的に見て低くなく、30歳未満の国会議員が1人もいない

・被選挙権年齢の引き下げは若手の政治家を増やすことの鍵となる

・若手政治家を増やすことは、若者世代の声を政策に反映することに繋がる

・その結果として、若者の政治的無関心を乗り越えることになる

・若手政治家の増加を妨げている、その他のあらゆる障壁を取り除くようにすること

・アドボカシーキャンペーンが若者政策に触れて、若手議員の選出を後押しをすること

・世界には被選挙権年齢に上限がつけられている国があり、それが撤廃された事例がある

・被選挙権年齢の引き下げを政府が進めるようになった際には、その他の変化にも目を配ること

であろう。若者世代の民主主義を構築していく方策の手がかりになればと思う。