私が暮らすヨーロッパではHPVワクチンを打つのは常識だ。いま日本に一時帰国しているが、HPVワクチンの積極的勧奨中止がまだ続いていることに驚いた。

私はハンガリーの大学で学ぶ医学生だ。いま日本に一時帰国しているが、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨中止がまだ続いていることに驚いた。

私が暮らすヨーロッパでは HPV ワクチンを打つのは常識だ。ほとんどの国が国費でワクチン接種費用を賄っている。そして、UKやオーストリアでは男子のワクチン接種も推奨されている。私も、日本に帰国している間にワクチンを打とうと考えていた。

HPV 感染によって起きる子宮頸がんとは一体何なのか。そして、日本では HPV ワクチンは子宮頸がんワクチンと称され、女性が自らを癌から守るために打つもの、と考えられているが、海外では全く状況が異なることを解説する。

HPVと中咽頭がん

子宮頸がんは、HPV が子宮頸部の粘膜に感染することが原因であり、性行為による接触で感染する。感染しても殆どの人ではウイルスが排除されるが、まれにウイルスの遺伝子が子宮頸部の細胞に入り込み、癌化を引き起こす。そんなHPVが引き起こす「がん」は子宮頸部に限らない。 今世界で話題になっているのが、中咽頭がんだ。

中咽頭がん患者の中で、HPVが原因となっている割合は、アメリカでは40〜80%、スウェーデンでは約90%、そして日本でも51%ほど、とされている。つまり、HPV感染が予防出来れば、日本の中咽頭がんの患者数は半分に減らすことができるのだ。

中咽頭がんとは

鼻腔から喉にかけての頭頸部(主に耳鼻咽喉科の診る)と呼ばれる部位はのどぼとけのある辺りを指す喉頭(こうとう)と、口を開いて見える辺りを指す咽頭(いんとう)に分けられる。咽頭は、上中下の3つに分け、中咽頭とは真ん中の部分であり、口を開いて見えるノドの部分が中咽頭である。

頭頸部癌のほとんどが、強い酒やタバコにより生じる中で、ウィルス発がんは、上咽頭バーキットリンパ腫や癌のエプスタイン・バーウイルスによる発がんが有名だが、最近は中咽頭がんとHPVの関連性が注目されている。

中咽頭癌の症状は、のどの痛みや飲み込みにくさ、喋りにくさ等だ。後に、出血、開口障害、嚥下障害、など生命に危険を及ぼす症状が出てくるが、症状がなく進行していく場合も少なくない。

治療は、手術、化学放射線療法または放射線単独療法などがある。HPV陽性の中咽頭癌は治療への反応が良く、比較的治りやすいとされている。HPV関連か否かで、経過や治療反応性が異なるため、標準の治療法や、進行度分類基準までもがウイルス感染の有無で分かれるようになった。

中咽頭癌が増えている理由について、頭頸部がんを専門とする日本医科大学耳鼻咽喉科の横島一彦准教授は「性交渉の多様化、特にオーラルセックスでの HPV 感染の危険が大きくなっていることで、HPV関連中咽頭癌が増えている」と言う。

尚、ハンガリーはヨーロッパの中でも咽頭がん、喉頭がんの罹患率、死亡率は飛び抜けて高い。理由として、喫煙や飲酒が盛んなこと、 オーラルセックスが中学生でも日常的に行なわれていること、そして女性にしかHPVワクチン接種が行われていないこと、が挙げられる。

HPV予防のために

HPVは男性から女性だけでなく、女性から男性にもうつる。そして男性から男性にも。ましてや、中咽頭がんは男性患者数が多い。そのため、多くの国では男性にもHPVワクチンを推奨している。

ハンガリーと国境を接するオーストリアやクロアチアでも、両性のHPVワクチン接種を推奨している。男性にワクチン接種をしないハンガリーでは、咽頭がんの罹患率は隣国の倍以上に上る。

かつて風疹がそうであったように、HPVワクチンも、片方の性だけが接種しても効果が低いのだろう。日本は、かつて風疹ワクチンを女性のみに接種していた。

両性とも接種をおこなったアメリカでは、2009年以降は風疹の国内感染が起きていない。一方、日本では現在も風疹の流行を繰り返している。

同じ愚を繰り返すのは避けねばならない。しかし、「中咽頭がんに対するHPVワクチンは、子宮頸がんと違い、男性にも女性にも、そしてどの年齢層をも対象とすべきであるため、幾つもの越えなければならない壁がある」と横島先生は言う。

私も、未来のパートナーのためにも、HPVワクチンを打たなければと考えている。女性は自分のためだけでなく、大切なパートナーのためにも、HPVワクチン接種を考えなければならないのではないか。