フェイスブックが"正しい見出し"を決める

フェイスブックは、このバイラルな見出しのテクニックが、気にいらないようだ。

フェイスブックが、バイラル(口コミ)メディアなどの"クリックベイト(釣り・煽り)"見出しの規制を強めるとの方針を8月初めに打ち出した。

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同社は以前からスパム(迷惑)投稿の規制には力を入れており、その一環の取り組みのようだ。

ただ今回は、記事見出しの"正しい"つけ方をアルゴリズムが判断する、との内容だったため、見出しへの思い入れの強いメディア業界の関係者たちの、琴線に触れたようだ。

ニューヨーク・タイムズやCNNは、そろってこのニュースを"クリックベイト"な見出しで報道。

アトランティックにいたっては、歴史に残る18本の有名な見出しを、"フェイスブック風"にアレンジして見せる凝りようだ。

メディア関係者は、見出しには一家言ある。

よい見出しとバイラルな見出し

コンテンツの成否のカギを握る大きな要素の一つが見出しであり、ウェブでは特にその傾向が強い。

そして、そこには一定の法則のようなものがある。

「アトランティック」オンライン版の副編集長で、調査報道NPO「センター・フォー・パブリック・インテグリティ」の理事も務めるマット・トンプソンさんがまとめた「よりよい見出しづくりに役立つ10の質問」がそれだ。

  1. その見出しは正確か?
  2. 背景知識がなくても理解できるか?
  3. 見出しが示す内容はどれだけ読者を引きつけるか?
  4. 文法的に理解しやすいか?
  5. 数字をうまく利用できているか?
  6. 余計な言葉はないか?
  7. 著名人なら固有名詞、そうでなければ肩書。その使い分けができているか?
  8. 説明的な見出しの方がうまくいくケースではないか?
  9. 出来事に焦点を当てるか、その影響に焦点を当てるか?
  10. この10の言葉の一つをうまく使えるか(Top, Why, How, Will, New, Secret, Future, Your, Best, Worst)?

正攻法の見出しの法則と言える。

そして、米ポインター研究所の副所長でライティング(記事執筆)指導の第一人者、ロイ・ピーター・クラークさんが、バイラルメディア「アップワージー」から抽出したのが、「アップワージーの見出しの書き方、8つのトップシークレット」だ。

  1. 不正に怒る
  2. 驚く、刺激を受ける:「何っ!」「必見」など
  3. "エンジン"を組み込む:読者がその答えを知りたくなるような疑問を見出しに埋め込む
  4. 数字を使い、読者が短時間で多くのことを知ることができるとアピールする:「6つの疑問」「8つの秘密」などのいわゆる"リスティクル(リスト+アーティクル)"
  5. 古典的煽り要素を躊躇せず活用:セックス、セレブリティー、"驚きの効果"
  6. 言葉で遊び、古典的な見出しの禁じ手に縛られない:長い見出し、疑問形の見出し、同じことばの反復など
  7. 奇妙で興味をそそる言葉を組み合わせる:「アマゾン」と「アラスカ」、「ドーナッツ」と「ホームレス」など
  8. 見出しでストーリーを語る

フェイスブックは、このバイラルな見出しのテクニックが、気にいらないようだ。

情報欠落と誤認誘導

フェイスブックが"クリックベイト"対策を打ち出したのは、8月4日の公式ブログでのことだった。

この中で、"クリックベイト"を判断する基準として挙げているのは「情報欠落」「誤認誘導」の2点だ。これらの基準については、メディア向けページで、さらに説明を加えている

その中で「情報欠落」は、こう説明されている。

その記事がどのようなコンテンツかを理解するために必要な情報を伏せることで、読者が答えを求めてリンクをクリックするよう強いること。

そして、このような見出しを推奨している。

記事を読者と共有する前には、見出しが正確で有益であることを心がけ、読者がその投稿に対し、どのように時間を費やしたらよいかという判断ができるようにしてください。

「情報欠落」の例として挙げているの、こんな見出しだ。

「信じられない、レッドカーペットでつまづいて転んだのはあの人...」

この見出しでは、何が起こったのか、誰がつまづいたのか、が意図的に伏せられている、という認定だ。

また、「誤認誘導」はこんな説明だ。

記事内容を誇張することで、読者が抱く期待を誤認誘導すること。

その例として挙げるのは、こんな見出し。

「りんごって、実は体に悪い?!」

りんごを毎日、たくさん食べ過ぎれば、という極端な状況を誇張している、という認定だ。

そして、この二つの合わせ技のようなものも含め、さらにこんな例が挙げられている。

「彼女がソファーの下をのぞき込み、それを目にした時...衝撃が!」、「寝る前にニンニクを靴の中に入れておいたら、信じられないことに」、「犬に吠えられた配達員が、まさかの神対応だった」

"クリックベイト"退治

フェイスブックでは、これらの判断基準のもと、"クリックベイト"でよく使われるフレーズを抽出し、"クリックベイト"見出しを特定するアルゴリズムを組んだという。

これにより、"クリックベイト"と判断される見出しを継続的に配信するメディアを、ウェブのドメインとフェイスブックページから特定。そのメディアのコンテンツは、ニュースフィードの表示順位を下位に落とす制裁措置を取る、という。

ただ、"クリックベイト"が見られなくなれば、制裁措置は解除されるようだ。

フェイスブックは、"クリックベイト"対策をちょうど2年前にも打ち出している

この時に判断基準としたのは、リンク先記事での滞在時間と、クリック数とエンゲージメント数のバランスだった。

リンク先から短時間で直帰してくるなら、見出しによる読者の期待と実際が食い違っていた証左になる。また、クリック数ばかり多く、コメントや共有というエンゲージメントが一向に増えないケースも、読者の期待に沿う内容でなかったことが伺える、ということらしい。

今回は、このような外形的データに加えて、見出しの中身へと、さらに一段踏み込んだということのようだ。

境界線はどこに

フェイスブックがあげた「情報欠落」「誤認誘導」は、ロイ・ピーター・クラークさんの「8つの法則」の中の、「"エンジン"を組み込む」「煽り要素を躊躇せず活用」などが該当する。

ただ、正攻法の見出し作法でも、マット・トンプソンさんの「10の質問」の10番目であげる、[Why, How]といった疑問詞を使ったものが、「情報欠落」に該当する可能性が出てくる。

同様の疑問はブルームバーグビューのコラムニスト、レオニード・バーシドスキーさんも指摘する

これは人々がソーシャルネットワークから受け取る世界観を狭める、危険な取り組みだ。

バーシドスキーさんは、特に「情報欠落」が、言語学でいう文脈依存の表現「直示」や具体的な説明表現が後にくる「後方照応」などの、正当な表現も該当してしまうと指摘。

一方で、バイラルメディアで典型的な、「20の理由」「15匹の猫」などのいわゆる"リスティクル(リスト+アーティクル)"など、多くの記事類型がこのフィルターを素通りする、と述べる。つまり、効果は限定的だろう、と。

なるほど、クラークさんの「8つの法則」の多くが漏れてしまいそうだ。

そして、こうも述べる。

フェイスブックのユーザーは、通常、リアルなジャーナリズムとエンターテインメントを区別できる賢さを持っている。シリアスなコンテンツを求めて、小手先でいじった見出しをクリックしたりはしない。

各メディアは、早速、フェイスブックの新ルールに乗った見出しで、この"クリックベイト"対策を報じた。

まずはフォーチュンのマシュー・イングラムさんの記事。「フェイスブックのクリックベイト対策は、想像を超える事態に

さらにはCNNマネーのブライアン・ステルターさんの記事。「フェイスブックからウェブサイトへ:クリックベイト見出しをやめろ――さもないと

ニューヨーク・タイムズのマイク・アイザックさんとシドニー・エンバーさんの記事。「衝撃!フェイスブックが"クリックベイト"対策でアルゴリズムを変更

アトランティックのエイドリアン・ラフランスさんとロビンソン・メイヤーさんの記事は、さらに手が込んでいた。

「フランク・シナトラは複雑な人物だ(残念ながら我々の記者は彼に話しかけることができなかった)」ゲイ・タリーズ「フランク・シナトラ、風邪を引く」エスクワイヤ、1966年4月

「ヒロシマの原爆の爆発を生き延びるという体験は恐ろしいものだった」

「マシンは情報共有と接続性を尊重するよう構築されれば、社会をよくすることができる(そしてこれを50年後に再読すれば、どれほど私が正確にテクノロジーを予測しえていたかに驚くだろう)」

見事に、琴線に触れている。

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■ダン・ギルモア著『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』全文公開中

(2016年8月21日「新聞紙学的」より転載)