霞ヶ関の実情を現役官僚に匿名インタビュー。働きかた改革は実現できるのか?

「実現すればいいなあという気持ちはあるけど…」。テレワーク化のために、彼らが犠牲にするものとは。
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キャンペーン「各省庁を22時から翌朝5時は完全閉庁し、緊急の業務はテレワークで行う体制を作ってください。」
change.org

国の中枢が変わらなければ、日本全体も変わらない

「霞が関と永田町の働き方改革を進める第一歩として、各省庁を22時から翌朝5時は完全閉庁し、緊急の業務はテレワークで行う体制を作ってください」

という提言と署名活動が、(株)ワークライフ・バランスの小室淑恵さんの呼びかけにより行われている。(詳細はこちら

効率を無視した政府・省庁の長時間労働によって、中央省庁では過労死が起き、家族が労災認定を求めて毎年訴訟を起こしている。さらには残業によっていくらでも時間が使えるからと、ネットワーク環境・ハード環境の整備の遅れが放置されてきたことが、国全体のデジタル政策の遅れの原因にもなっている。

いくら政府が「働き方改革」と旗を振っても、国の中枢が変わらなければ、日本全体の抜本的な構造改革が進むわけがないと私も発起人に名を連ねたのだが、どうしても気になるのが当事者である官僚たちが現状をどう思っているのかということだ。今回、20代の現役官僚が匿名ならと私のインタビューに応じてくれたのだが、その実情は想像を超えたものだった。あくまで自分の周囲の話であり、すべての省庁・部署をみているわけではないというのが前提である。所属省庁名・肩書きとも私は確認しているが、公表は難しいということで、ここでは官僚Aさんとする。

 

何かを変えようとすると、残業が増える

長野:「深夜残業をやめて、テレワーク体制を作ってほしい」という今回の提言ですが、現役官僚として可能だと思いますか。

官僚A:いや、難しいと思いますよ。そもそも何かを変えるって、変えるための制度作りの仕事などが必要なので、その分また忙しくなってしまう可能性があります。

今回、ハンコがものすごいスピードでなくなりましたよね。これも、どの案件はハンコがいる、いらないとか、整理してリストアップを短期間にしなればならないから残業になるんです。

長野:残業をやめてテレワーク化するという改革のために残業が増えると。

官僚A:その可能性もあるということですね。もちろん実現すればいいなあという気持ちはあるけど、変えるってことは仕事が増えるということですから。

長野:残業しないと処理しきれない仕事を毎日しているということですよね。

官僚A:午前中に次々と新しい案件が入ってくるので、その日の案件はその日中に終わらせないと、翌朝また大変なことになるんです。

そのためには、情報収集もすべて準備して仕事にかかりたい。だからなるべく遅めに来ます。午前10時から11時ころに来庁して、それまで来たメールを確認して、情報収集をして取りかかる。遅めに来て遅くまで仕事をする体質がしみついているんです。

長野:官僚は日本をよくするための政策を策定していく仕事なのに、大量の作業に追われる日々だとクリエイティブな思考にならなそう。

官僚A:じっくり頭使うのは難しいですね。実態は攻めの仕事よりも、受けの仕事が多いときもあります。メールが多すぎるし、同じメールが何度も転送されてくるし(苦笑)。とにかくその整理に追われて、頭を創造的なことに使うのはなかなか難しいです。

それに省庁外の人たちと会議が必要な時も、外部アプリケーション使えないというのは今時本当に大変。やむを得ない外部とのコンファレンスのために、TeamsやZoom用とかに新しいパソコン買うんですよ。省内のネットワークとは違う独自のWi-Fi回線を新たに購入して設定して、それに接続することで使用しています。

長野:深夜緊急の際にテレワークもかなりハードル高いですか。

官僚A:現状のままだと難しいと思います。省庁で使用している業務用PC以外のサブディスプレイがないと自宅で仕事もできません。すべての人が十分なネットワーク環境もなかなかそろえられないと思います。

業務用PCの画面は13インチ程度で、メールを打つことはできますが、エクセルを駆使する人たちには小さいですし、ミスの原因にもなるし、サブディスプレイが無いと仕事にならないはず。実際、オフィスでも皆さん外付けディスプレイを使用しています。

長野:省内で使うパソコンにまでサブディスプレイって、そんな不便なんですか。

官僚A:資料などを日頃から作成するのでサブディスプレイは重要ですね。性能も十分とはいえないので使いにくい時もあります。ビジネスマンの使うようなパソコンを使いたいです、ほんとに。

共有フォルダで作業内容を共有するのですが、誰かが共有エクセルを開いているとそれが編集できないので、「エクセルを閉じてください」というメールが飛び交うんですよ。このあたりは、本当に中央サーバーにアクセスする必要のある仕事と、そうでない仕事を分けるべきだし、この整理をすればテレワーク化も進みやすくなると思います。

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暗くなったオフィスで帰り支度をする厚生労働省の職員(資料写真)
時事通信社

霞ヶ関の時間は2000年代で止まっている

コロナ禍にあって民間企業がテレワークにシフトする中、依然変わらない霞ヶ関の働き方の背景には、そもそも深刻なインフラ問題があるようだ。Aさん曰く、クラウド共有やバージョン管理もまともにできないので、IT関連のインフラ整備と教育の両方が必要だと感じているということだが、2000年代じゃあるまいし、というのが率直な感想である。深夜に及ぶ国会対応を含め、政治家自身が官僚の時間は無制限に使えるという慣例のもと、効率を無視した長時間労働を放置してきた結果、政府はかくも不十分なネットワーク環境に疑問を抱かずここまできたのだろうか。

はからずもコロナ禍にあって給付金の遅れなど、日本のデジタル化が世界でも遅れていることが明らかになったが、今回話を聞いて改めてその現状に驚いた。現在、国会期間のための官僚の残業代だけで102億円(実際にはその3倍は残業があると試算されている)。また、深夜にタクシーで帰宅する費用でさらに22億円がかかっている。

労働時間に対して適正な支払いをした上で、帰宅が終電に間に合えば浮くはずの費用をコロナ対策等の国民生活の改善に使うことも可能なはずである。「悪しき前例主義を改め改革をすすめる」菅政権には、ぜひ霞ヶ関に山積する問題についての危機感を迅速に共有して改善を進めていただきたいと思う。

 (編集:榊原すずみ