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経営危機を経て、再成長へ。NECの堀川大介CHROに聞く、「多様性」が企業変革に「効く」理由

NECが必要に駆られて実践することになったインクルージョン&ダイバーシティ。好循環が回るようになった経緯を堀川CHROが振り返る。
madoka shibazaki

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)について、企業は時に不利益を被ってでも達成しなければならない目標のように言われることがあります。一方、NECではD&Iが経営に「効く」ことを実感し、経営戦略や組織戦略の中心に据えています。

NECのCHRO(最高人事責任者)で「ピープル&カルチャー部門」の部門長も務める堀川大介氏は、NECが2010年代に経験した創業以来の経営危機から脱したプロセスにおいて、「I&D」(インクルージョン&ダイバーシティ*)の実践が重要なターニングポイントだったと振り返ります。

同質性が高い組織では勝てない。変わらなければ──。強い危機感で多様性を受け入れたことで、会社が大きく変わりました。「やっと普通の会社になった」と語る堀川氏。これまでの歩みと、これからのビジョンについて聞きました。

*ダイバーシティ(多様性)は、多様な「個」が包括的に尊重されているインクルージョンの状態ではじめて価値を生むと考え、NECグループではインクルージョンを先にして「I&D」と表現しています。

退職を思いとどまった「使命感」

NECには新卒で1992年に入社しました。当時のNECは、コンピューター、通信、半導体の3領域で世界トップクラス。最初は、官公庁関係の営業を担当していました。

30歳手前ごろのこと、担当していた事業で重大なコンプライアンス違反が発覚し、社会的にも大きな問題になりました。私自身、会社を辞めたいと思い悩みました。

一方で、その時にあらためて認識できたのは、NECは国や社会にとって、とても重要な仕事をしているということでした。社会の安全・安心を守るというやりがいのある仕事なのだから、続けていかなければならない、会社を変えていかなければならないという使命感を胸に、思いとどまりました。

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この件をきっかけに、社員の意識改革や組織の構造改革を担当することになり、そこからはずっと企画や変革のキャリアを歩んでいます。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の崩壊と、NEC設立以来最大の危機

そんな中、二つ目の大きな転機を迎えました。

1990年代は日本企業が世界でも競争力を持ち「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代。ですが、2000年代には徐々に崩れていきました。2008年にリーマン・ショックが起き、グローバル競争の波がやってきて、GAFAが世界を席巻、中国・台湾・韓国・インドなど新興国が台頭し、日本企業が太刀打ちできなくなっていきました。

1899年の設立以来最大の危機―2012年には、大きな構造改革も実行しました。創業から100年間で5兆4000億円まで作り上げた売上が、そこからの10年間で、2兆7000億円にまで大幅に減少しました。

当時私は、経営企画本部にいて、非常に厳しい時代を経験しました。金融機関や投資家からの目線も厳しく、当時の報道ではNECは潰れる寸前、もう元には戻れないのではないかと言われていました。

「コトづくり」への大転換も、長く苦しんだ2010年代

それまでは電機メーカーとしてパソコンや携帯電話などを主力事業としていましたが、「モノづくり」から「コトづくり」への大転換をはかりました。

役員たちがNECの存在意義について議論を重ね、現在のパーパスに掲げている「安全・安心・公平・効率」の4つの価値を言葉に表現しました。この言葉には、世界中の社会課題を解決するために、強いテクノロジーや技術をもって4つの価値を発揮していくという思いがこめられています。

NECのパーパス
NECのパーパス

ただ、そこからの5年間ぐらいはうまくいかなかった。一度作って発表した中期経営計画は撤回してまた作り直しました。恥ずかしながら、プランしたことをやり遂げることができない、どん底の状態でした。

実行力の改革。人材の多様化、インクルーシブなカルチャーへ

そこで2018年、当時の社長(現会長)新野が「私たちは実行力が足りない。信頼を取り戻すため、実行力をつける」と宣言し、「実行力の改革」に踏み切りました。

人事制度改革や働き方、コミュニケーションの改革により、社員の可能性を最大限に引き出す「Project RISE」をスタート。まず着手したのは、新卒一括採用、年功序列、男性中心など、同質性からの脱却です。「同質性の高い組織では、淘汰されてしまう。グローバルに勝ち続けていくためには、社外から多様な人材を入れて、前例にとらわれない抜本的な改革をしていくべきだ」。インクルージョン&ダイバーシティを必要に駆られて実践することになりました。

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それまでのNECでは考えられなかったキーポジションに社外の人材を採用していきました。2018年にはGEジャパン元社長だった熊谷昭彦が執行役員副社長に就任。「異例の人事」と報道されました。日本IBMの元執行役員の吉崎敏文がCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)に就任、DXを強力に推進していきました。

人事制度改革として、業績と行動面の2軸で評価する人事評価ツール「9ブロック」を導入。シンプルに、業績だけでなく、行動面も含めて評価するようにしました。

キャリア採用も積極的に増やし、キャリア採用の社員とNECに新卒で入社したプロパー社員がうまく融合することによって、多様性を加速し、インクルーシブなカルチャーへと変わっていきました。

さらに、NECグループ社員が共通で持つ価値観、行動の原点となる「NEC Way」も改定。「NEC Way」は、多様な人材をつなぎ、一つのベクトルに合わせる重要な役割を担っています。

2018年のエンゲージメントサーベイ導入当初、エンゲージメントスコアは非常に低い数値でしたが、「実行力の改革」を始めてからスコアが上昇しました。継続的に利益を出せるようになり、2000年代に一度も達成できなかった中期経営計画を達成することができました。

この1年ほどで市場にも再評価され、株価にも現れています。2024年に入り、株価は1万円を超えています。

キャリア採用強化、社内のキャリアマッチングとキャリア自律をサポートする新会社設立

総合的に好影響が出ていると思いますが、人事制度改革のポイントを3点振り返ります。

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一つは、長く新卒中心の採用でしたが、キャリア入社を受け入れる専門チームを立ち上げ、キャリア採用を積極的に増やした点です。3年目には新卒と同程度の約600人の規模まで拡大しました。エージェントを通さない「ダイレクトソーシング」を強化しており、採用ホームページに変革のストーリーやビジョンを打ち出すなどして、直接の応募やリファラル(社員による紹介)を増やしています。

二点目は、グループ内の適時適所適材と個々の社員のキャリア自律を実現すべく、社内人材公募を拡充したことです。公募の仕組み「NEC Growth Careers」は、社員が発案し、人事部門と共に作り上げた施策です。さまざまな部門のポジションの情報が社内共通基盤の中に公開されるようになり、現在はグループ会社への展開に向けて準備中です。

三点目は、社員のキャリア自律やリスキリングを支援する「NECライフキャリア」を2020年に設立したことです。キャリアアドバイザーが社員の希望や悩みを聞き、最適な研修をすすめてスキルアップの支援をしたり、新たなポジションを紹介するなどし、社内外での多様な活躍を促しています。15人ぐらいで立ち上げた会社ですが、いまはキャリアコンサルタントなどのキャリア支援の専門家が60人ぐらい在籍しています。営業やシステムエンジニアとして活躍したのち、自身のキャリアの集大成として専門資格を取って社内転職してきた人が多いですね。

勤続30年間。初めて、好循環が回るようになってきた

過去を振り返ると、個人で頑張って結果を出しても、会社としての業績は上がらず、評価や報酬も上がらない。正直報われないと感じていたこともありましたが、今では高い成果を上げることができれば評価が上がり、さらに業績が上がって株価も上がると、給料にもしっかり跳ね返ってくるようになりました。そうした好循環がようやく回るようになってきたという感覚です。NECに30年在籍していますが、この感覚を得られたのは初めて。「やっと普通の会社になった」と思っています。

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目指すのは「深層ダイバーシティ」が発揮できる組織

女性活躍の推進も、戦略的に多様性のある組織につくり変えていくために、「実行力の改革」が始まった2018年から本腰を入れて取り組みました。技術者の多い会社ですが、女性活躍の場面を積極的に設け、2018年以前は5%前後で推移していた女性管理職比率が、現在では10%を超えました。女性・外国人役員比率は17%近くになっています。

私は、女性活躍の実現はダイバーシティの象徴であると考えています。ですが、本質的に目指すべきは、性別や国籍などの属性の違いだけでなく、価値観や考え方なども含めた「深層ダイバーシティ」が発揮できるような組織です。

深層ダイバーシティを目指すにあたっては、「個性の発揮」と「組織への帰属」の両軸で制度や環境を整えることがポイントだと考えています。日本の高度成長期の「勝ちパターン」だった、大量生産でモノづくりをしていたときは、皆が標準的な動きを同じスピードで行うことに価値がありました。これからは改めて一人ひとりの違いを前提として、個性や強みを引き出していく方向に意識を変えていき、それを受け入れる素養を持ったマネジメントの育成やカルチャーへの変革を推進していきます。

madoka shibazaki

日本発のグローバルカンパニーとして、目指すは世界の好循環

多様性や高い技術力を生かし、テクノロジーやビジネスのイノベーションを起こすことが、カスタマーバリューやソーシャルバリューにつながり、対価としての売上や利益につながる。これを循環させ、サステナビリティ経営を実現していく──。

出典:2024年3月15日開催「ESG Day」資料

企業変革の現在地としては、長く続いたマイナスがようやく0を超えた状態。ここからどんどんプラスに向かっていくために、この動きをグローバルやグループ会社に浸透させていく必要があります。NEC本体は変革が浸透し、一体感が出てきていますが、グループ全体では約11万人の社員を抱えており、本体は2万3000人ぐらい。まだ道半ばです。

日本電気という社名には、日本を代表する電機会社に、という創業の思いが込められています。国内だけでも険しい道のりでしたが、 NECでの良い循環をグループ会社やグローバルに波及させ、日本発のグローバルカンパニーとして、真に世界でプレゼンスを発揮できるよう本質的なI&Dをさらに推し進めていきます。

多様な個性を最大限に生かし、パーパスの実現に向けて、皆がベクトルを合わせて職務を遂行している状態が理想です。大事なのは未来をより良くしていこうという思い。世界の仲間たちと一緒に明るい未来をつくっていきたいですね。

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(文:林 亜季 写真:柴崎まどか 取材:株式会社ブランドジャーナリズム )

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