『日本の子どもは、戦争の準備万端だ』

ジャーナリズムそのものが、誤解や嘘を広めている元凶となれば、救いようのないことだ。
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ジャーナリズムが崩壊しつつある、という批判は、もう目新しいものではない。

多様なメディアの「ジャーナリズムごっこ」に、惑わされた経験のある人は少なくないだろう。さらに、ジャーナリズムそのものが、誤解や嘘を広めている元凶となれば、救いようのないことだ。

先日、イタリアの主要雑誌に載った、ある記事のタイトルが目を引いた。

『日本では、幼稚園から愛国者を育てている』

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何かの間違いかと思ったが、記事を読み進めて、さらに驚嘆した。

このイタリア語で書かれた記事は、国際的ニュース通信社ロイターの記事の「丸パクリ」だった。

そして、その元となった記事(英語版)は、日本のニュースサイトに2年前に掲載された記事と、ほぼ同じ内容なのだ。正確に言えば、一部を抜粋し、トーンを変えたもの、と言えるだろう。

2年前に日本のニュースサイトに載せられた記事は、

『安倍首相夫人·アッキーも感涙...園児に教育勅語教える"愛国"幼稚園 「卒園後、子供たちが潰される」と小学校も運営へ』というタイトルで、2015年1月に投稿されている。

ところが、2016年12月にロイターに投稿された記事(英語版)のタイトルは、

『日本の幼稚園では、戦前の国家主義を教えている』となっている。

タイトルだけを読み流す読者だっているだろう。彼らを騙そうとでもしているのだろうか。

(実際に、ワシントンポストの調査では、約60%のアメリカ人読者がタイトルしか読まないと言われている。)

さらに、記事を読み進んでみると、

「立ち止まり、裕仁天皇と香淳皇后の御真影の前でお辞儀をする園児」

というキャプション付きで、(階段を登っているようにも見える)園児の写真を載せ、

「"父母に孝行し、兄弟仲良くし、もし危急の事態が生じたら、公のために奉仕する"と園児は唱える」

と、教育勅語の一部を抜粋し、勝手に繋げた形で紹介しているのだ。

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ロイターに載せられた記事では、

戦後に日本国憲法に基づいて教育改革が行われた、ということは説明されているものの、

この幼稚園で行われている、「御真影へのお辞儀」や「日本国旗の前での君が代斉唱」、「教育勅語や五箇条の御誓文の朗唱」が、日本中の幼稚園で行われているわけではない、とは明記されていない。

そして、イタリア語に翻訳された記事は、さらにもっと極端なものとなり、

戦後の教育改革についての記述すらも削除され、

「日本では3〜5歳の幼児に、愛国心を育み、国家のために犠牲となるよう教育している」

とも思わせてしまうような書きっぷりをしているのだ。

さらに、タイトルの上に赤色で書かれた、「NUOVI SAMURAI(新生侍)」の文字を見つけた時は、驚きを通り越して、呆れてしまった。

要するに何が言いたいかというと、

首相夫人が訪問したという、おそらく日本でも珍しいであろう、「超ユニークな」(実際、2年前の日本の記事ではこの言葉が使われている)幼稚園に関する地域のニュースが、

翻訳編集を重ねられ、2年後には、「日本の教育は、生徒に、天皇陛下と国家への服従と道徳心を教えている」なんていう、極端な誤情報を伝える記事となり、国際的な注目に値するとして、世界に出回ったのだ。

『日本の子どもは、戦争の準備万端だ』

なんて記事が、どこかの国で出回る日が来るかもしれない。

メディアの「ジャーナリズムごっこ」は、「伝言ゲーム」のようになってしまっている。

新しいニュースが出れば、メディアはそれを翻訳編集し、伝えていく。

もしも、意図的に内容を変えているというならば、

伝わらないからこそおもしろくなる、流行りの「イヤホンガンガン伝言ゲーム」に近いのかもしれない。

誤解や、ステレオタイプ、偏見がどうやって生み出され、どうやって広まるのか、

疑問に思っていたのなら、この例で答えの一つが分かるだろう。