最高裁判所裁判官の国民審査と憲法改正の関係を見てみると…

石破 茂 です。

総選挙も終わり、自民党の憲法改正推進本部も陣容を新たにして再スタートします。検討すべきテーマを再度ひととおり洗い出して、優先順位を定めるべきと考えます。

当欄をお読みくださっている皆様も、この度の総選挙にあたり、前回の総選挙後に任命された最高裁判所裁判官の国民審査に投票されたことと思いますが、その際にどれほどの方が最高裁裁判官の名前や判決の時の行動をご存じでしたでしょうか?

最高裁裁判官は内閣の任命によるもので、時の政府の恣意による任命が行われる可能性を排除できないことから、国民審査が置かれているというのが憲法制定時の想定です。

この国民審査は、国民の公務員選定・罷免権(憲法第15条)から派生したものとされますが、国際的にもあまり例を見ない制度です。

もしこの国民審査が形骸化し、十分に機能していないとすれば、憲法改正論議においては、三権分立の観点からも、何らかの形で国会が関与するシステムも考えてしかるべきだと思っております。

なお、国会に設けられている裁判官弾劾裁判所は、裁判官の罷免事由を「職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったとき」「裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき」に限定しており、裁判官の判決内容の当否などは罷免事由となりませんし、弾劾裁判所は国会とは別の独立した常設機関であって国会の機関ではないとされています。

前回若干提起したところですが、第9条の関連として、「軍」と言う言葉を忌避するあまり、今までほとんど取り上げてこられなかった「政軍関係」という論点があります。

我が国においては国家行政組織法上、実力(軍事)組織たる防衛省・自衛隊が警察と同様に行政機構にそのまま組み込まれているため、法理的に「文民統制」という概念が生じる余地が無いようになっていますが、これは国際的にはかなり異様な形態です。

民主主義国家においては、軍事組織に対して、司法・立法・行政の各機能からそれぞれ統制がなされるのが本来あるべき姿なのですが、我が国においては、軍事組織が「行政」であるため、その他の統制機能が特別に設けられていません。

その結果、①有事における軍事組織と一般社会とでは法の適用が全く異なるのにもかかわらず「軍事裁判所」が設けられていない、②自衛官(いわゆる制服組)は国会において一切の説明も答弁もしない、③防衛分野に必ずしも通暁していない者が大臣に就き、作戦(運用・軍令)まで握ることがままある、などという現象が起きますが、決して望ましいこととは思えません。

この政軍関係論から考えれば、戦前の統帥権独立が日本の失敗を招いた、というよりはむしろ、陸海軍大臣の補任資格が「現役の陸海軍大将・中将」であったため、軍の意に沿わない内閣には大臣を出さないことにより、軍が政治に対して多大の影響力を行使できたことの方が、影響は大きかったように思われます。

自衛隊を憲法上位置づけるにあたっては、交戦権否認の削除のみならず、文民統制を憲法上に定め、政治と自衛隊の関係を明確にする必要があると考えます。

自民党の憲法改正草案においては、財政の健全化も新しく盛り込まれています。

異次元の金融緩和により円安が起こり、外国人投資家がお買い得となった日本の株を買い、株価が上昇するのは自然の成り行きですが、日銀が民間銀行の保有している国債を買い、日銀にある民間銀行の当座預金口座に資金を供給することには自ずと限界があり、地方創生や規制緩和によって潜在的な成長力を最大限に引き出すとともに、医療を主体とする社会保障改革は避けては通れません。

経済政策は情緒論に堕することなく、すべて数字を基に議論されるべきです。

このように論点は多岐にわたるのであって、徒に時間をかけるべきではありませんが、憲法改正発議を主導する立場にある自民党においては、新人も含めて党所属議員が論点を正確に理解し、明確な意識を持って論議に臨むべきものと考えます。

週末は、3日金曜日・文化の日が北海道グラウンドワークフォーラム講演会にて講演・関係の方々との懇談会・夕食会(午後1時半~・札幌プリンスホテル)。

4日土曜日は(株)セコマ釧路配送センター見学(午前9時20分・釧路市)、猛禽類医学研究所見学(午前10時半・同)、北海道グラウンドワークin釧路にて講演(午後1時・釧路プリンスホテル)、釧路コールマイン(株)見学(午後4時・釧路市興津)、関係の方々との夕食懇談会(午後6時・釧路市内)。

5日日曜日は、太平洋石炭販売輸送釧路臨港鉄道石炭列車見学(午後4時・釧路市春採)、法政大学自主法政祭・志雄会主催講演会にて講演(午後3時・法政大学市ヶ谷キャンパス)、という日程です。

カレンダーもあと二枚となってしまいました。ここから年末・お正月まではあっという間です。例年のことながら焦燥感のみが募ります。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

(2017年11月2日「石破茂オフィシャルブログ」より転載)