化血研問題は厚労省の問題 トカゲの尻尾切りで済ますな

厚労省も化血研と一緒に国民に対して謝り、その体質を直すべきなのです。当事者意識がなさ過ぎると思います。
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化学及血清療法研究所(以下化血研)が承認書と異なる手順で血液製剤を生産し、その隠蔽を続けていた問題は、ある意味、厚労省の体質が生んだ事件でもあります。厚労省が自らの体質を直さず、化血研の処分というトカゲの尻尾切りだけで済ませるなら、いずれ同じようなことが再発するでしょう。

まず大前提として、化血研を擁護するつもりは、毛頭ありません。彼らのしてきたことが、患者さんや国民に対する許されざる背信行為であることは疑いもない事実です。

ただ、その上で、この問題の原因を化血研だけに求めて厳しく処分したとしても、また同じようなことが繰り返されるに違いない、と思うのです。

化血研に不正を隠し続けるに至らせた監督官庁としての厚生労働省の体質が、何も変わらないままになりそうだからです。

厚労省に限らず行政全般に多かれ少なかれ言えることですが、あちら立てればこちらが立たぬというような規制があって、普段は守らなくても問題にされないのだけれど、それで良いのかと行政に確認したり、あるいは事件事故が起きたりした瞬間に処罰が発動されるということ、皆さんも身の周りで思い当たらないでしょうか。

厚労省の体質が今回の事件に影響したポイントは二つあります。

●訊いたが最後

まず、行政に確認することの恐ろしさ、です。訊かなければ何も起きなかったのに、訊いたばっかりにヒドイ目に遭う、のです。

こんな例がありました。某県で、ある民間病院が県道を挟んだ反対側に別の医療センターを作りました。道が基準幅より太ければ別の医療機関として県知事へ届け出る必要があったのですが、そこは基準以下だったので分院としての届け出で済みました。ところが、県が拡幅工事を行った結果、2施設間の県道の幅が基準を超えてしまいました。お分かりのように、病院側は何も悪いことをしていません。でも、念のためと県へ問い合わせたら、別の医療機関としての届出を再度させられたというのです。他の部署とは言え自分たち(県)が原因を作ったにもかかわらず、事情の斟酌は一切なかったそうです。相手が監督機関でなかったら、損害賠償の請求を検討してもおかしくない事例だと思います。

今回の化血研の件も、もし厚労省に相談したら、すぐに全部、いったん生産を止めて製造変更を申請しろとなったに違いありません。でも、それができるくらいなら、偽装などする必要もないのです。

製造変更が認められると、それまでに国家検定を通過した製品か、製造変更承認日以降に生産を開始した製品でないと出荷できなくなります。生産開始から国家検定終了まで9カ月近くかかります。その間に商品を欠品させると、患者さんや医療界に大変な迷惑がかかるので、9カ月分の在庫を持ってから製造変更を申請するというのが通例となっているそうです(本誌特別記事参照)。

つまり、前もって9カ月分余計に生産してからでないと変更申請できません。しかし、余計に生産するための原料血漿は日本赤十字社からしか買うことができず、献血の目標量と連動する割当量は、1年ごとに国の薬事・食品衛生審議会血液事業部会で承認されることになっています。例年以上の割当を受けるためには事情を説明しなければならないけれど、説明した瞬間に生産を止められて大混乱になる、ということが目に見えているわけです。厚労省が一緒に知恵を絞ってくれる、などということは期待できません。化血研は一体どうすれば良かったのでしょうか。

つまり最初に悪事に手を染めたのは化血研の自己責任ですが、その悪事を告白して是正する更生を妨げていたのは、紛れもなく監督官庁としての厚労省の体質です。今現在も、似たようなことをしていて告白できずに震えているメーカーや研究機関があるかもしれません。

●結果責任だけ問う

もう一つのポイントが、旧内務省に起源を発する省庁ならではの「結果責任だけ問う」体質です。悪い事が起きないように常時監督しているのは手間と人手がかかって面倒なので、何か起きた場合に、その責任者を吊るし上げて一罰百戒にするというものです。

体質のよく分かる好例が、2015年10月から始まった医療事故調査制度です。目的は再発防止・医療安全と謳われているにもかかわらず、届出の対象は死亡事故のみとなりました。1件の死亡事故の背後に何百件もの軽い事故が隠れています。そして、それら軽い事故を減らしていくことしか死亡事故を防ぐ方法はありません。本気で再発防止・医療安全に取り組むなら、ヒヤリとした事例をすべて集めないと意味がないのです。

しかし、それをやる意思も能力も、今の厚労省には残念ながらないと思います。監督される側の医療界も、そのことは百も承知で、事故調査制度を医療安全に役立てていこうという機運はあまり盛り上がりません。

今回の化血研は、製品の品質を国立感染症研究所の国家検定でチェックされていたということもあって、作り方は承認書と違ったかもしれないけれど安全性には何も問題ない、むしろ専門家として良い物を作ろうとやっていた、という意識だったことが第三者委員会報告書に書かれていました。恐らく、何も起きてないのに見つかって罰せられる自分たちは運が悪かった、と思っているはずで、心の底からは反省していないことでしょう。

厚労省がこの体質を改めない限り、もし似たようなことをしているメーカーや研究機関があったとしても、「悪いことが起きる前に直そう」と思うのではなく、「悪いことが起きない限り隠し通そう」と思ってしまう可能性が高いでしょう。つまり、厚労省は自らの体質によって、国民に潜在的な危険を与えています。

ですから本来であれば、今回は厚労省も化血研と一緒に国民に対して謝り、その体質を直すべきなのです。それなのに自分たちは謝りもせず、化血研を刑事告発するそうで、当事者意識がなさ過ぎると思います。厚労省が今すべきは、ある期限を区切って、その間に同様の不正を申し出た組織については責任を問わずに改善を支援することです。

と言っても、そんな重大な決断を官僚にできるとは思えません。まさに政治の決断が必要です。政治家こそが、今、腹を括るべきだと考えます。

(2015年12月30日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)