服はもはや主役じゃない? 「カブり上等!」な、白シャツ・黒パンツ30名に聞いてみた。

人とカブるシンプルな「モブ服」の裏にどんな心理があるのか。みんな同じに見える「白シャツ黒パン」の人に聞いてみると、今の日本の価値観が浮かび上がってきました。
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街を歩く、白シャツ黒パンの人、人、人ーーー。

人と“カブる”シンプルなファッションの裏にどんな心理があるのか。

博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)の研究員が街にでて、30人の「白シャツ黒パン」ファッションの人たちに「なぜそのファッション?人と服装がカブることに抵抗はない?」と聞いてみました。

浮かび上がったのは、SNS時代特有の価値観です。

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街中の「白シャツ黒パン」ファッションの人たち
博報堂

「人と差をつけたい」という欲望は減っている。––––「#みんなって誰だ」の連載で明かされた定量データはそのように示しているが、実態は果たして? 私たちは街に繰り出しました。

こんにちは、プランナーの村山佳奈女と申します。博報堂に所属し、ふだんは女性向けブランドや、映画のプロモーションなどをしています。そのかたわらで生活総研の研究プロジェクト「#みんなって誰だ」のサポートをしています。

ことの発端は昨年の夏、生活総研の合宿に外部メンバーとして参加したときのことです。朝から晩まで、「みんな」の未来にまつわる議論がなされる中……注目を集めたのは、メンバー数名の出で立ちでした。

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「白シャツ黒パン」がかぶった
博報堂
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「白シャツ黒パン」がかぶった
博報堂

合宿の参加者20名のうち4人が、このような白トップス+黒ボトムで偶然、並んでいたのです。それに気づいてからの数分間、議論は無事中止、ただの撮影タイムになったことは言うまでもありません。

本連載の7回目で検証された「消費における”みんな”意識」も、ここで生まれた問題意識(?)から生まれました。

おそろいの服で並んだ4人は、「今日、白T、黒パンを選んだのはなぜですか?」という質問に対し「悪目立ちしたくない」「適度にカジュアルに」「清潔感は保ちたい」などと回答。彼らのコメントを受けて、わたしたちはこのコーディネイトに愛をもって「モブ服」と名付けました。 

「モブ(mob)」は、大衆、群衆=匿名的・目立たない映画や漫画を意味する英単語。アニメなどの制作過程で、あまり目立たない、「そのほか大勢」にくくられるキャラたちが「モブキャラ(クター)」と呼ばれたことから広まった言葉です。 

一見すると、みんな同じように見えるこの服装の彼らは、流行に興味がないのか? 差別化の意識はあるのか? 「みんな」は気にする?

こんな疑問を胸に、わたしたちはリサーチを開始。ある晴れた日の街角で、総勢30名の方々からお話を聞くことができました。(2018年10月に実施)

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街中の「白シャツ黒パン」ファッションの人たち
博報堂

 そもそも彼らはなぜ、このような格好をするようになったのでしょうか。

街でお声がけしたみなさんの声からいくつか、以下に抜粋してご紹介します。 

いざ、突撃インタビュー。

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サークルの会議があったので無難&カジュアルに。誰かとかぶると、ちょっとした仲間意識は生まれますね(笑) 人との違いを見つけても優劣があるとは思わない。単に、違うと思うだけ

(20歳・大学生・神奈川県)

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 流行はまったく気にしないので、周りに合わせて古着とか、そういうんじゃないなと。合わせやすくて楽なのが一番です

(24歳・不動産業・非公開)

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ファッションの参考にしているのは、インスタで見る海外の人たち。洋服が好きでいろいろ着ましたが、10年前くらいにこの感じに落ち着きました

(37歳・パート・東京都) 

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「モブ服」は性別を問わない。
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服がかぶるのは、柄物とかだと恥ずかしいけど、シンプルなのは気にならない。ベーシックなアイテムでも、自分がいいと思ったものを買う。それが個性だと思います

(23歳・不動産業・非公開)

日本人だけ? と、思いきや・・・。

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博報堂

 週に2、3回はこの格好。シンプルで心地いい。上海でも週1で人と服装がかぶるけど、ぜんぜん恥ずかしいと思わないです

(26歳・会社員・上海)

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白Tは日本のブランド。黒パンは3本持ってます。シンガポールでもよくあるコーデですね。誰かとかぶってもネガはない、スペシャルでもないですけど

(20歳学生・シンガポール) 

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「モブ服」は国籍を問わない。
博報堂

 白Tと黒パンは、オーストラリアでもよく見かけるコーディネイトだと思います。ファッションはシンプル、ベーシック、コンフォータブルであればいいです

(32歳・科学者・オーストラリア)

 幅広い年代、国籍、性別の方にヒアリングする中で、際立って多く語られていたのは「世間の流行は気にしない」という言葉でした。

 彼らから多く聞かれたのは、

 「人とかぶるのは恥ずかしくない」

「ファッションで優劣を感じることもない。むしろ、その判断基準ってなんですか?」

という声。

人とかぶることに抵抗がないのはなぜか? という問いに対しては、

「目立ちすぎないのが自分らしさ」(26歳・男性)

「自分に合うものを着ているだけ」(86歳・男性)

「自分がいいと思ったものを買っている」(23歳・女性)

などといった回答が得られました。着こなしのこだわりポイントとして、好きなブランドや素材感などを挙げる方もいました。しかし、それらは誰かとの差別化を目的としておらず、ただ自分自身の好みや心地よさを追求するためのもの。

数年前に流行ったキーワードに、「ノームコア」というものがありましたよね。故スティーブ・ジョブスの着こなしに代表されるような「究極の普通(normal+hardcore)」を志向するファッションのことです。モブ服にも通じるものがあるのか・・・? という仮説も立てていましたが、今回お話を聞いたみなさんには、そういった肩肘の張り方を感じませんでした。

基準はあくまで「自分」。なぜなら、大前提として「一人ひとりは違うもの」だから、という価値観がうかがえました。

人と差別化したり、自分の個性を表現するために、「ファッション」が若者の必須科目であったのはもう昔のことなのです。

また、ここ数年、男女ともにファッションのカジュアル化が進んでいます。3.11以降顕著になったとも言われていますが、男性はビジネススーツにリュックが「アリ」になり、女性ファッション誌はこぞってスニーカー特集を組むように。男女ともに、機能性をそなえたシンプルなコーディネイトを良しとする土壌は十分に広がっていたといえそうです。

「量産型女子大生」を揶揄するのはもう古い

街ゆく「モブ服」の人たちと会話する中で、「量産型女子大生」というキーワードを思い出しました。

同じような髪型(茶髪にゆるい巻き髪)、同じようなメイク(当時流行っていた強目のアイメイク)の女子大生たちを、「見分けつかないwww」などと物笑いにしていた人々たちから2013~14年頃に生まれた言葉でした。この背景にあったのは、

「同じような髪型、服装、メイクは恥ずかしい」

「一人ひとりがファッションで個性を表現するべきだ」

「見た目は中身の表出だ」

という考え方でしょう。2005年に『人は見た目が9割』という書籍が大ベストセラーになったように、洋服やメイクなどが自己表現の重要な手段であった時代が、確かにありました。つい最近まで。 

あれから14年。自己表現のフィールドとしてSNSの存在感が増した今、若い世代を中心として、状況は変わってきています。

どんなにお気に入りの洋服であっても、何日かに一度着るくらいのものでしょう。一方、Instagramの個人ページは常に見られる状態にあるほか、半永久的に残ります。両者を対比させてみると、Instagramに自分を表現するための投稿をする方が、洋服選びにお金や労力をかけるより、ずっと手軽で意味がある。

街では「(洋服で自分を表現するのは)コスパが悪い」という声も数多く聞こえてきました。

友達とかぶるのも・・・楽しい

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博報堂

足が太いので、細く見えるように黒パン。今日、友達と会ったら同じ格好だった(笑)。別に恥ずかしくはない、自分に合うものを着てるだけですね

(28歳・不動産業・非公開)

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「モブ服」は友情も育む。
博報堂

雑誌は読まない、インスタもたまーにしか見ない。参考にしてる人はいないけど、お客さんや同業者でカッコイイ人に刺激は受けます。友達とかぶったら、「仲良しかよ!」ってなる(笑)

(20歳・理容師・神奈川県)

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生活定点調査の結果
博報堂

生活総研が実施している生活定点調査でも、「多くの人が同じものを持つと(そのものへの)興味がなくなってしまう方だ」という意識は徐々に低下してきており、特に若い世代では大きく減少しつつあります。

一人ひとりの内面のちがいを前提に生きているからこそ、ファッションでの差別化を必要としない。お金をかけず、悪目立ちせず、自分が心地よく過ごせる「モブ服」は、現代を賢く生き抜くバトルスーツ(!)とも言えるかもしれません。

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村山佳奈女さん
博報堂

村山佳奈女

博報堂 第一クリエイティブ局プランナー

編集者のキャリアののち、2015年に博報堂入社。映画作品や女性向けブランドなどを中心に担当、キャンペーン設計〜製作に従事。

©︎Yutaro Yamaguchi via ROOMIE

 (取材協力:ヒャクマンボルト)