「企業の大きさ+知名度=良い企業」の時代は終わった? 経営者が知るべき「消費者が求める基準」とは

社会貢献を自社のビジネスに繋げることで、ユーザーからの支持を獲得できる。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜 DAY1の報告レポート
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2月19日と20日にパシフィコ横浜で開催されたサステナブル・ブランド国際会議2020。

60以上のセッションやプログラムが行われ、「グッドライフの実現」をテーマに国内外から200以上のスピーカーを迎えて、幕を下ろした。その中から、DAY1である19日に行われた2つのセッションについて、概要をお伝えする。

次世代の企業ブランディングに必要なこと

「サステナビリティ時代の企業ブランディング - 選ばれ続ける会社とは」というセッションでは、自社の事業にどのようにSDGsを取り入れるかについて事例が紹介された。

ファシリテーターを務める中央大学大学院 戦略経営研究科フェローの細田悦弘氏は、こう話した。

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「かつては企業規模や知名度、上場しているかどうか“良い企業”の基準でした。しかし今は社会や地球に良い影響を与える会社こそが、“良い企業”であるとユーザーの判断基準が変わってきています」

どのマーケットもレッドオーシャン(競争が激しい市場)になっている今の時代、サステナブルな会社として収益や成長を実現するために重要なことは、「自社らしい社会貢献」と「ビジネスによる社会課題解決」と行うことだと細田氏はいう。

それを踏まえ、3社の代表が「SDGsビジネス」の事例を挙げた。

まず、日本製紙クレシア株式会社 営業推進本部 本部長 髙津 尚子氏は、日本発売55年を迎える同社のメインブランド「クリネックス」と「スコッティ」について述べた。

「東京工場にリサイクル施設を設け、地域から回収した紙パックを再生・再利用しています。また、トイレットペーパーのやわらかい品質はそのままに、製品をコンパクト化できる技術を開発し、特許を取得。省スペース化が実現し、在庫効率やトラックの積載効率を改善、そして品出しの負担軽減に成功。物流における社会課題の解決に貢献できました」(髙津氏)

日本ロレアル株式会社 副社長 コーポレート・コミュニケーション本部長 楠田 倫子氏も続ける。

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日本ロレアル株式会社 副社長 コーポレート・コミュニケーション本部長 楠田 倫子氏
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「自社らしい社会支援として、シングルマザーのキャリア支援『未来への扉』を行っています。5カ月にわたる講座を受講すると、ロレアルの美容部員またはアデコの派遣社員として働くことができるという制度です。また、ビジネスによる社会課題解決としては、天然由来のスキンケアブランド「KIEL‘S(キールズ)」で、森林保全団体への寄付や空き容器の回収・再利用を行う「MADE BETTER」という取り組みを始めました」(楠田氏)

一方、2010年に大和証券グループのネットバンキングとして生まれた株式会社大和ネクスト銀行 企画・事業開発担当 取締役 田端達氏はこう語った。

「『えらべる預金』という預金プランを新たに設けて、自社らしい社会貢献に取り組んでいます。その中の「応援定期預金」では、預金金額の一部を「こども病院の設立」や「水源林の保護」への寄付に充てています。この取り組みは2019年12月に行われた第3回「ジャパンSDGsアワード」で特別賞を受賞しました。大和グループ全体としては「グリーンボンド」「ワクチン債」といった「SDGs債」をつくり、社会課題の解決に貢献しています」

ファシリテーターの細田氏は「SDGsを起点とした事業創出を行えば、ブルーオーシャンな新しいマーケットを開拓でき、唯一無二のブランドになることができます。しかも、社会に貢献しているとみなされ、消費者から選ばれるブランドになれるでしょう」と、セッションを締めくくった。

サステナビリティを浸透させるためのストーリーテリングとは

「ストーリーで語るサステナビリティ」というセッションでは、サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサーである足立 直樹氏をファシリテーターに、マーケティング活動の最前線でSDGsに取り組む4人が語り合った。

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不動産・住宅情報サービスなどを手掛ける株式会社LIFULL 執行役員 Chief Creative Officer 川嵜 鋼平氏は、広告会社で10年以上クリエイティブ・ディレクターを経験し、2018年にLIFULLに入社、CCOとしてブランドの戦略・デザイン・マーケティング・コミュニケーション・事業開発全般などに携わっている。 

同社は「あらゆる人の暮らしや人生を、喜びや安心で満たしていきたい」という思いのもと、2017年に「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを掲げ、「株式会社LIFFUL」へと社名変更した。

この時、ブランドストラテジーの策定を一手に引き受けたのが川嵜氏だ。当時、LIFULLの抱えていた課題は「何をしている会社なのかわからない」というものだった。

そこで経営陣や社内外のパートナーと一緒に、6カ月にわたってブランドの「Purpose」を策定するプロジェクトを行った。

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株式会社LIFULL 執行役員 Chief Creative Officer 川嵜 鋼平氏
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紆余曲折の結果生まれた「Purpose」は「今まで手つかずだった問題も、視点を変える発想があれば豊かさへと変えられる。あらゆる人が無限の可能性の中から自分の生きたいLIFEを実現できる、それが当たり前の社会をつくっていく」というものだった。

川嵜氏は「Purpose」を策定したことによって、リアルで一貫性のあるブランドストーリーを伝えられるようになったと考えている。

「こうした『Purpose』があることで、LIFULLというブランドが消費者や社会から見てどのような存在かということがわかりやすくなりました。このようなブランドストーリーをしっかり伝えられれば、消費者はその企業やブランドに「一票を入れる」ような気持ちで製品を選ぶようになるでしょう」(川嵜氏)。

LIFULLではこのブランドストーリーをベースに、2019年5月から企業CM「しなきゃ、なんてない。」篇を放映。

「結婚しなきゃいけない」「子育ては女性がやらなきゃいけない」「大学に行かなきゃいけない」などといった、未だ社会に残る既成概念を壊し、すべての人の多様な生き方をサポートしたいというブランド・企業の想いをこめた。

LIFULL 企業CM『しなきゃ、なんてない。』篇 120秒

この広告キャンペーンは延べ3300万配信を突破、社会課題を解決する企業であるという企業姿勢を示すことができた。川嵜氏はこれからも、社会に議論を巻き起こすブランドストーリーを描いていきたいと考えている。

1932年にデンマークで発祥し、日本でも根強い人気を誇る老舗玩具メーカー、レゴジャパン株式会社 オペレーション部 ディレクター 大山 亜砂美氏は、2016年に同社へ入社後、現在はサプライチェーン関連のリーダーを務めている。

木製のおもちゃからスタートしたレゴは、9億種類以上もの形をつくることができ、自由かつ柔軟に想像力を働かせて遊べるブロック玩具だ。その社名はデンマーク語で「よく遊べ」を意味する「Leg Godt」に由来している。

レゴ社のミッションは「Inspire and develop the builders of tomorrow(ひらめきを与え、未来のビルダーを育もう)」というもの。子どもたちの発達のために、遊びを通してインスピレーションを与える機会を提供しようという想いを込めている。

中でも特徴的な取り組みは、石油系プラスチックによるレゴの製造をやめ、2030年までにサステナブルな植物由来の原料でレゴを製造するという目標を掲げていることだ。その研究の中で生まれたのが、2018年から発売されているサトウキビ由来のポリエチレンからつくられた「植物」などのレゴだ。こうしたサステナブルなレゴは「ツリーハウスキット」などとして販売され、好評を博している。これから10年で、レゴ社はすべての製品をサステナブルな原料から製造すると意気込んでいる。

広告会社で様々な企業のSDGsの取り組みを支援している株式会社 電通 電通 Team SDGs/新!ソーシャル・デザイン・エンジン プランナー 間宮 孝治氏は国内のSDGs広告の傾向について語った。

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株式会社 電通 電通 Team SDGs/新!ソーシャル・デザイン・エンジン プランナー 間宮 孝治氏
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間宮氏は、「“とりあえずSDGsを始めました”というフェーズから“SDGsに取り組む自社のストーリーを伝えます”というフェーズへ移行してきました」と話す。

その上で、間宮氏は日本におけるSDGs広告についての最近の特徴について語った。

「特に新聞広告について注目してみると、これまでは経営者がSDGsに取り組むことをただ宣言するタイプの広告が多かったのですが、2019年くらいからSDGsを踏まえた製品・技術について訴求する例が増えました。他にも、あえてSDGsをうたわずに自社の取り組みをさりげなく伝える広告も増えています」(間宮氏)

SDGs広告は、「宣言から具体」へのフェーズへと移り、実際に「何をしているか」が重要なってきていると間宮氏は話した。 

カンヌ広告祭のSDGs部門で審査員を務めているトーマス コルスター氏。カンヌ広告祭でSDGs部門が2年前に設立。なぜ多くの企業がSDGsをもとにしたブランドストーリーを重視し、世の中に発信するようになったのだろうか。 

「宣伝を目的とした表面的なサステナブル・マーケティングは鳴りをひそめ、そもそもその製品がどんな原材料でつくられ、どのような考え方のもと生まれたのかについて重視するブランドが増えています。それによって消費者のマインドをゆさぶることができるし、サステナブルなソリューションを見つけたいというニーズに答えることができるからです」

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ファシリテーターの足立氏は、「ただSDGsについて取り組むだけでなく、その根底にある考え方やその取り組みのプロセスをブランドストーリーとして社会に伝えていくことで、ブランドとユーザーの絆を深まるはず」と話した。