フェイスブックはなぜ「フェイクニュース警告マーク」を外すことにしたのか?

この取り組みには、様々な疑問や指摘が上がっていました。

フェイスブックは21日、ファクトチェックによるフェイクニュースへの「警告マーク」の表示をやめることを明らかにした。

フェイクニュース対策として、昨年末に鳴り物入りで始まった外部メディアとの提携によるファクトチェック。さらに、その結果を反映する仕組みとして、今春からスタートした「警告マーク」。

だが、ファクトチェックを担うメディアからは、フェイスブックが詳細なデータを開示しないことへの不満が噴出。また「警告マーク」についても、専門家から効果を疑問視する指摘が出ていた。

そしてフェイスブックが「警告マーク」取り外しの理由として挙げたのは、まさに「運用」と「効果」の問題だった。

●ファクトチェックと警告

フェイスブックのニュースフィードを担当するプロダクトデザイナー、ジェフ・スミス氏ら3人は21日、「
」と題した投稿をブログメディア「ミディアム」で公開した。

「1年にわたるテストとそこから学んだこと受けて、私たちはユーザーがフェイスブック上でフェイクニュースを目にした時の、警告の仕方の変更に着手している」と投稿は述べる。

米大統領選で注目を集めたフェイクニュースの氾濫。その舞台として批判を浴びたフェイスブックが、メディアの国際組織「国際ファクトチェッキング・ネットワーク」と連携し、フェイクニュース排除に乗り出すことを発表したのが昨年12月15日だった

対策の柱は、(1)ユーザーによるフェイクニュースの通報をしやすくする(2)提携メディアがフェイクニュースかどうかのファクトチェックを実施する(3)フェイクニュースと認定されたら、「問題あり」との「警告マーク」を表示し、拡散を抑制。共有しようとするユーザーには、さらに「問題あり」とのアノテーションを表示して「キャンセル」か「続ける」かを選ばせる、などだ。

このうちの「警告マーク」の表示は、今年3月から運用が始まっていた。

●「バックファイアー効果」と情報開示

だが、この取り組みには、様々な疑問や指摘が上がった。

特に注目を集めたのは、ファクトチェックに基づく「警告マーク」の効果が限定的である、とのイェール大学の研究者が9月に発表した調査結果だ。

米国の約5000人を対象にした調査によると、ファクトチェック表示によるフェイクニュース排除効果は数%にとどまり、トランプ支持層や若者層では、逆にフェイクニュースを正しいと思う割合が増加する「バックファイアー効果」も見られた、という。

ファクトチェックが、フェイクニュースへ排除の狙いとは裏腹に、その信頼度を上げてしまうという逆効果をもたらす「バックファイアー効果」。

この問題については、ダートマス大学のブレンダン・ニーハン教授らの研究がよく知られている。

特に昨年の米大統領選をめぐっては、トランプ氏の支持層「オルト・ライト(オルタナ右翼)」が、既存メディアによる同氏の発言へのファクトチェックを意に介さず、むしろ支持を強める傾向にあったこととも関連して、この「バックファイアー効果」の問題が取り上げられてきた。

そして、ファクトチェックで提携するメディアからは、フェイスブックに対する不満の声が上がっていた。問題は、フェイスブックによる「データ共有の少なさ」だ。

英ガーディアンの取材に、提携の窓口を担う国際ファクトチェッキング・ネットワーク事務局長のアレクシオス・マンツァリス氏が、こう述べている

(フェイスブックによって)開示される情報のレベルは、全く不十分だ――これは、虚偽情報対策のための歴史上最大規模の社会実験だ。我々は、膨大な情報とデータを入手できるはずだったのに。

●「警告マーク」を外す理由

スミス氏らは、「警告マーク」を外すにあたり、4つの理由を挙げている。

第1は、「警告マーク」が重要な情報を見えにくくしてしまう、という点だ。「警告マーク」は、交通標識のように目につきやすい。だが、ファクトチェックによって、どの点が問題視されたのか、何が事実と違うのか、という肝心な点は、ユーザーがクリックをしていかないとわからない、ということだ。

第2に挙げているのが、指摘されてきた「バックファイアー効果」だ。2012年に発表された西オーストラリア大学などのチームの論文を参照し、虚偽情報に対する強い言葉づかいやデザインは、「バックファイアー効果」を引き起こし、間違った考えをさらに強固にしてしまうことがある、と認めている。

第3に挙げるのが、「警告マーク」の運用がスケールしない、という点だ。「警告マーク」は、最低でも2つのメディアによるファクトチェックが出そろわないと表示しない、という運用になっている。だがこれだと、「警告マーク」を表示するまでに、時間がかかってしまうという問題がある、という。さらに、ファクトチェックを行うメディアの数が限られる米国以外の国では、複数の結果が出そろわず、フェイクニュースの疑いがあるものは多くても、「警告マーク」を表示できないという事態を招いている、という。

最後に挙げるのが、ファクトチェックによる認定のレベルの違いや文脈が、「警告マーク」だけでは伝わらない、という点だ。ファクトチェックを行うメディアは、「白か黒か」の判定ではなく、「一部誤り」「完全な誤り」など、より詳細で段階的な認定を行っており、その認定のレベルがメディアによって異なることもある、という。そして、ユーザーはより具体的な文脈を求めている、と述べる。

●「関連記事」を表示することで

フェイスブックは、「警告マーク」を外す代わりに、すでにテスト運用を続けてきた
、という。

これは、フェイクニュースの疑いがあるコンテンツの下に、「関連記事」として、ファクトチェックをしたメディアによる結果記事を表示する、というものだ。

「警告マーク」と「関連記事」を比較テストしたところ、フェイクニュースのクリック率は変わらないものの、「関連記事」では共有数が低下した、という。

また、「関連記事」とニュートラルな表示をすることで、「警告マーク」のように強いインパクトによって逆に「バックファイアー効果」を引き起こす可能性も軽減でき、ファクトチェックが複数出そろわなくても判定表示が可能になる、などとしている。

●「信頼のものさし」を導入

、ツイッターとマイクロソフトの「ビング」は11月、米サンタクララ大学の「
」が取り組む「
」の仕組みを導入する、と表明している。

これは、フェイクニュース排除と対をなす、メディアの透明性向上の取り組みだ。

フェイスブックやグーグルに表示されるコンテンツに、配信メディアや筆者の情報、倫理ポリシーなどへのリンクを表示することで、ユーザー自身がその信頼度を測る「ものさし」として利用できるようにする、というものだ。

ユーザーの判断に役立つ、というアプローチは、「関連記事」とも共通する面がある。そして、信じるのも、排除するのも、やはり最終的に判断するのは一人ひとりのユーザーなのだ。

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(2017年12月22日「新聞紙学的」より転載)