中国の富裕層は、日本を「物足りない」と感じている?

訪日富裕層の「若者世代」は何を求めているのか
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本記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

観光立国の旗印を掲げる日本では、外国観光客から生み出した経済な恩恵を一時的なものにしないように、さまざまな戦略が打ち出されている。その中でも最近注目されているのが、外国人富裕層の誘致である。

消費額はケタ違いに多いし、1人の体験から広く富裕層に口コミが広まり、効率的に日本のイメージアップと経済的利益をもたらす期待がある。政府の中長期の観光政策に関する構想「明日の日本を支える観光ビジョン」は、次のターゲットを欧米などの富裕層と定めている。

では、中国富裕層はどうなのか。インバウンド関係者の間には、中国富裕層は、欧米富裕層を勝手に追随する消費行動を取るので、需要を取り込むための特段の対応は必要ないという意見もある。あるいは、中国富裕層といえばマナーが悪い中高年層のイメージが根強く、あまりアプローチしたくない、というような話も聞く。

多様化が進む中国富裕層

しかし筆者は、こうした見解が出るのは中国富裕層の実態がよく把握できておらず、ステレオタイプ化された人物像しか思い浮かばないからだと思う。しかし、ステレオタイプ化されたものを信じていては、誤解によってビジネス機会を逸することになるだろう。訪日する中国富裕層も今では2世代になっていて、親の代と子の代ではまったくと言っていいほどに異なる実態があるのだ。

そこで、日本人にはなかなかわかりにくい「訪日中国富裕層」の内訳を明らかにし、その中でも旺盛なインバウンド消費の可能性が高い層である「富ニ代」の実例を示したい。

訪日中国富裕層をどう分類すべきか。まず下の表を見て、大まかなところをつかんでいただきたい。まず、大きく分けると、富裕層には「富一代」と「富二代」がある。「富一代」というのは、ゼロから財産を蓄積してきた親世代である。その中で、50代以上の富一代には、「暴発戸(土豪とも呼ばれている)」が多い。暴発戸とは「爆発的にお金持ちになった成金」という意味だ。

彼らは、文化大革命の影響もあり、きちんとした教育を受けることができず、国際的な教養を身に付けそびれた世代だ。

彼らの多くは、1978年から始まった改革開放政策の波に乗り、儲かりそうな商売があれば何でもやり、泥臭く財産を貯めてきた。

別に悪い人ではないのだが、どうしても「成金」で「マナーが悪い」人が多い。「中国富裕層=あまり品がよくない人」というイメージは、おそらく彼らの行動から持たれたのだろう。

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劉 瀟瀟(三菱総合研究所 政策・経済研究センター研究員)/東洋経済オンライン

成金的な行動を取ることがしばしばある「暴発戸」の人は、このような感じだ。貫禄たっぷりの50代の男性。ダサい服を着て、ごつい金のネックレスや指輪をつけている。ベルトや時計は一目瞭然の欧米ブランド品だ。彼らの隣には同じようなファッションセンスの中年女性、あるいは娘とおぼしき年頃のブランドだらけの女性がいる。

歩道いっぱい横一列になってわが物顔で歩き、マナーや日本の行儀はまったく気にしない。「おカネがあるから俺は神様だ」「すべて俺の思いどおりにしろ」というオーラをプンプン出している人たちだ。多額の消費をするが、気にいらないことがあると爆発しそうで、怖い感じも与えるので、あまり歓迎されないことが多いだろう。

上記の「暴発戸」に対して、「奮一代」は、現在50代以下の富裕層に多い。大学で学んだり、留学できるようになった世代で教養も豊かだ。名前のとおり、自分の知識を活用し、ゼロから努力し一代で成功した実業家たち。最近日本でも知名度が上がっている中国EC大手アリババのジャック・マー(馬雲)はその代表的な人物であろう。彼らは、自分のこだわりや習慣があるが、暴発戸に比べると、はるかに多くの海外のものを受け入れる。

そして、現役の経営者も多いので、日本に来ると、観光だけではなく、商機を見つけ、自分のビジネスの発展につなげている人が多い。したがって、彼らの心をがっちりとつかむには、単に裕福な観光客としてだけでなく、将来のビジネスパートナーという位置づけでおもてなしを考えたほうがいいのではないか。

大きく2つに分かれる中国富裕層の第2世代

富一代(富裕層の第1世代)の子どもである富ニ代(富裕層の第2世代)は、親に比べると、はるかに幸運に恵まれている。豊かな環境の下で育てられ、庶民が一生頑張っても夢のような生活をしている。

ここで富二代を代表する20~30代男女であるAさんとBさんを紹介しよう。2人とも、食品販売や洋服転売という「泥臭い」ビジネスで大富豪になった親の一人っ子であり、幼稚園から最高の教育を受けてきた。

Aさんは今年27歳の男性。普段は大してぜいたくしていないが、それでも年3回以上ビジネスクラスで欧米旅行する。18歳のときに免許を取得したご褒美はBMWのスポーツカー。西海岸には日本円にして数億円の資産価値がある別荘を持ち、フランスにはワインの酒蔵を保有している。

Bさんは今年32歳。女性なのでさらに大事に育てられてきた。通学は運転手付きの専用ベンツで毎日送り迎え。旅行はファーストクラスだ。10代から誕生日パーティは世界中の超高級ホテルの「プレジデンシャルスイートルーム」で開き、友達からのプレゼントは、ルイ・ヴィトンやシャネルの限定版バッグか靴が基本。16歳の時に親からもらった誕生祝いはオーダーメードのエルメス・バーキンだ。

2人とも裕福な家に生まれ、留学経験があることも共通だ。だが、彼らの違いがはっきりと出てきたのは、成人してからだ。

「頑張る2代」に分類されるであろうAさんは、親から授けられたエリート教育と人脈を活かし、留学してアメリカの金融機関で勤務した後、新しいビジネスをスタートした。親と同じ業界で、洗練されたセンスで新しいブランドを立ち上げ、受け継いだビジネスセンスと自分の努力とで順調に自分の城を築いている。中国のメディアにも注目され、特に20~30代の若者に人気なブランドの創設者として人気も高まりつつある。

Aさんは日本を、子供の頃に見た日本のアニメ「ドラゴンボール」や「名探偵コナン」をきっかけに好きになった。世界中を旅しているが、日本で最初の旅行先に選んだのは九州。理由を聞くと、広々とした自然風景を見て、最高の温泉に入ってみたい、そして「くまモン」を見たいという。そこで、目的地は大分と熊本にしたようだ。最高の旅館に泊まり、その内装や日本の美意識は自分のブランドのコンセプトの参考にもなったという。

九州の後は、東京に寄ったAさん。結婚の予定があり、しかも円安だったことにも背中を押されて700万円の結婚指輪を購入。日本にまた行きたいかと聞くと、「もちろん、行きたい。文化、ファッション、食事、風景、全部興味を持っている。ただ、ルールが厳しすぎるのでストレスを感じた。旅館の食事時間もそうだし、東京の表参道で友人と夕飯をしていて、午後10時過ぎにお酒を追加注文したときに、マネジャーが『まだ帰らないのか?』と言いたげな表情で嫌な感じがした」という。

家族の富で豪遊するだけの2代目も

一方、こちらもすくすくと育ったお嬢様のBさんはどうだろう。年齢の割にかわいらしく、ややもすれば幼さも感じさせる性格の持ち主だ。両親は「自分の大事な娘には自由に生きてほしい。何もしなくてもいいから、豊かな生活をさせたい」と、彼女のために人生の最後までビジネスを頑張るつもりのようだ。Bさんはいわゆる富一代の親に甘やかされた2代目だ。

彼女はロンドンで十数年の間、最高級品があふれるセレブ生活を続ける。彼女からみると、オーダーメードのエルメスも、旅行中のレストランがミシュラン3つ星であることも、当たり前のことである。

ブラックカードを使ってぜいたくざんまいをしていた留学先のロンドンでなんとか学位をもらい、親のコネで超一流ファッション会社に入社。といっても、普段、周囲には一般庶民の女性も多いので、さすがにエルメスはちょっと場違いだと気がつく。そのためどこかの王室御用達のお店に、ロゴがあまり目立たないバッグや靴を注文。親の会社の株式や不動産は少しずつ彼女の名義に変更されている。

普段の仕事は給料のためではなく、「自分も独立している」「何か仕事をしている」という幻想をもたらすためだ。このBさんのような、親の財産をなくすほどではないが、家族の資産を増やせなかったり、不運な場合には親の財産までなくす「富二代」は、「紈袴(がんこ)子弟」と呼ばれている。紈袴とは昔、中国の貴族の子弟が着用した白練(しろねり)の絹製の袴のことだ。

家族の資産を増やせない「紈袴(がんこ)子弟」に分類される彼女も、日本が大好き。富裕層の友達が、日本の化粧品を使っていたり、日本のファッションを好む影響のようだ。情報を収集しているうちに、「シンプルで洗練されている」「食事が美味しい」「かわいいものがいろいろある」「(おカネがあれば)日本で最高級のおもてなしを楽しめる」と、日本に関心を持つようになった。

甘やかされてはいても、傍若無人ではない

そこで、普通の観光ビザでなく、父のビジネス仲間の計らいで、ビジネスの訪問ビザを取得。今回は、大手町に「星のや東京」ができたので、早速父の友人の手を借りてスイートルームを予約し、親子で来日した。今まで何度も日本に来たが、東京の真ん中にありながら、静かな雰囲気で癒やされる「禅」を感じるホテルは最高だったという。

来日中、東京のミシュラン星付きレストランでの食事を重ね、中国富裕層の友人と日本の富裕層の間でひそかに名高い料亭に行ったりした。母親はフランスの最高級宝飾品を爆買い。Bさんは一枚のプロフィール写真を撮るため、300万円以上の和服を購入。その一方では、気に入ったドラッグストアの約400円の日焼け止めや東京ばな奈のお菓子なども一般観光客と同じように大量に買い込み、花火大会に感動したりもした。

10日間滞在で、親子の総消費額は2000万円を超えたようだ。日本はどうだったかと聞くと、「こんなにきれいで静かで品がよいところは日本しかないね。また遊びに行きたいわ。ただ、長くいると、やはり欧米や中国のほうが楽で自由だわ。買い物も(私の身分にふさわしい)いいものがちょっと足りないかも。でも、父の友達の代官山にある一軒家がよかったので、東京でもマイホームができたらいいな」と言う。

AさんとBさんは、どちらも来日中国人富裕層の第2世代の典型例だ。正反対のようだが、共に親世代より日本に高い関心を持ち、理解が深い点では共通している。自分らしさを程よく主張するおしゃれをし、英語は母国語並みで、マナーよく振る舞っている。

よく想像されがちな、金持ちだけど品がなく、時に強引な中国人の大富豪のイメージとは懸け離れている。それでいながら、消費額のケタは、やはり一般人とケタ違いでもある。中国富裕層のインバウンド戦略では、彼ら「富二代」が何を求めているのかを探ることが必要な時代だ。そして時にはその「富二代」をさらに細分化してペルソナ(顧客像)を考え、彼らをターゲットにするマーケティング戦略を策定していくことが重要になっていくだろう。

劉瀟瀟:三菱総合研究所 政策・経済研究センター研究員)

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