サイボウズ式:「プレミアムフライデーってありがた迷惑ですよね?」と日経新聞で意見したら、経産省がやってきた

サイボウズ青野慶久と「日本人の休み方」を議論
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サイボウズ式
なんですか、そのありがた迷惑なプレミアムフライデーとやらは──。

サイボウズが9月13日に日本経済新聞で掲出した「働き方改革、楽しくないのはなぜだろう?」の意見広告。その日の朝、1件の電話がありました。

電話の主は、プレミアムフライデーを発案・推進する経済産業省の方。「これはやりすぎた、怒られるのでは」と思いきや、どうやらそうではない様子。

その後「意見交換」として、消費・流通政策課 課長の林揚哲さんがサイボウズに来社。代表取締役社長 青野慶久と林さんのプレミアムフライデーについての議論は、「働く人の自立と休み方」へと発展していくのでした。

「プレミアムフライデーをいじっていただき、ありがとうございます」

林:プレミアムフライデーをいじっていただき、ありがとうございます。アリとキリギリスの広告を見て、まずはお礼に伺いました。

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林:世間では「どうせ世の中を知らない役人が企画しているんだろう」と言われているようで、わたしがその張本人です。

青野:いやぁ、お電話をいただいて驚きました。やりすぎたので、てっきり怒られるのかな、と(笑)。

林:怒るなんてとんでもない。プレミアムフライデーが死語になってしまい、話題にすらあがらなくなるのが一番怖かったので、こうやっていじってもらえることがうれしいなと。

青野:このお詫び広告を僕のFacebookにアップしたら、自民党の野田聖子さんから「見たわよ」と連絡があったり、小泉進次郎さんからも「あれすごいね」と言われたり。

社会からの関心も高まったのかなと思いますし、経産省さんもこうやって来社いただけるとは。すごくフットワーク軽いですね。

林:「とにかく現場に」というのが私のモットーでして。日本人は上から言われないと動かない人が多いかもしれませんが、わたしはどんどん行動していこうと思っています。

本当は自由に休めばいいと思う、自発的に決めよう

青野:自由や裁量を与えられると戸惑う人、多いですよね。

林:そうですね。私個人としては、それぞれの裁量で働きたい時に働いて、休みたい時に休めばよくて、金曜日じゃなくてもいいと思っています。プレミアムフライデーを企画した張本人が言うのもなんですが(笑)。

青野:そうなんですか?

林:はい。企画の途中で「決まっていないと休みづらい」「休み方がわからない」という声があり、今回は消費活動と結びつけて曜日を提案しました。本当は自由に休めばいいと思うんですけどね

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林揚哲(はやし・ようてつ)さん。プレミアムフライデーを発案・推進する経済産業省 商務情報政策局商務・サービスグループ 消費・流通政策課 課長。「プレミアムフライデーの名称や曜日変更は自由、ロゴマークもどんどんいじって使ってほしい 」とのこと

青野:そうだったのですね。中の人の意図って届かないものですね。

林:業界によっても、休みやすい日、休みにくい日は違いますから。例えば金曜日が休めない流通系からは、月曜日を休みにしたいという声がありました。

青野:月曜の午前中は休んでゆっくり出勤しようという「レイトマンデー」もありますよね。僕は週末に家族と出かけたりするので、月曜日の出社が遅くてもいいのはうれしいですね。

やっぱり、それぞれ事情が違うのに、一律に休むべき日を制定するのは無理ですよね。

林:業界、会社、個人、それぞれの事情に合わせて自分たちで決めてくれればいい。休み方改革も含めた働き方改革だと思っています。

経産省のミッションは「消費喚起のためのプレミアムデー」ですけど、お金を使わなくても自分のやりたいことをやればいいとも思います。

青野:1人1人自分で決めることが大切だと。

林:まさに、1人1人自分で決めることが大切だと思います。「みんなが働いているから自分も働く、みんなが休んでいるから自分も休む」ではなく、自発的に働いたり休んだりすることが大事ですよね。

個人の楽しいとか、やりたいというパッションがないとブレイクスルーできない

青野:自発的とは真逆なのですが、日本ではすべきことが一律で決まっていて、マニュアルがあるような状態が当たり前になっている気がします。日本の教育から見直して、マニュアルを排除することから始めないといけないですね。

林:そう思います。

青野:FC今治の岡田武史監督とお話したときに、「日本の高校サッカーの試合で、試合中に失敗すると思わず監督を見てしまう高校生が多い」とおっしゃっていました。

林:怒られるんじゃないかと?

青野:そうです。試合に集中できていないんですよね。岡田さんは、監督の指示に依存してプレイしていては、ワールドカップでは上にはいけないとも言っていました。

林:はい。

青野:一律のやり方では、ある程度の成果は出せるかもしれませんが、本戦では結果は残せません。

ここから先で成果を残すには、もっと個人の自立を引き出さないといけないのではないかと。

林:結局、個人の「楽しい」とか「やりたい」というパッションがないと、物事をブレイクスルーできないんですよ。おもしろがって、楽しく、自分のやりたいことをやるという。

青野:「楽しいかどうか」は大事な感覚ですよね。

「働き方改革推進」「残業禁止」......。一律で決めるのはラクかもしれないけど、本質を見失う

青野:今の働き方改革も一律だと感じます。‟お上"に言われたから働き方改革をしなくてはいけない。経営者が言っているから残業してはいけない、など。

そのうちに「本当にやりたかったことって何だっけ」となるのではと思います。

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青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得している。2011年からは、事業のクラウド化を推進。厚生労働省「働き方の未来 2035」懇談会メンバーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)。

青野:おもしろがって働くことが大事だと思うんです。「楽しいか、楽しくないか」を第一にした働き方改革になれば、仕事の効率化も進むだろうし、もっとパッションも出てきて休み方もうまくなる。

それができていないから、改革をしなくてはいけないし、それが「働き方改革、楽しくないのはなぜだろう」 というメッセージにもつながったんです。

林:なるほど。

青野:わたしはこの10年くらい、「多様な個性を大事にしながら働き方を見直していかないといけない」と言い続けてきました。

徐々に浸透してきたと思っていた矢先に電通の件があり、「とにかく残業を減らそう」といった一律に物事を決める雰囲気に逆戻りしていると感じたんです。「それはちょっと待て!」と。

もちろん健康を害するような残業は禁止すべきですが、働き方改革すべてを一律のルールで動かすべきではない

林:「一律で全員いっしょ」はラクなんでしょうね。日本の教育と同じで、模範解答を教えるだけですから。数学なら、模範解答ができる数式の解き方以外はダメと教えられる。

青野:ええ。

林:ところが、インターナショナルスクールに行くと、ほかのやり方でも「違うけどユニークでいいじゃない、ブラボー」と言ってくれる。日本はバツがついて終わりなのに。

青野:そこから変えていかないといけませんね。

林:数式を覚えることが楽しいのではなく、自分で解き方を考えるのが楽しいんでしょと。

働き方もいっしょで、プロとしてそれぞれに裁量を任せて、チームとして一貫性を持ってやればいいと思います。

子会社は親会社より給与を低く!? 意味不明な年功序列を破壊しよう

青野:働き方の意識を変える1つは、年功序列の破壊だと思うんですよ。

林:といいますと?

青野:年功序列は、大事な給料を一律で決めてしまう仕組みです。新入社員として入社してから能力の差があっても横並びで、給与の差がほぼないまま20年進んでしまう。もっと差をつけていいと思うんです。

働き方改革の「同一労働、同一賃金」の文脈は、雇用形態ではなく仕事の内容で給与を判断しようということです。それと同じで、年功序列ではなく、仕事の内容や成果で給与を判断すべきですよ。

林:そうですよね。電力会社で働いて社内ベンチャーを立ち上げたことがあるのですが、その時に驚いたのが、子会社は親会社の処遇を上回ってはいけない、ということでした。

青野:意味不明ですね。

林:頑張って成果を上げても意味がなくなっちゃいますよね。

青野:本当に。

林:謎の慣習です。日本には不思議なことがいっぱい。プレミアムフライデーも、金曜日の2時間を休んでいただくだけで、これだけ大騒ぎなんですよね。

青野:それも年功序列が原因だと思っています。

林:年功序列の弊害が、ここにも。

青野:エスカレーターで上がった最後の人が、意思決定者になっていることが問題だな、と。もし、若い人が意思決定の権限を持っていたら、今のルールをどんどん変えちゃうと思うんですよね。

林:若い世代が中心になって動かしていきたいですね。そういえば青野さんは、総務省の会議で役人に喝を入れたんですよね。

青野:総務省の働き方改革について、外部アドバイザーに呼ばれたんですよ。会議に参加してみたら目標値がすごく低くて、残業を1時間減らしたいでした。1日1時間かと思ったら、「1カ月で1時間」と言われて(笑)。

林:人件費の高い意思決定者たちが2時間も集まっているのに、そんな目標値で......。

青野:ええ。なので「僕はもう来ません」って言ったんです。

林:それがきっかけで変わった?

青野:はい。政務官の方がその場で目標を変更することを決め、最終的に「1,000人がリモートワークを実施する」となったんです。役職の高い方が責任を取ると言い切ったので、実際に進んでいきました。本気でやれば、どの職場でも働き方は変えられるのです。

月末金曜日に休むのは無理だ、ルールを変えろと言われても、変えない。自分たちで派生バリエーション作って

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林:今の日本では「いそがしい方がかっこいい」というイメージがありますよね。暇だと思われるのを嫌がったり、先に帰ることに引け目を感じたり。

青野:そういう職場が多くあるんだと思います。

林:わたしがドイツに3年間いてびっくりしたのは、金曜日は働かないのに、日本より時間的に豊かだったことです。休んだ時間でいったん考えていることなどを全部空にして、新たに活力を得た状態で働けばいいんだなと思いました。

青野:いい休み方ですね。そういえば、星野リゾートの星野佳路社長は「同じタイミングでみんなが一斉に休むのは良くない」とおっしゃっていました。

特にサービス業の場合、休暇取得の自由度を下げて休みや消費のピークを作ってしまうと、ピーク時に労働力を確保できなくなります。また、消費が集中すると料金を高くせざるを得ません。

林:なるほど。

青野:休みの期間が一律になると、デメリットも多くあります。休みを平準化することで、「いい休み方」ができるようになることも大事です。

林:「働き方改革から、休み方改革へ」という文脈で議論も進んでいますよね。

それこそプレミアムフライデー、月1休暇、テレワークなど、休みに関するトピックは多くあります。結局どうやって休むのか、どんな休みにするのかが大事ですよね。

青野:それを自分で考えないと。

林:月末金曜日に休むのは無理だ、ルールを変えろと言われるのですが、私たちが一律のルールを変えるのではなくて、本当は自分たちで派生バリエーション作ってほしいんです。

青野:今回の広告も、プレミアムフライデーの一文があるかないかでインパクトが全然違ったと思います。プレミアムフライデーをいじりつつ、みんなで休みについて議論する流れができたらいいですね。なんか僕、プレミアムフライデーが好きになっちゃいました(笑)。

文:橋本結花 編集:田島里奈/ノオト

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」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2017年11月14日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。