「問題意識を持って取材をする。おかしいと思うことはきちんと声を上げる」 望月衣塑子さんが語る“メディアの役割”

「おかしいと思うことはおかしいと記者が指摘せずに誰が指摘するのでしょうか」。
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東京新聞の社会部記者、望月衣塑子さん
ハフポスト

官房長官の記者会見をめぐる言動で世間の注目を集めた新聞記者がいる。東京新聞の社会部記者、望月衣塑子さんだ。

安倍政権を揺るがせた森友学園と加計学園の問題などについて、菅義偉・官房長官にしつこく食い下がる姿はテレビやネットでも拡散、質問のあり方をめぐって今なお、賛否が割れる。

第一線で取材を続ける望月記者が、ハフポスト日本版のネット番組「ハフトーク(NewsX)」に出演。権力と新聞記者の関係について語った。【文:湯浅裕子/編集:南 麻理江】

政治部記者ではなく社会部記者として

一般的に、国会や首相官邸の動きにまつわる取材は、「政治部」の記者が担当することが多い。そんな中、事件や事故、社会問題などを担当する「社会部」に所属する望月記者は、1日2回開かれる菅官房長官の定例会見に出るなど、通常政治部記者が取材する領域の取材も積極的に行っている。

森友学園・加計学園問題に関連して、前川喜平・文科省前事務次官にインタビューし、当時の生々しいやりとりを引き出したことを記憶する人もいるだろう。

そんな望月記者が官邸取材を行うようになったのは、森友、加計と相次ぐ疑惑が浮上する中で「政権の中枢で、良くないことが起きているのではないかという危機感を感じた」ことがきっかけだったという。

社会部記者の望月さんは上司に相談。官邸の取材をさせてもらうことになった。

《本当は諸々の問題について、直接安倍首相に聞きたかったんです。でも、安倍首相の記者会見は年々減ってきています。(前政権である)民主党政権時代には、首相は1年間で13回ほど会見をやっていましたが、安倍首相になってからは回数が減ってきていて、昨年では3~4回でした。だから、1日2回会見を行っている菅官房長官に聞こうと思って、定例会見に出るようになりました。》

記者と官邸の間にある「空気を読む雰囲気」

望月記者が官邸に抱いた危機感の背景には、政治部記者と官邸の関係があると話す。

《政治部記者は番記者(首相や大臣など、特定の要職につく人物を担当する記者)として、朝は「おはようございます」と自宅に行き、昼に記者会見に出て、その後はオフレコ(非公式な意見を聞ける場)にも出て、午後になるとまた記者会見に出て、夕方にはどこかで会って、夜も自宅の前で待つといった具合に、365日24時間、担当の政治家に張り付く記者もいます。》

番記者は、担当する政治家へ朝から晩まで取材を繰り返し、距離感を縮めるとともに人間関係を構築しながら、日々の言動をウォッチ、ときにはオフレコとして本音を聞き出すなどの取材をしていく。

《番記者制度の中では、親密な関係になった相手に対して批判的な意見はしづらいですよね。だから、社会部というしがらみのない立場の自分が、純粋に思ったことを聞いてみようと思ったんです。》

また、菅官房長官の定例記者会見は、年々短くなり、「予定調和的」になってきているという。

《先輩記者たちに聞くと、昔は、定例会見と言えど長い時で50分くらいあったそうなんですね。これまでは、ホワイトハウスの国務省の記者会見に倣い、(質問者の)手が下がるまで記者を指し続けるという方針の時もありました。でも、それが段々と短くなり、10分前後になって、今では早いと3分以内に終わってしまうこともあります。》

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記者会見する菅官房長官
時事通信社

 こうした流れは、安倍政権が長期化し、官邸側と記者たちとの間に「空気」ができあがっていることに一因がある、と望月記者は指摘する。

《記者側も段々と、「菅官房長官がこういったら、もう質問は辞めておこう」っていう風に空気を読むようになってきているのではないかと感じています。また、事前に質問事項を官邸側に渡して、会見では秘書官達が準備した文書を菅長官がただ読んでいるだけといった、予定調和な場面がほとんどになっています。》

《やっぱり長期政権になると、付き合いが長くなることで人柄も分かりますし、こうしたら嫌がるんじゃないかとか、わかってきますよね。そうしたことも、空気を読むことに繋がっているんじゃないでしょうか。》

社会部に所属する望月記者が官邸の取材をすることで、結果的に、現在の記者と官邸の関係性に一石を投じることが出来ているのではないかとも考えているという。

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東京新聞社会部記者 望月衣塑子さん
ハフポスト

たくさんの批判。それでも立ち上がる理由とは

そうした定例会見において、何度も菅官房長官に食い下がり「あなたに答える必要はない」とまで言われた望月記者。ネット上でも、その質問の仕方や言葉尻を激しくバッシングされることが相次いだ。

望月記者はそうした批判に目を通した上で「自分の言い方にも問題があった部分もあった。そうしたところはなるべく改善した上で、聞くべきことは聞き続けるつもりだ」という。

そこには、「メディアの役割とは何なのか」ということに対する、望月記者の思いがあった。

《メディアの役割というのは、権力を監視してチェックするということ、これに尽きるのではないかと思っています。もちろん私の質問の仕方などの問題はあると思いますが、おかしいと思うことはおかしいと記者が指摘せずに誰が指摘するのでしょうか。「知る権利」を行使して、今の権力に腐敗がないか、おごりがないか、厳しい緊張関係の中でメディアとしての役割を果たしていくべきだと思っています。》

《加計学園で問題となった初年度100億円ほどの税金にしても、誰のお金かというと国民のお金です。国民が払ったお金がどのようにして使われているのか、無駄に使われていないか、それをきちんと監視することは、国民に対する責任でもあると考えています。》

メディアとしての原点を忘れない

では今後、メディアが本来の役割を全うし、より良い社会を作っていくためには、メディアはどうあるべきなのか?この点について、望月記者は次のように話す。

《記者としての自分にも足りないところは沢山あると思っていますが、権力者側と緊張関係を保ちながら、メディアは本来どうあるべきなのかといった原点を常に忘れずにいることだと思います。記者ひとりひとりがきちんと問題意識を持って、常に考えながら取材をする。そして、おかしいと思うことは、きちんと声を上げる。同じような問題意識を持つ、記者や市民と連帯し、議論をしながら繫がっていく、そうした姿勢がこれからの記者には、もっと求められていくような時代になるのではないでしょうか。》

番組では報道の「自由度」についても話が及んだ。国際NGO「国境なき記者団」によると、2019年の「報道の自由度ランキング」で、日本は180カ国・地域の中で67位だった。2010年(11位)から次第に順位を下げている。

沖縄の米軍基地問題など「非愛国的な話題」を取材するジャーナリストがSNS上で攻撃を受けている、などと指摘され、「多様な報道が次第にしづらくなっている」との評価を受けた。

このデータを巡っては、そもそもの調査方法に疑問を呈する声もあるが、そうした事情を考慮したとしても、世界から見た日本のメディアは、期待されているほど開かれたメディアではないことの表れかもしれない。

民主主義国家である日本をより良くしていくために、メディアのあり方が問われている。