音声コンテンツは日本人の社会通念を変えるか? 中国最大手「ヒマラヤ」が挑む日本市場の険しい山々

中国で6億ダウンロードを達成した音声コンテンツの覇者が、日本では数々の課題に直面している。乗り越えるためには...

突然だが、ふだんどの程度、音声コンテンツを利用しているだろうか?

車通勤の人は、ポッドキャストを流しながら会社に向かうかもしれない。電車なら、YouTubeの音声をイヤホンで聴きながら、という習慣があるかもしれない。

音声は、両手や視界を自由にしながらコンテンツを楽しめる利点がある。通勤に限らず、家事などの生活のちょっとした隙間にも取り込めるのが特徴だ。

この隙間を狙って2017年に日本に進出したのが、中国で6億ダウンロードを達成した音声配信最大手「ヒマラヤ」だ。中国の成功体験を元に日本での浸透を目指すが、その道のりは平坦ではない。日本版ヒマラヤを運営する「シマラヤジャパン」を取材すると、日本の音声市場が抱える課題が見えてきた。

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齋藤ソフィー・シマラヤジャパン副社長
Fumiya Takahashi

■時代が味方し成長

「ヒマラヤよりも先に、すでに中国には音声プラットフォームがあったんです」そう語り始めたのはシマラヤジャパンの齋藤ソフィー副社長。中国で後発だったヒマラヤが最大手の座を掴んだ理由を教えてくれた。

「特定のジャンルにコンテンツを絞らず“何でもある”という状態にしました。漫才もあるし、経済について学ぼうと思えばイェール大学の教授の講義を聞くこともできます。

ただ一番は、誰でも気軽に配信できるシステムを整えたことだと思います」

中国では動画サイトなどでインフルエンサーを目指す人も多い。その夢物語を音声に求める人も多かったということだ。中国には声優を養成する学校も増えていて、そこに通う声優の卵たちもうまく取り込んだ。

成功例もある。ある大学生は人を怖がらせるのが得意。ヒマラヤ側が墓暴きをテーマにした怪談小説の版権を買い取り、この学生に読ませたところ、大ヒット。大学生は月に100万元(1500万円余り)を稼ぐようになった。

「誰でも配信できることで基礎ユーザーの数が溜まりました。そこに(外部から購入するなどした)優良なコンテンツを投入することで、それを聞く人が増えた。コンテンツの配信側もヒマラヤにメリットを感じるようになりました」齋藤さんは振り返る。

ライフスタイルの変化もヒマラヤの追い風となった。「音声コンテンツ」への認知度が低かった中国で、徐々にその存在が認められていく。

「最初は“音声コンテンツ?ラジオのこと?”みたいな存在でした。ただ、中国が車社会になり、スマホが普及するようになり...音声コンテンツは同じ成長カーブを描いたと思います。

車に乗っていると渋滞した時に何か聞きたくなる。スマホがあればアプリでいつでも聞けるし、オンライン決済で簡単にコンテンツを買えます」

ヒマラヤは基礎ユーザーが十分に蓄積されたと判断、2016年に有料コンテンツの配信に踏み切る。娯楽系のほとんどは無料のままとし、教養を身につけるためのコンテンツを中心に価格を設定した。

当初は一日10万元(150万円余り)程度の売り上げだったが「ここから知識への課金が根付いていきました」と齋藤さんは解説する。

「それまで中国では、ネットのコンテンツは無料で当然という風潮があり、映画も音楽も海賊版がありました。ネットで時間をかけて無料のものを探して、しかもウィルスが入っているかも分からない、というリスクを冒すより、ワンタッチで正規品を買った方が良い、という習慣が広まったのだと思います。ヒマラヤはコンテンツのクオリティを高く維持することで20代を中心に支持を得ました。」

未だにヒマラヤの有料課金ユーザーは20代から30代の若い世代が中心。「今は10代も出てきています」と先行きは明るそうだ。

■日本人はここまで違った

そして、日本に進出したのが2017年のことだ。日本版だけでも1200以上のチャンネルを備え、コンテンツの強化を図っているが、中国での“勝利の方程式”がうまくはまらない現実もある。

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マスコットは猫をモチーフにした
Fumiya Takahashi

例えば、年齢層。中国の場合、自己啓発や学習のためにコンテンツ課金をするのは20代や30代が中心。一方、日本では40代以上が目立つという。

さらに視聴習慣の違いもある。中国では、アプリからいつでも聞ける便利さが音声コンテンツが広まった理由の一つ。日本ではまだそうした広がりは十分に見られないという。

「日本の場合、毎日訪れるユーザーのうち約半分はパソコンから聞いています。どこでも自由に聞けるというアプリの便利さがまだ十分に伝わっていないと感じます。こうした習慣は、ヒマラヤ単体でどうにか出来るものでは...」

こうしたデータからも、自由さと便利さという音声の利点が、中国と比べ日本では広く根付いていないことが窺える。一方で、齋藤さんはこうした現状が変わっていく可能性はあると見ている。

その鍵がグーグルやアマゾン、LINEなどが競って普及に力を入れているAIスピーカーだ。電通デジタルの調査によると、2018年12月時点で普及率は約6%と限定的だったが、今後成長する余地を残している。

「AIスピーカーや移動端末で音声が楽しめる、という社会通念ができていくと面白いと思っています。YouTubeだって、日本に浸透するには時間を要しました。気長に、焦らずじっくりやっていきたいと思います」

■AIスピーカーは突破口?

ちなみに、日本では未投入だが、ヒマラヤも自社でAIスピーカーを開発している。ヒマラヤの音声コンテンツや音楽を声で呼び出せる「小雅(シャオヤー)」だ。

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「小雅(シャオヤー)」小型タイプもある
Fumiya Takahashi

「シャオヤー、シャオヤー」齋藤さんが呼びかけると、指定された通りのエピソードを再生した。外出先や車ではアプリから音声を聞き、家に帰ればAIスピーカーがその続きから流してくれる、という使い道も想定している。AIスピーカーとヒマラヤのアプリは、相互補完的に絡み合う存在だ。

“音声コンテンツ”そのものの認知度アップや、移動しながらアプリで音声を聞く習慣の定着...ヒマラヤが日本で成功するためには、日本人のライフスタイルそのものが変わっていく必要がありそうだ。

道のりは平坦ではない。それでも挑戦を続けるヒマラヤに、目指す姿を聞いた。

「便利さを知った人にとっては音声は無くせない存在です。朝起きて顔洗って出かける準備しているとき、子供にご飯を作っているとき...苦手な家事も音声を聞く“ついで”になります。生活の全ての隙間にいる、付き添い型の存在になりたいです」