「デジタルで人々が何に出費するかは、まだ不明瞭だ」:タイム社CCO ノーム・パールスタイン氏

「人々はお金を払わずに読める記事をたくさん読んでいる」

出版業界においてノーム・パールスタイン氏ほど華々しいキャリアを持っている人は少ない。

パールスタイン氏はこの7月にタイム社(Time Inc)を退社した。1995年から2005年まで編集長として勤務、そして2013年には最高コンテンツ責任者として勤務していたブルームバーグLP(Bloomberg LP)から戻り、合計で14年間タイム社で勤務したことになる。役職はブルームバーグのときと同じだ。現在、パールスタイン氏はMoney.netといったメディア企業にアドバイスをしており、自身も執筆活動を再開している。トピックはトランプ、メディア、北朝鮮とさまざまだ。

以下の会話は、読みやすさのために若干の編集が加えている。

——最近ではどのメディア・モデルが一番面白いと感じているか?

メディアは依然として厳しいビジネスのままだ。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は素晴らしい仕事をしているが、サブスクリプションによる収益が紙の出版にどんどんと加わっているプレッシャーを克服するに十分かは分からない。他社と比べて特に抜きん出ているという様子でもない。人々はお金を払わずに読める記事をたくさん読んでいる。

フォーチュン(Fortune)といった会社にとってはカンファレンスが非常に重要になってきている。Money.netでは、ジャーナリストを抱えずに信頼できるニュース・サービスを作ろうとしている。アソシエイテッド・プレス(Associated Press)には非常に魅力を感じている。彼らは企業収益の報道を自動化している。だからといって、これがビジネスの経済的な仕組みを変えているわけではない。

人々が何にならお金を払うのかはまだ不明瞭だ。けれども驚くほど素晴らしい取り組みがいくつか行われている。難しいのは、モバイルが主流となっていることだ。しっかりと読み込むことはあっても、電話のうえではどこで何を見たのかを記憶するのは難しい。

——大規模なオンラインニュースモデルはまだ掴みどころがないのか?

ワシントン・ポスト(Washington Post)のベゾスがいる。ローリーン・ジョブズはアトランティック(The Atlantic)の株式の大部分を買いつつある。またマイケル・ブルームバーグは、ジャーナリズムに資金を提供するビジネスのもっとも良い例だ。それでもジャーナリズム自体は業務の中心ではない。お金をもたらすのは(ブルームバーグ・ターミナル[独自のマーケット情報収集と分析用端末]に)年間2万5000ドル(約280万円)を支払う、32万5000人の顧客だ。

——メディアエコシステムにおけるプラットフォームの役割はどうか?

彼らが自分たちのことをメディア企業ではなくプラットフォームであると言い続けることが、今後どれだけ可能かは分からない。特にFacebook、Snapchat、Googleがそうだ。どこかの段階で彼らはプラットフォーム上のコンテンツに責任を持たないといけない。

フェイクニュースにまつわる問題がいろいろとあるが、それよりも大きな問題がある。Facebookでは自社で制作されているコンテンツが非常にたくさんあるわけだ。ロレアル(L'Oréal)からお金を受け取ったブログはコンテンツなのか、違うのか? ニューヨーク・タイムズがネイティブ広告をするときに、ほかのエディトリアルのプロダクトと同様に扱うのか? フォーブス(Forbes)のユーザー発信コンテンツはどうなのか?

——(プラットフォームが)コンテンツ企業となっていることは何を示唆しているのか?

ジャーナリスティックなフィルターをどこかで課さないといけなくなるだろうと思う。何十億人というユーザーを怒らせたくないために彼らはそれをしたがってはいない。何をホームページに載せるのか、Googleが決めるとき、そこにはエディトリアルの判断が加わっている。たとえ彼らがアルゴリズムの作業だと言ってもだ。私にとってそれは、エディトリアルプロダクトであって、プラットフォームではない。それが何を意味するのかは分からない。

——ヨーロッパではプラットフォームへの押し返しがあるが、なぜアメリカのパブリッシャーからはそれがないのか?

出版社たちは短期目標を中心に据えており、次の四半期で失敗してしまうようなことはしたがらない。アクセル・シュプリンガーがGoogleからコンテンツを取り下げようとしたとき、彼らはボロボロにやっつけられてしまい、仕方なく妥協せざるを得なかった。もしも我々の仕事が気に入らないなら、我々にコンテンツを提供しなければいい、というのがGoogleが常に言っていることだ。

——ブルームバーグやタイム社においては、プラットフォームに対する態度はどのようなものだったのか

彼らは違っていた。ブルームバーグでは、ターミナルという非常に成功している収益の大きいビジネスを擁している限りはその世界に留まることができ、そこでのオーディエンスが満足していれば、実際満足していたのだが、コンシューマーメディアの損切りをすることができる。プラットフォームについてはそれほど話にならなかった。

タイム社では、Snapchatが協働する10のメディアのひとつにピープル(People)を選んだときに喜んでいた。しかし、これから10年後に、これが何の意味を持つのかを考えていた人はいなかった。ブランドのためにトラフィックを生むことができると、広告主に見せないといけない。そんなプレッシャーが非常に大きい。それに対処するためには何でもするのだ。

——ビデオへの転換についてはどう評価しているのか?

紙媒体にいる人間なら誰でもビデオをやりたいと思っている。私が一番尊敬している会社はおそらくハースト(Hearst)だろう。ビデオに関してはどこよりも賢くやっている。ニューハウス一族はチャーター・コミュニケーションズ(Charter Communications)とディスカバリー・コミュニケーションズ(Discovery Communications)の株式の20%を保有している。コンデナスト(Condé Nast)を持続させるのを可能にした。

しかし、需要と供給の法則がビジネスを左右するだろう。ビデオの数は増え、CPMはほかと同様のプレッシャーを抱えることになるだろう。すでにその例は見られている。ほかに選択肢はないように思える。これがどれだけ持続できるかは分からない。

——人々はビデオを求めている、ということか

情報を得るには遅い手段だが、エンターテイメントとしては良い手段だと思う。私自身は長い記事をまだ読んでいる。

——いま現在のタイム社の状況は?

情報の意味を説明してくれる賢い媒体の必要性は、まだ存在している。頻度に関する議論があると思う。ナチュラルなオーディエンスというのが何なのかがまだ分からない。

ウィーク(The Week)、エコノミスト(The Economist)、ニューヨーカー(The New Yorker)といった媒体は、どれもタイムに比べて小規模だ。サイズを失えば影響力も失うということなのか。ドナルド・トランプがタイムの表紙を気にするのはまだ大きなオーディエンスを抱えているからだ。タイムがうまくやっているときは、アジェンダを確立することができる。それができるパブリッシャーのひとつなんだ。

ヘルスケアについてのスティーブ・ブリルの特集を扱った号は、その年のもっとも売れた号だったと思う。ああいったものを、もっと制作しないといけないのかもしれない。紙においてタイムは、まだ長いあいだ存在し続けると思う。オンラインにおいても、これまでやってきたことよりも、もっと多くのことを実行できる。

Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)

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(2017年10月8日「DIGIDAY日本版」より転載)