「テロリストの見張りシフト」イスラエル・ハガリ報道官の発言 ➡︎ 虚偽。プロパガンダの可能性も

イスラエル軍のハガリ報道官の発言は虚偽。壁の紙を指さし、「テロリストの見張りシフト」【ファクトチェック】

パレスチナ自治区ガザを侵攻するイスラエル軍は11月13日(現地時間)、同地区北部の「ランティシ病院につながるトンネルを見つけ、イスラム組織ハマスが人質を閉じ込めていた証拠を発見した」と複数の動画や静止画像などをツイートした。

投稿された動画では、イスラエル軍のハガリ報道官が同病院の地下室とする場所で、壁に貼られた紙を指差しながら「ここに人質がいた。この表は、その見張りをするテロリスト(ハマス)のシフトをアラビア語で書き込んだものだ」と話していた。

しかし、この紙に書かれているのは10月7日以降の日付と曜日で、手書きのカレンダーにしかみえない。

個人名など、「見張りのシフト表」だと読み取れる記述は存在しない。

つまり、このハガリ報道官の発言は「虚偽」だ。ハフポスト日本版はファクトチェックした。

イスラエル軍の投稿
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「見張りのシフト表だ」と発言

イスラエル軍は11月13日から、公式アカウントで次のように投稿した。

「イスラエル軍報道官のハガリは、テロリスト用の地下トンネルの一つを歩き、反対側のガザのランティシ病院に出る。このトンネルの中では、ハマスのテロリストたちが身を隠し、活動し、イスラエル人の人質を拘束している」(13日)

「ガザのランティシ病院の地下で、イスラエル軍の人質が監禁されていたと思われる部屋が発見された。その部屋で発見されたカレンダーには、イスラエルに対するハマスの恐ろしい攻撃の名称である『アル・アクサ・フラッド作戦』のタイトルとともに、10月7日の『大虐殺』からの日数が記されていた」(14日)

13日の投稿には、ハガリ報道官がランティシ病院を訪れた動画が添付されていた。

ハガリ氏はイスラエル海軍少将。イスラエル軍全体を代表する報道官として英語やヘブライ語で頻繁に声明を発表したり、記者会見したりしている。

ハガリ報道官は動画の中で、タイルに貼られたカレンダーのような紙を指さし、「『我々はイスラエルに対する作戦中である』と書いてある。これは全てのテロリストが自分の名前を書いている見張りリスト(guardian list)だ。テロリストたちがここにいた人たちを見張るためのシフト(当番)表だ」と主張。

つまり、ガザのランティシ病院の地下では、イスラエル側の人質がハマスによって監禁されていた形跡があり、その証拠としてハマスの「見張りリスト」の紙が残っていたというのが、ハガリ報道官とイスラエル軍の主張だ。

しかし、アラビア語話者に確認したところ、映像にあった壁の張り紙には「日付と曜日」が書かれてあるだけだという。

その中にだれか名前が書いてあるわけではなく、衝突が激化してからの日々を書いた手製のカレンダーのようにみえる。

イスラエル軍の投稿
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プロパガンダの可能性も

駐日イスラエル大使館によると、イスラエル人口の24%は非ユダヤ人のアラブ人、アラブ系のベドウィン人で、その多くはアラビア語を話す。

イスラエル軍にはアラビア語ができる兵士や将校は珍しくなく、アラビア語での広報活動を日常的に行っている。この紙に書いてあるアラビア語は平易で、イスラエル軍が組織として分析し間違えることは考えにくい。

つまり、ハガリ報道官の、これを「テロリストたちの見張りシフト表」とする内容の発言は、事実ではないと知りながら、虚偽の内容を発表して政治的効果を狙った「プロパガンダ」の可能性がある。

イスラエル軍は、以前から「ハマスが病院や民家をテロ拠点としていた」と主張し、国際人道法違反とされる医療機関や市民が暮らす街区への攻撃を正当化してきた。

ハマスは「イスラエルの主張には根拠がない」と声明で反論している

今回の動画は、こうしたイスラエル軍の主張を正当化するための新たな材料として発表したとみられる。

病院攻撃を巡っては、国連や世界保健機関(WHO)など各国際機関や人権団体から強い批判の声と即時停止と求める声が上がっている。バイデン米大統領も「病院は守られなければならない」と懸念を示している。

動画の中でハガリ報道官が「見張りのシフト表」とした紙。実際は日付と曜日がアラビア語で書かれてある
動画の中でハガリ報道官が「見張りのシフト表」とした紙。実際は日付と曜日がアラビア語で書かれてある
イスラエル軍がアップした動画から

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  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

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