ネット選挙からオープンガバメントへ ――ネット選挙解禁は「情報と政治」の新たな出発点だ

ネット選挙の解禁の延長線上には、ネットを通じた(直接)民主主義の可能性を問う「デジタルデモクラシー」や、政府の電子化を意味する「オープンガバメント」、政府や地方自治体が保有する公共データを民間とともに活用する「オープンデータ」など、豊かな可能性が広がっている。
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2013年4月19日、参議院本会議で公職選挙法の改正案が可決・成立した。これをもって、日本でも「ネット選挙」が解禁されることになった。とはいっても、ここでいう「ネット選挙」とは、一般的に想起されがちな電子投票のことではなく、「インターネットを用いた選挙運動」のことである。しかも、電子メールの利活用やバナー広告の出稿主体など、多くの制約が残されたままだ(注1 議論の細部については、5月末発売の拙著『ネット選挙 解禁による日本社会の変容』(東洋経済新報社)を参照してほしい)。

日本でネット選挙が政治の話題になったのは、1996年のことと言われている。新党さきがけが旧自治省に選挙運動にネットを利用できるのか問い合わせたことに端を発している。それからおよそ20年の歳月が経過したというわけだ。

一見、壮大な終着点のように思えるかもしれない。だが、筆者の考えでは、ネット選挙はゴールではなくスタートである。日本の情報と政治の関係を紐解くと、インフラについては2000年代前半のe-Japan重点計画などによって高い水準にあるものの、ソフト面については、いまだ十分ではない。情報と政治という観点でいえば、電子政府などはもっとも立ち遅れた分野のひとつだ。その背景には、情報化が進む他国と違い、行政主導で進んできており、政治の主導力が乏しかったという要因がある。政治家と国民の政治に対する関心がもっとも高まる選挙運動期間にITを利用できなかったため、政治家たちが情報技術の積極利用を行う誘因に乏しかったからだろう。

しかし、その選挙運動期間中に、他の媒体には規制がかかったままで、ネットについては相当の自由度で利活用が認められることになった。選挙は競争であるから、この分野の開発が中長期ではおおいに進むものと思われる。政治家のITに対する理解が改善されれば、これまで民間主導になっていた情報と政治の分野で、政治的な後押しが加わる可能性がある。オープンデータの分野では、「データシティ鯖江」を宣言した福井県鯖江市などのように、地方自治体の先駆的な取り組みが存在する。先日、日経新聞は、政府の成長戦略の中にこのオープンデータが位置づけられるという報道をした(注2 「公共データを民間開放、新産業創出 政府IT戦略素案」)。ネット選挙解禁を通じて、情報と政治(あるいは、情報と行政)に対する世論の関心が高まれば、さらにこうした動きは前進するだろう。

この延長線上には、ネットを通じた(直接)民主主義の可能性を問う「デジタルデモクラシー」や、政府の電子化を意味する「オープンガバメント」、政府や地方自治体が保有する公共データを民間とともに活用する「オープンデータ」など、豊かな可能性が広がっている。このような意味において、ネット選挙の解禁は終着点などではなく、むしろ新たな出発点なのである。