デンマークの子供番組の半端ない《本気度》。子どもであることが尊重されている

デンマークの子供番組をみて「なぜこんな番組を放映するんだろう」と思っていたわたしは、“テレビ番組が子どもの行動に何らかの影響を与えるべきもの”だと無意識に思っていたことに気づいた。
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Maskot via Getty Images

今から10年ほど前。デンマークで乳幼児2人を育てていたわたしは、子どもたちとよく日本の子供番組を見ていた。とはいえ直接見ることはできなかったため、DVDを買いためて、番組を見ながら娘と歌ったり踊ったりしていた。娘が特に好きだったのは「おかあさんといっしょ」。季節や日常の何気ないできごとから、トイレトレーニングや歯磨きに至るまで、様々なことを歌や遊びを通して学んだり楽しく練習させてくれて、ほんとによくできてるなぁと思ったものだ。

デンマーク国営放送の子供番組への違和感

一方、デンマークの子供番組はコンセプトが全く違っていた。始めの頃はその魅力がよくわからなくて、あまりわたしは楽しめなかった。まずキャラクターがかわいくない。声も低く子どもらしくない。教育的なことを扱っていない。下手するとその真逆で、子どもに変なことを教えているんじゃないかと思うほどだった。

例えば、かわいくない代表はこの「バムセ」。ディズニーチャンネルや動画配信サービスなど、たくさんの選択肢がある昨今ではもう古いのかもしれないけれど、この黄色いクマは、デンマークの大人ならほぼ誰もが知っている子供番組の有名なキャラクターだ。ただこのバムセは、本当に自己中で、親友のヒヨコのキューリン(デンマーク語でヒヨコの意味)に濡れ衣を着せたり、意地悪もする。自分のことが一番大切で、気に入らないことがあると文句を言ったり、泣いたり怒ったり。それでも、機嫌が良くなれば、友達にとっても優しくしたり、自分の愚行を謝ったりもする。そういう気まぐれなところに、見ていてわたしはやや不安を感じていた。

それでも、子どもたちは楽しそうに見ていたし、何より夫を含むこちらの大人たちが懐かしそうに番組のことを語ったり、歌を歌ったりするので、なんとなくわたしも受け入れていた。

でもなぜこのバムセがそんなに魅力的だったのか。それが今ひとつよくわからなかったわたしは、夫や、当時働いていた児童図書館の同僚にたずねた。すると返ってきた答えはこうだった。

「バムセは子どもそのものだから。」

そう、確かに子どもそのものなのだ。そしてその自然で、修正されていない子どもらしさが堂々と提示されることに、わたしは不安や居心地の悪さを感じていたのかもしれない。

1980年代に始まったこのバムセシリーズに限らず、デンマークの国営放送局DRの子ども番組は、現代でも、ちょっとどきっとしてしまうような、あるいは人によっては非常に不快感をおぼえるような番組を作り続けている。たとえば、「エビおじさん」(Onkel Reje) シリーズはこんな感じだ。

オレは風呂に入るのが嫌いだ~
オレは風呂に入るのが嫌いだ~
オレは臭いし、それも気にしない~
オレは風呂が嫌いなんだ~

こんな歌を歌っているエビおじさん(もうエビオヤジと言ってしまいたいような)。この歌は一時期子どもたちの間でブームだった。この後も、このエビおじさんは、お菓子の方がブロッコリーより美味いと歌ってみたり、おならに火を付けたり。さらにはデンマークの女王、マルグレーテ二世からもらったプレゼントを気に入らないと言ってみたり。見ているこちらがひやひやするようなことを言ったりやったりする。実際、このエビおじさんのせいで子どもがお風呂に入りたがらない!野菜を食べたがらない!と怒り心頭なクレームもあるそうだ。それでも、大半の子どもや保護者からは、おだやかに受け止められている。放送局も、エビおじさんシリーズを止めるつもりは全くない。

さらにこの他にも、セバスチャンという動物レポーターが、クリスマスに食べるカモを実際に絞めて見せる番組があったり、「まずいごはん」というタイトルで、毎回、黒パンにおかしな具の組み合わせを載せて食べるというものもあった。

なぜこんな番組を放映するんだろう。こんなものを子どもに見せようとするのはなぜだろうと思っていたわたしは、テレビ番組が、子どもの行動に何らかの影響を与えるべきものだと、無意識に思っていたことに気づいた。

ゲートキーパーを通さず子どもに直接語りかける

デンマークの国営放送局DRが子ども番組の制作を始めたのは1960年代。オーフス大学でスカンジナビアのメディア史と子ども史を研究しているHelle Strandgaard Jensenによると、DRは子ども番組の制作について、この頃から一貫した姿勢を貫いているのだそうだ。その姿勢とは、子どもに直接語りかけるということ。ゲートキーパー(取捨選択をする権限をもつ者)を通さず、子どもの目線で面白いと思うものを作る。つまり、教育的な視点や、子どもとはどうあるべきかという大人の判断を介さず、子ども自身が面白いと思うもののみにフォーカスする。Jensenによると、それは非常に挑発的な行為で、保護者が持つ権威を揺さぶるものだという。

子どもとメディアについての議論は、結局、子どもであるとはどういうことなのか、という議論なのです。どのような価値観、態度、経験をわたしたちはメディアを通して子どもたちに伝えたいのかということなのです。

-Helle Strandgaard Jensen

確かに、わたしも揺さぶられたのだ。そして子ども番組とは、大人が信じる「何か良いもの」を子どもに伝えるものだと思っていたことに、わたしは気づいた。少なくとも子どもが楽しければそれで良いという思いは、わたしにはなかった。

外国からも驚きの反応

デンマーク国営放送局DRの、時に挑発的なほどの子ども目線は、外国からも驚きの目で見られている。たとえば、タイムズマガジン誌は、デンマークの子どもたちが、道端で死んだハトを見つけるという動物番組を紹介し、「死」という、タブーとされることも多いテーマについて、デンマークの子ども番組が率直で誠実に向き合っている点を評価している。そして、子どもと死の事実に向き合うことは難しいことだけれど、それによって心の解放があるのかもしれないと述べている。

一方で、エビおじさんについては、エコノミスト誌が「品がない」と厳しく批判。アメリカやイギリスでこの番組が放映されることはないだろうとしている。やはり、他の国でも難しいのだ。

子ども向けニュース番組も子どもの視点で

今年春、ロックダウン時にデンマークの首相が子どもたちに向けて会見を行ったことが、日本でも報道された。学校が突然閉鎖されたことで、子どもたちはこれがいつまで続くのか、友達に会っても良いのか、外出しても良い?誕生日会を開いても良い?といった疑問をもち、それに首相が直接答えるという機会は話題になった。

この子ども向け記者会見を報道したのも国営放送局DRだった。Ultra Nytは、子どものためのニュース番組だ。

この番組では、新型コロナウイルスに関することからミンク殺処分の話題はもちろん、アメリカの大統領選挙やレバノンの爆発事件など、外国の話題ももちろん扱っている。でもUltraNytはただの報道番組ではない。番組では、子どもたちが日常的に経験していることにも焦点を当て、それも合わせて放送している。

たとえば、身近な家族を失った子どもたちのこと。脱毛症になった女の子の話。親元で暮らせない子どもたちの日常や、ADHDを抱えた子どもたちがどんな気持ちですごしているのかなど。ここでも一貫しているのは、子どもたちの日常に注目し、それをインタビューを通じて具体的に伝えていることだ。

それ以外にも、子ども向けニュース番組Ultra Nytにはこんな特徴もある。

・視聴者である子どもたちの生の声を活かす番組作り
・わかりやすく伝えるために、制作者が素材を深く理解するように努める
・クリエイティブな編集と伝え方
・センセーショナルな伝え方はしない

番組の司会者たちは、髪をピンクに染めていたり、派手な色の服を着ていたり。また大人向けの報道番組のような、深刻な表情もしていない。そして、画面にはポップなアニメーションが現れたり、場面が早いテンポで切り替わるなど、子どもたちが見ていて楽しいと思える作りになっている。番組制作者によると、YouTubeを日々見慣れている子どもたちにとって面白いと思えるような番組作りを心掛けているそうだ。

また番組内では、視聴者である子どもたちが送ってくる動画を頻繁に紹介している。必ずしもそのクオリティが高くなくても、参加型の番組にすることで、視聴者である子どもたち自身が、自分たちの番組だと感じられるからかもしれない。また制作者らはSNS等を通じて、常に子どもたちがどんなことに関心があるのかもリサーチしているという。質問があれば、番組のSNSに問い合わせることができる。こういった双方向のコミュニケーションも、子どもにとっての番組であるための工夫だろう。

さらに、ニュースをセンセーショナルに報道しないのも特徴だ。そして子どもにわかりやすく、かつ多角的にニュースを伝えるためには、制作者が内容を深く把握する必要があることから、速報的な報道もしないという。週に5回あるこの番組では、素材をある程度の時間をかけて分析し、伝えることを心掛けている。報道番組はあながちネガティブな側面に注目しがちだ。新型コロナウイルスのニュースも悲観的になりやすいが、Ultra Nytでは、実際に感染した子どもからの動画に医師の動画コメントを添え、子どもの感染者のほとんどは重症化することはないこと、また多くの人々が比較的軽症で済んでいることなどを伝えている。どのニュースもどこかに希望を感じられるように作られている。

何気なく見る子供番組が、実際どれほど子どもたちに影響を与えているのかはわからない。エンタメも現代では多岐に渡るため、デンマークの全ての子どもがDRの番組を見ているわけでもないだろう。それでも、DRのアンチ権威主義ともいえるほどの、子どもを起点にした番組作りは興味深い。それは、ここに暮らす人々の批判的精神ともつながっているように感じる。子どもが何かを教えられるだけの立場でも、消費者でもなく、ただ子どもであることが尊重されている。そうして作られた番組を見せるかどうか。試されているのはわたしたち大人側なのかもしれない。

(2020年12月14日さわひろあやさんnote掲載記事「デンマークの子ども番組が、本気で子どもに向けて作られているという話」より転載)

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