僕はこんな記事を書いてきた。ハフポスト日本版での10年間を10本の記事で振り返る。「謎の島」からコロナ禍の男性育休まで

「知られざる世界」のネタを中心にお届けします。
ハフポスト日本版での10年間、思い出の10本の記事
ハフポスト日本版での10年間、思い出の10本の記事
Huffpost Japan

ハフポスト日本版が2013年5月にスタートしてから早くも10年。立ち上げメンバーとして、当時から編集部で記事を書いてきた筆者が、特に思い出に残った10の記事を振り返ります。

未知の存在にずっと興味があった僕は「知られざる世界」というカテゴリーを担当していて、さまざまな「知られざるネタ」も記事にしていました。

今回の振り返り記事でも、そんな不思議なネタが多くなっていますがご容赦を。8月1日からは異動でBuzzFeed Japan編集部に移りますが、ハフポストで培った経験を生かして、さらにディープで面白い記事をお届けしたいです。

2013年10月3日

日本版が創刊した2013年の記事で特に印象的なのは、この記事。

たまたまGoogleマップで日本地図を調べていたら、他の地図には載っていない「謎の島」を見つけたという内容です。

Googleに問い合わせたら、島は消えてしまい、未だにその正体は不明です。「9角形のカクカクした海岸線」というワードが同僚になぜかウケました。もともと地図にしかない幻の島が好きだったこともあり、ハフポストで書けたのはうれしかったです。

2021年にもかつて日本領に編入された幻の島「中ノ鳥島」についての記事を書いてます。

2014年8月5日

鳥取城跡のマスコットキャラクター「かつ江さん」のデザイン画を手にする発案者の男性
鳥取城跡のマスコットキャラクター「かつ江さん」のデザイン画を手にする発案者の男性

もともとフリーランスだった僕は2004年に『封印作品の謎』(太田出版)などの幻の作品を追いかけるルポを書いていたこともあり、封印作品の探求がライフワークになっています。2014年に公募で選ばれた鳥取城のマスコットキャラ「かつ江さん」が3日で公開停止された一件がありました。

筆者は実際に鳥取市に行って、市役所の担当者や「かつ江さん」の発案者に話を聞きました。安土桃山時代、多くの餓死者を出した籠城戦「鳥取の渇え(かつえ)殺し」をテーマにしたことが問題視されたのですが、負の歴史をどう語り継ぐのか。足を使った取材で考えました。

同様の封印作品については、ウルトラセブン12話や、日テレ版ドラえもんについても記事にしています。

2015年8月9日

戦後70年を迎えた2015年、ハフポストで終戦特集をやりました。その一環として、自分も広島市に行き、被爆体験をした女性にインタビューをしました。原爆投下当時、学生をしながら路面電車の運転士を務めていた増野幸子さんです。

虫垂炎による腹痛で欠勤し、寮で寝ていたところで被爆。窓ガラスが割れたガラス片が114個も背中に刺さりました。会社員時代に寮の共同浴場に入った際に『広島のピカドンで怪我をした』と言ったら、側にいた人たちが『ピカドン?早く逃げなさい、毒が移る!』と言って、20人ほどいた同僚が一斉に浴場から出ていったこともあったそうです。

こうした壮絶な体験を、増野さんの親せき「さすらいのカナブン」さんが、「ヒロシマを生きた少女の話」というタイトルで漫画にしています。

2016年3月30日

スズキユウリ氏とのコラボレーションで生み出されたドラムマシーン「The Visitor」を操るジェフ・ミルズさん
スズキユウリ氏とのコラボレーションで生み出されたドラムマシーン「The Visitor」を操るジェフ・ミルズさん
撮影:安藤健二

デトロイト・テクノの巨匠、ジェフ・ミルズさんの来日時にインタビューしたのも思い出深いです。

都内のイベント開催に合わせて、話を聞く機会がありました。フランスでの「シャルリー・エブド」編集部の襲撃事件や、トランプ政権が誕生などさまざまな社会問題について意見を述べていました。黒人ミュージシャンである彼が「人種差別がなくなるという考え方は、あまりにも理想主義的です」と悲観的な言葉を述べていたのが印象的でした。

2017年5月19日

屈斜路湖畔で、かつてクッシーを目撃した方向を指し示す鈴木一馬さん
屈斜路湖畔で、かつてクッシーを目撃した方向を指し示す鈴木一馬さん

2017年になって、同僚と一緒に「知られざる世界」という新カテゴリーをハフポスト内につくりました。未確認生物、UFO、超常現象なども含めて好奇心を刺激するような不思議な情報を伝える内容です。

このカテゴリーをスタートするに当たって、自分も北海道の屈斜路湖に行き、1970年代に「クッシー」と呼ばれていた謎の怪獣について実地調査しました。「あの辺りをコブが2つ、右から左へ動いていったんだ」と目撃者の男性にインタビューしています。

70年代以降はイギリスのネッシーの影響もあり、日本各地でご当地怪獣が目撃されました。屈斜路湖のクッシー、池田湖のイッシー、西湖のサッシーなどなど。幻の怪獣たちも目撃情報が減ってきたのは寂しい限りです。

2019年5月5日

北方領土にある貝殻島灯台(2019年4月28日撮影)
北方領土にある貝殻島灯台(2019年4月28日撮影)
安藤健二

2019年は、自分にとって結婚という節目の年だったせいか、印象深い記事が多いです。これはGWを利用して婚前旅行で北海道に行った際、根室港から遊覧船で北方領土を見に行くというツアーに参加したときのルポです。

「これ以上は行けない。ロシアに拿捕されるから」と船員さんから警告を受けて船が止まると、はるか向こうに海に浮かぶ灯台が小さく見えました。北方領土の歯舞(はぼまい)群島にある貝殻島灯台です。戦前に日本政府が建設しましたが、ロシアの占領下で管理が行き届かず廃墟のようになっていました。

このときの根室は4月末とは思えないほど冷え込んでいて、海上では波しぶきが大量にかかってめちゃくちゃ寒かったのを憶えています。遊覧船が見えた国後島の雪山がとてもきれいで、後に娘の名前を考える際の参考にしました。

2019年7月17日

視界に浮かぶ「GAME OVER」のイメージ画像
視界に浮かぶ「GAME OVER」のイメージ画像
Kenji Ando

2019年当時、ハフポストで「コンプレックスと私の距離」という企画をやっていて、その一環として、数年に及ぶ自分の婚活体験を振り返ったコラムです。子どもの頃は「大人になったら自動的に結婚するもの」と思い込んでいましたが、実際に大人になってみるとそんなことはなかったのです。

40代になって「結婚してない自分」に対するコンプレックスが膨れあがりました。婚活アプリから結婚相談所まで、あらゆるところに登録して、毎週のようにパートナー候補を紹介してもらうもののうまく行かず、「もう一生、結婚できないのでは」という不安にさいなまれた日々でした。

最後の告白シーンは思い出を美化していたくだりがあり、妻から訂正が入ったので後に修正しました。

2019年12月17日

「日本国 千円」と刻印された謎のメダル
「日本国 千円」と刻印された謎のメダル
安藤健二

これも2019年の記事。「日本国千円」と書かれたコインのような謎の物体の写真がSNSで話題に。投稿者に実際に会って現物を見せてもらい、関係各所に取材したものの結局、未だに正体は判明していません。日本政府が発行したものでないのは確かですが、一体、誰が何のために作ったのか。僕を含めて各メディアが探偵合戦を繰り広げたましたが、超常現象など扱う月刊誌『ムー』が僕のこの記事を取り上げてくれたときはさすがにびっくりしました。

2020年6月27日

生後2カ月の娘と遊ぶ筆者(6月6日撮影)
生後2カ月の娘と遊ぶ筆者(6月6日撮影)
Kenji Ando

2020年3月末、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた時期に娘が誕生しました。4月7日に緊急事態宣言が出る直前でしたが、なんとか出産に立ち会うことができました。退院後は千葉県のある妻の実家で「里帰り育児」をする予定でしたが、近隣の感染状況を考えた結果、すぐに埼玉県にある僕の実家で育児することに変更しました。

娘の育児をしながらリモートワークで安倍首相(当時)による緊急事態宣言の原稿などを書き、4月末から1カ月間はハフポスト日本版初の男性育休を取って、育児に専念しました。緊急事態宣言の発令中の育児ということで家にこもりきりの生活に。両親に昼寝中の娘を見てもらって、近所を妻と散歩する夕方のひとときが癒やしの時間でした。

2023年1月1日

Zoomでインタビューに応じる小泉悠さん
Zoomでインタビューに応じる小泉悠さん
Huffpost Japan

最近の話題で特に進展が気になっているのは、ウクライナ戦争です。以前から、ナゴルノ・カラバフ紛争を記事で取り上げるなど旧ソ連圏での動きは気になっていたのですが、まさか21世紀の現代に戦線が何千キロにも及ぶような大々的な戦争が起きるとは思っていませんでした。

軍事アナリストとして著名な東京大学先端科学技術研究センター講師の小泉悠さんに新著発行のタイミングでインタビューすることができました。この戦争と日本人はどう向き合うべきなのか。対岸の火事と見ていて大丈夫なのか。非常に説得力の強い話を聞くことができました。SNSでの反響を見ると、普段はハフポストを読んでいない読者にも届いたような手応えを感じました。

終わりに

こうして10年を振り返ってみると、あっという間のことだったように感じます。配属初日に、元中学校の半地下の部屋にあるオフィスで、まず机を並べるところから始めたのも良い思い出です。ハフポストで働く中で、結婚・育児というライフスタイルをめぐる大きな変化もありましたが、同僚と自由闊達な議論を交わしながら、あらゆるジャンルの記事を書けてとても楽しかったです。

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