マザーハウスがアパレルに挑戦。山口絵理子さんは、インドで「自由を勝ちとった布」を見つけた。

大量生産でも、手仕事でもない。“第三の道”を
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「途上国から世界に通用するブランドをつくる」

この理念を掲げるブランド「マザーハウス」が今秋、天然素材のアパレルラインを立ち上げた。

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MOTHERHOUSE

「ファブリックマザーハウス 東京池袋店」が11月16日にオープン。「Clothes Beyond Borders」(国境を超える服)をテーマに、インドやネパールの生地や織物を生かし、現地の職人が手がけたアイテムが展開されている。

天然素材ながらビジネスシーンでも着られるテーラードジャケットやシャツが揃う。女性でも肩の力を抜いて、自然体で働けるのが特徴だ。

2006年に代表兼チーフデザイナーの山口絵理子さんが立ち上げた「マザーハウス」。バッグやジュエリーの商品ラインに続いて、いまアパレルに挑戦するのはなぜか。どんな世界を思い描くのか。

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マザーハウス代表取締役、チーフデザイナーの山口絵理子さん
Kaori Sasagawa

インドの「自由を勝ちとった布」に魅せられて

2017年10月にインドのコルカタを訪問した山口さんは、インド独立の父と称されるガンジーが手がけた手紡ぎの綿のシャツと出会った。イギリスに(原材料の)綿花を買われていた時代に、製品加工までを自分たちでやろうと挑戦したものだ。

その布の名は、『ファブリック・オブ・フリーダム(自由を勝ちとった布)』

山口さんは、「このスピリットが大好きで、現代風にアレンジしたいなと。アパレルは特に、生産コストが見合わないから、誰かがババを引かなきゃいけないとみんな言います。でも、私は "見てはいけない真実"が日常的に見えるところにいるので、ふざけるなと思うんです」と語る。

現在は、インドのコルカタに工場も持ち、糸や生地作りから縫製まで自社で手がけているという。

こうして誕生したマザーハウス のシャツのタグにも、『Made in India -FABRIC OF FREEDOM-(インド製 ファブリック・オブ・フリーダム)と刻まれている。

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インドの職人が手がけたシャツ。タグには「FABRIC OF FREEDOM」の文字
Kaori Sasagawa

大量生産でも、手仕事でもない。第三の道を

ファッション業界では、途上国で安く生産し安価で販売するファストファッションのブランドが世界で席巻している。山口さんが見据えるのは、そんなファッション業界の構造そのものだ。

「アパレルは、市場としてもビジネスとしても難しいと言われる。わかっているが、もともとマーケットを見て始めたわけではない」

「途上国は原材料の輸出国と思われているが、みんなが笑顔になれる方法があるはず。まず定番のシャツから始めて、職人も20人に増えて体制が整ってきたのでアパレルラインに広げることにしました」

大量生産でも、手仕事でもない。その間にあるビジネスを目指す。山口さんは、NHKワールドのインタビューで、「Third Way(第三の道)」表現した

「アジアの国も、価格競争はしたくない。でも他の選択肢がない。小国だと人件費は下がらないが、手作のお土産屋では、将来は先細りで職人さんは激減していく。私たちはいま、バッグでは月に1万個生産できる。アパレルでもできれば、明るい未来のシナリオが描けます」

ASEANで山口さんがこのビジョンを話した際も、アジア各国から賛同を得られたという。

もちろん、生産プロセスだけでなく価格にもこだわる姿勢が必要だ。

「ゴールは何か? お客さんに届けること。すべて手作りにこだわらなくてもいい。職人たちの技術を生かしながら(機械化できるところなど)技術の革新をすることも大事」と山口さんは話した。

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天然素材のジャケット。旅をしながら、女性が自然体で働けるアイテムだ。
Kaori Sasagawa

"バッグのマザーハウス"を超えて

アパレル事業は、マザーハウスにとっても未知なる挑戦だ。

2006年に山口さんが立ち上げたブランドも、いまや日本に29店舗。香港や台湾、インドネシアなどアジアに出店している。生産に関わるスタッフは全世界で約650人、国内は約150人に及ぶ。

事業の成長とともに、スタッフも育っていく。ファブリック部門を統括する田口ちひろさんも、マザーハウスとともに挑戦してきたひとりだ。2009年にアルバイトとして入社後、2010年に自ら希望しバングラディシュの工場へ。生産管理の責任者を経て、ファブリック部門のチームを率いる。

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ファブリック部門を統括する田口ちひろさんと山口絵理子さん
Kaori Sasagawa

バッグはブランドの大きな柱に成長したが、バッグのマザーハウスを目指しているわけではない。

山口さんは、今後のマザーハウス について「安定したブランドになるのではなく、大変だけど新しい事業の立ち上げをする方がエキサイティングで組織の存在意義にもなる。ジュエリーやアパレルの小グループを作っていきたい」と展望を語った。

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「『ファブリック・オブ・フリーダム」の白シャツは、1万6000円。

あなたに、とってこの値段は高いだろうか。安いだろうか。

途上国で、生地作りから手がけ職人が手織りした一枚は、既製品とは肌触りが全然違った。

「第三の道」は、途上国の生産者だけでなく、私たちの日常も豊かにするものなのだろう。