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2020年11月01日 09時31分 JST | 更新 2020年11月02日 10時41分 JST

年間2億PV「白ごはん.com」のレシピが、料理をつくる人に愛される理由。冨田ただすけさんに聞いてみた

1日に約60万PV、年間で2億PVを超える人気レシピサイト「白ごはん.com」。サイトの立ち上げから現在に至るまで、運営者で料理研究家の冨田さんのサイトへの思いをインタビューした。

白央篤司
「白ごはん.com」を運営する冨田ただすけさん

冨田ただすけさんという料理研究家をご存じだろうか。

 

「白ごはん.com」という和食中心のレシピサイトを運営し、

1日に約60PV、年間で2PVをゆうに超える人気を誇っている。

料理ビギナーからベテランまで、支持者は幅広い。

 

ファンの方々にその理由をたずねれば、

「どのレシピも確実においしくできる」

「わかりやすくて、作りやすいという点ではナンバーワン」

「私、料理上手になれたかも……と思わせてくれる」

そんな熱い声が、次々に聞かれる。

 

冨田さんって、どんな人なのだろう? 

どんなものを食べて育ったのか。どんな食歴の人なのだろうか。

会ってみたくてたまらなくなり、名古屋近郊にある彼のスタジオを訪ねた

 

前編:「白ごはん.com」の冨田ただすけさんが、料理をつくる人になるまで。

 

「白ごはん.com」のこと

白央篤司
「白ごはん.com」を運営する冨田ただすけさん

――総菜店を経て調理の専門学校へ。和食店の板前を経て、食品メーカーの「寿がきや」に再就職されてから間もなく、「白ごはん.com」を立ち上げられます。働きつつサイトを持とうと思われたのは、どうしてですか。

会社員になった途端、手持無沙汰になっちゃって(笑)。残業しても19時ぐらいで、『えっ、もう終わりか』と。帰宅してごはん食べて、ゆっくりしても……まだ時間がある。じゃあ、レシピサイトを作ってみようという気になったんです。自分が学んできたことを伝えられる場で、自分がおいしいと思う料理を伝える場にしよう、と。

――サイト名はすんなり決まったんですか。

すごく悩みました。最初から「和食を伝える」レシピサイトにしようという思いがあったので、親しみやすさと覚えやすさを兼ねた名前にしたくて。「白ごはん.com」を思いついたときに「ああ、これ!」って。

――和食を軸に据える、というコンセプトは最初から決まっていたんですね。

自分が和食店で修業していたというのもありますが、「和食ってむずかしい」「面倒くさい」「ハードルが高い」といったイメージを持っている方が多いように感じていたんです。もっと身近に感じてもらえたら、という思いがありました。

――サイト運営は基本、おひとりでやられてるんですか。

はい。HTMLタグから勉強してサイト自体を作り、レシピを考えて、作って、撮影して、文章にして、デザインを考えて……立ち上げからずっとひとりでやっています。

ただ撮影の際に手がほしいときや、意見がほしいときなど、妻にすごく助けられていますよ。「この作り方だと洗い物が増えるからやめたほうがいい」とか、自分では気づけない部分をいろいろ教えてもらっています。またスマホ対応のシステム的な部分は、数年前から外部の業者さんにお願いしています。

――調理のアシスタントさんや、サイト運営スタッフを増やそうと思われることはないのでしょうか。

ここ数年、それは何度も考えたんです。ただ僕がイチから試作をして、「このプロセスは面倒だけどやったほうがいいな」とか、「この部分は大変だから、やらなくてもいいですよ」とか、そういった感覚が写真と共に反映されているレシピだから、みんなが見てくれてるのかな、と。なので、工程を全部ひとりでやってるほうがいいんだろうなと思って。

――サイトを開設してみて、当初はどうでした?

はじめのころは全然人気なかった。1日15アクセスでも「けっこう来てくれたなあ」って(笑)。めちゃめちゃ時間かけてイチから自分でホームページ作ったものの、まったく観てもらえない時期が2~3年続きました。あるとき、ヤフーのトップに「鍋で炊くごはん」のページが紹介されて。そこからアクセスが増えていったんです。

 

冨田さんには、忘れられない思い出がある。


2002
年、会社員だったころに挑戦した「きょうの料理大賞」の予選には、

80歳ぐらいのおばあさんが同じく挑戦されていた。

彼女の名は、たまさん。

「あなたみたいな若い人が、もっとこれから料理を伝えていかなきゃダメだよ」と、言われたのだそう。

 

「その言葉がなぜか心に残って。白ごはん.comをはじめた頃、全然アクセスは伸びないながら、コツコツ続けていこうという気持ちになれたんです」

 

次第に雑誌などからレシピや連載の依頼も来るように。 

幸いなことに会社は副業OKだった。

自身の料理本を出版するほど人気は高まり、

6年ほど二足のわらじを履きつつ活動。

 

2013年に、独立を決意する。

 

――会社を辞めて「白ごはん.com」に専念しようと思ったきっかけは?

加工食品の世界だと、バイヤーの人に試食してもらうことが多々あります。バイヤーさんは1日100個単位で試食することがあるんですね。そうすると、ひと口勝負。ひと口でおいしいと思ってもらうには、必然的に味のしっかりしたものが好まれる傾向があります。

やさしい味だと、そういうときには良さが伝わりにくい。加工食品には加工食品の良さがあり、僕もやってて楽しかったんですけど、自分は家庭料理の良さを伝えられる仕事をしたい、という気持ちが強くなっていきました。

白央篤司

――和食を中心とした、冨田さんの「家庭料理」を体現したものが「白ごはん.com」なんですね。今回取材の前に、Twitterで「冨田さんのサイトのどういう点が魅力ですか」と問いかけたところ、200件を超えるリプライが届いたんです。一番多かった声が「どれを作っても確実においしい」というもの。次に「とても分かりやすい」「見やすい」「説明・解説がていねい」といった意見が寄せられました。

僕には理屈っぽいところがあるんです。料理の工程ごとに、理由を説明したい。レシピにただ「何分煮ます」「こういうふうに切ります」みたいに書かれてあると、その“行間”を読みたくなる。「なんでこうやるんだろう」「どうしてこの調味料を入れるんだろう?」って考えてしまう。自分だったら疑問に思うだろうな、ということはきっちりその理由や意味を入れ込んでおきたいんです。

――読者さんにより分かりやすくというよりも、ご自身がそう書きたくて、あの書き方になっているんですね。

そう書かないと気持ち悪いんです(笑)。

――すべてを解説していったらキリがないですが、ほどよい文章量で読みやすく、パッと見たときのスッキリ感も考えられているな、と思うのですが。

はい。慣れてない方にはなるたけ失敗しないように詳しく、それでいて慣れている方が読んだときには、わずらわしくなるほどではない、というところを目指しています。

あと、レシピの中で「絶対こうしてください」と書くこともあるんですが、あまり言い切らないようにしています。料理なんてどういう形であっても、ある程度には仕上がるものなので。強要しすぎず、省けるものは省いてもいいとも伝えていきたい。

――ただ、「こうしてもいいし、しなくてもいいですよ」となると、優柔不断なレシピになってしまう危険性もありませんか。

ありますね(笑)。そこはバランス感覚というか。レシピ記事を作るときは、はじめに写真を並べていくんです。次に文章を書いていって、要るもの、要らないものを考えて、何度も読み直す。削除できるものは削除してく、という作り方をしています。

ここ数年はスマホで見られる方が多いことを考え、意識的に写真点数を少なくできるよう、撮り方を考えてますね。一枚の写真にギュッと情報量を詰め込むようにして。写真が多すぎると縦スクロールが長くなりすぎて、それも不便かなって。

――写真自体のクオリティの良さを挙げるユーザーさんも多かったです。

大学で写真部にいたんですよ。母親にマニュアルのカメラを貰って、フィルムで撮っては暗室で現像をする日々を過ごしてました。当時食べものは全然撮らなかったんですけどね。料理研究家になって、プロのカメラマンの方々が料理の撮影をしてくださるとき、「こう撮るのか、こういう道具を使うのか」と見られたのも、とても参考になりました。今は1つのレシピで多い時だと100枚、200枚ぐらい撮ることもあります。

――レシピでは写真点数を少なくしている、とのことですが、プロセス写真も工夫して入れられてますね。

たとえば煮物だったら、「汁気がなくなるまで煮る」と書けばすむところを、煮汁がどの程度になればいいかを写真できちんと見せたいんです。「汁気がなくなる」という感覚も人それぞれなので。「鍋中でこのぐらいになればいいのか」って分かるようにしたくて。

――あと、「特別な調味料や食材がいらないので作りやすい」というユーザーさんの声も多く、印象的でした。この点は考えられていることですか。

冨田 基本的に「和食で昔から使われている調味料と食材を中心に」というのは自分で決めています。たとえばオイスターソースやナンプラーを使うことはないですね。ただリクエストで、最近人気の野菜を使ったものを入れてほしい、という声もわりにありますから、たまに入れることはあります。

アボカドなどは、とてもよくサイト内検索されるんですが、白ごはん.comではやってなくて。やったほうがいいのかな(笑)。

白央篤司
「できるだけ広告を少なくして、写真と文章がスッと目に入ってくるように」というのが、冨田さんの考える基本的な白ごはん.comのデザインイメージ

――サイトを更新される上で、「次はこの料理をアップしよう」というのは、どうやって決められるんですか。

読者さんからのリクエストが溜まっているので、そこから定期的にレシピを考えてアップするのがひとつ。たまにはスーパーで見つけた材料で、これを食べたい、これとこれを組み合わせてみたい、と勢いでやることもあります。また自分の中で「今は魚料理のレシピを増やしたい」「豆腐料理を増やそう」など、2~3か月ごと、テーマ的に決めていることもありますね。

白央篤司
冨田さん愛用のうつわの数々  

――さて、ちょっと突っ込んだことを聞かせてください。冨田さんはお仕事をとても制限されているように私には思えるんです。もっと料理雑誌やテレビに登場して、レシピ本も出て、まったくおかしくない人なのに、と。

独立して3年ぐらいは来る仕事拒まずで、本や雑誌連載など、声かけていただいたものは全部受けていたんですけど、そうしていたら白ごはん.comを全然更新できず、放置状態になってしまったんですよ。

雑誌でも本でも、WEBでも、僕の意図をくんでくれるところもあるけど、制作側の意図がどうしても入ってくるんで、それがプラスになることもあれば、マイナスにはたらくこともある。

納得のいくレシピコンテンツを発信するためには、どうしても文章も長くなるし、写真も一杯になるし、料理の“行間”も伝えたくなるし。やるならば、レシピ内容と見せ方が全部整った状態で出したい。だったら、自分のメディアでやったほうが迷惑がかからないし、やりやすいかなと思っています。

――実にストイックですね。納得がいかないのに発信してしまって、モヤモヤしたことがあったのですか。

レシピ本を作っているときに、材料をもっと華やかにしてくれとか、材料のかぶりがあるからこっちはやめてくれとか。でも僕からしたら、必要ないことなのにな、こうするほうがおいしいのに、と思うことはありました。

――華やかさで思い出しましたが、ユーザーさんからのコメントで、「プチトマトやパプリカ、ハーブの無意味な乱用がないのがいい」というのがありましたよ。「(料理全般の)見た目が茶色に振り切っている感じがいい」というのも。

あはははははは(笑)。家庭料理で色味を考えるんだったら、何もひと皿で完結する必要はないですしね。作りやすさを重視しているから、「やってみよう」と思ってもらえることもある。

――サイトや今後の仕事に関して「こういうところ改良していきたいな」と思うこと、ありますか。

サイト以外の部分のニーズを吸い上げて、発信やものづくりをもうちょっとしていかなきゃいけないと思っています。なので2019年あたりからレシピ動画にも力を入れるようになりました。動画数を今後増やしていきたいですね。

あと、自分がおいしいと思える食品を届ける繋がり方もあるなと思って、「だしブレンド」やふりかけを作って販売することも始めたんです。

白央篤司
冨田さんオリジナルのだしブレンドとふりかけ。増産のたびに売り切れになる人気だ

――オリジナル商品は今後増えていく予定ですか。

白ごはん.comの立ち上げの時は、「ご家庭で作る和食の選択肢が増えたらいいな」という気持ちが何より強かったんですが、いまはそれに加えて、家庭の食事と環境問題の関係、食品ロス、アニマルウェルフェアなどといった課題との繋がりを感じているので、そういった考えを反映したオリジナル商品を作っていきたいと思っています。

発売中の「だしブレンド」という商品は、「捨てられがちな“だしがら”を食べやすく」がコンセプトですし、新商品として、ヴィーガン対応のだしや、その他の商品も試作を進めているところです。

料理研究家で加工食品の研究開発をしたことのある人ってあまりいないと思うので、自分なりの経験や思いをダイレクトに商品にしていけたらと思っています。

――大学時代、そして再就職からはずっと愛知県にお住まいですね。独立後の活動拠点として、東京へ出ることは考えませんでしたか。

全然考えたことないんですけど、それも特に理由もなくて。インターネットを活用しての仕事ならどこでもできるわけだし。単純に、家族がここに根付いてて、子どもの学校生活もあるし、妻の実家も近いし。

毎週土曜は妻の実家で過ごすんですよ。お義母さんの手づくりを食べられるのがすごくよくて。妻がずっと食べてきた、この地域の味つけを季節に応じて食べさせてもらえるのが、すごくよくて。大人数で一緒にわいわいにぎやかに食べるのが、いいなあと。だから、ここから離れるとか今は考えることないですね。子どもが大学生になったら、またそのときどうするか。

――冨田さんは山口に生まれ、その後に愛知、静岡、大阪と食文化も多彩な各地での居住を経験されました。それぞれに影響や刺激を受けられたと思いますが、いかがでしょうか。

たとえば、山口は九州と同じで醤油が濃厚で甘めなつくりになっています。その違いは顕著ですよね。他の地域に住んで印象的だったのはそこです。最初は違和感ありましたが、だんだんと慣れてきました。九州や山口でよく飲まれている焼酎と濃厚な醤油との相性はとてもよくて、そうなるに至ったいろんな理由があるのだろうと思います。

静岡や大阪は(住んでいた期間が)短かったので、さほど感じることはなかったですが、名古屋の味噌文化は衝撃でしたね。大学で来たときには、トンカツもうどんも味噌味がイチオシで、食べてみたら「う~ん、味噌じゃなくていいかも……」とその当時は感じました。

――誰しも最初は、食べ慣れた味がいいと思ってしまいますよね。

でも時間が経つにつれ、赤味噌のうま味や渋みの美味しさ、味のバリエーションとしての味噌だれの万能さなどを、すごく感じるようになったんですよ。

料理屋の修行時代に味噌汁や田楽、ふろふき大根など、いろいろな料理に赤味噌をうまく合わせているのを食べる機会があったこと、妻の実家で定期的にどて煮や味噌カツ、味噌煮込みうどんを食べるようになったことが大きいです。

今では赤味噌(豆味噌)が自宅でも欠かせないものとなりました。といっても100%赤味噌ではなく、米味噌も常備して気分によって使い分けています。「今日の味噌汁は米味噌なのね」「赤味噌の豚汁もいいもんだね」など、味噌汁の楽しみ方も一段階増したように思います!

――最後の質問です。冨田さんにとって「素晴らしい料理」とは、どういうものですか。

料理って、“気づかえるもの”だと思うんです。「きょうはちょっと体調が悪いから、こういうものを作ろう」「食べやすく切ろう」って。そういうのが僕はいいなあ、と思う。パンチのあるもの、特別な食材を使うものじゃなくて、食べ飽きない、日常的に食べ続けられるものを作っていきたいし、紹介していきたい。

自分の中で思い浮かべる「料理」って、なんてことないものが多いんです。温かいご飯に味噌汁、素朴な煮ものにちょっとした漬けもの。

僕にとっては、そういったものが食べ慣れていて、自分の体にもしみ込んでいく感覚のある料理なのですが、こういったものが、僕にとっての「素晴らしい料理」かもしれません。自分に向けて、食べる人の好みに合わせて、料理ができるって最高じゃないですか。

白央篤司