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JICAしか選択肢になかった。なぜ彼女は総合商社を辞めて、インドに足を運ぶのか。

「現地の方の暮らしが少しずつ変わっていく。その姿を見ることができるのは大きなやり甲斐ですね」
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「途上国支援を仕事にする」彼女の意志は決して揺るがなかった―。総合商社にて資源トレーディングに従事。約6年間の経験を積んだ根岸萌さん。転職先に選んだのが、独立行政法人国際協力機構「JICA」(以下:JICA)だ。現在、インド・ブータンのインフラ事業に携わる。民間からJICAへ。途上国支援を仕事にする。そんな彼女の志を追った。

30歳になる前に決めた「民間企業からJICA」という道

「どうすれば開発途上国の発展を後押しできるか。貧困や紛争、感染症といった課題にも正面から向き合っていきたい。そう考えた時、JICAが最良の選択肢だと考えました」

こう語ってくれたのが、今回取材した根岸萌さん(30)だ。

JICAはアフリカ・アジア・中東など世界各地において、教育、保健医療、運輸交通、都市開発、環境、エネルギー等、開発途上国の多様な課題解決を通じた「国創り」に取り組んでいる。総合的な政府開発援助(ODA)を行なう実施機関だ。

その協力支援は多岐に及び、技術協力、有償資金協力(円借款)、無償資金協力の援助手法を主に担う。活動資金の多くは交付金であり、独立行政法人として、その大きな責任を果たしていく。

あまり知られていないのが、民間企業出身のメンバーが広く活躍しているという事実。商社、メーカー、コンサルティング会社、金融機関・銀行など、働くメンバー達のバックグラウンドは多様だ。最近では、20代で転職してくるケースも多いという。

根岸さんも、そんな民間企業出身の一人。もともと総合商社に新卒入社し、資源のトレーディングに従事。シンガポール駐在を経験するなど、商社でも花形のキャリアを歩んできたといっていいだろう。そのまま在籍することで出世も見えていたかもしれない。

彼女を突き動かしたのは、学生時代の原体験。そして限られた人生の時間を何に使うか。そこには、途上国支援・国際協力を仕事にする、彼女の覚悟と志があった―。

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[プロフィール] 根岸萌/1987年生まれ。上智大学 外国語学部英語学科卒業後、総合商社に入社。資源のトレーディングに関わり、途上国と先進国間でのサプライチェーン作りを担当した。入社4年目にはシンガポールに駐在。2016年10月に独立行政法人国際協力機構へ。
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タンザニアで知った開発途上国の現実

アフリカ・タンザニア、それは彼女にとって忘れられない地といっていいだろう。学生時代にインターンで滞在、NGO支援に参加した。そこで大きなカルチャーショックを受けたという。

「同じインターン生、スタッフとして同い年の男性と知り合いました。彼は3歳で両親を亡くし、しばらく学校に通っていなくて。運良く助成を受けられ、大学進学ができたと教えてくれました」

育った境遇が全く違う同年代との出会い。その現実を受け止め彼女は、自分には何ができるのか。何をすべきかと考えるようになっていった。

そして新卒で選択したのが総合商社での仕事。資源トレーディングという形で途上国の発展に寄与していく道だった。

同時に、6年間、商社で働くなかでジレンマもあった。あくまでも一つの企業が手がけるビジネス。営利と支援・国際協力の間には大きな壁があった。

そのような中で考えるようになったのが、JICAへの転職だ。

「転職をする時、JICAしか選択肢にありませんでした」

おそらく給与・待遇面を見れば、商社のそれには及ばない。それでも彼女の意志は揺らぐことはなかった。

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現地の人たちの暮らしを豊かにする、やり甲斐

こうしてJICAに入構した彼女。現在、インドやブータン向けの「円借款案件」形成に携わっている。鉄道・電力案件を担当。現地に足を運ぶことも少なくない。

インドでは現在、貨物輸送需要が急増。貨物専用鉄道施設の新設に対し、円借款供与を重要な役割を担う。彼女は各ステークホルダーと連携しながら完工へ向けた支援を行なう。その他、西ベンガル州では「揚水発電施設建設事業」へ円借款供与に向け調査・調整も並行する。

こう見ていくと商社での仕事とJICAでの仕事には、いくつかの共通項がある。たとえば、各種ステークホルダーとの調整など。大きな違いとして挙げられることと言えば、スケールの大きさと "日本の知見を活かした事業で途上国支援を実感できるやり甲斐" だと彼女は語ってくれた。

「たとえば、電力設備ができると現地には雇用が生まれるんですよね。遠くの町まで毎日薪を売りにいくことが仕事だった人が、施設の建設に関わるようになったりもします。その土地で暮らす人が増え、病院や学校もできる。現地の方の暮らしが少しずつ変わっていく。その姿を見ることができるのは大きなやり甲斐ですね」

「また、JICAの事業では日本が持つ知見や経験を活かして相手国に提案を行うことも多くあります。自分の国をより良くしようという情熱を持った相手国の政府関係者と膝を詰めて協議をし、質の高い案件作りに向けて一丸となって取り組める。公的機関という立場ならではの醍醐味もあります」

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そして商社出身の根岸さんは、これからの自身の目標について語ってくれた。

「これは私個人の考えですが、民間企業とJICA、その連携・協力をより強化していきたいと考えています。それぞれが持っている知見やノウハウを活かし、新たな国際協力の形を探っていきたい。たとえば、新しいビジネスチャンスが生まれた時、周辺のインフラ環境が整っていれば、民間企業も参入しやすいですよね。ビジネスとして成り立てば、現地の人たちを支援することにもなる。その土地に新しいビジネスと雇用を生み出せるように取り組んでいければと思います」

そう語る彼女のまなざしは、新しい時代の国際協力・途上国支援のあり方、未来へと向けられていた―。

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