VERY編集長・今尾朝子さんに学ぶタイトルのつけ方。

編集者にとってタイトルは命、企画=タイトルなのでそれがバシっと決まれた伝えたい事もバシっと決まる。短くて伝えられたら最高。
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先日、NHKの「プロフェッショナル・仕事の流儀」において、女性ファッション誌・VERYで編集長を務める今尾朝子さんが取り上げられた。出版不況と言われる中で35歳にしてVERY編集長に抜擢された今尾さんは、低迷する売り上げを発行部数30万部のナンバー1ファッション誌へ押し上げた。番組では躍進の秘密と苦闘を追いかける。

編集長就任時には編集方針の変更に部下が付いてきてくれない、特定のイメージが付く事を嫌がるアパレルブランドから洋服の貸し出しを断られるなど、多くの苦労を重ねたという。

■タイトル・見出しが「身近」になった。

自分が特に注目した点はタイトル(見出し)のつけ方だ。番組後半では一つの見出しについて今尾さんが延々と編集者と共に悩む様子が描かれた。番組の意図としてはこんな細かい所にも時間と手間をかけている、という一つの事例として取り上げたと思われるが、ウェブメディア編集長として、やっている事と考えている事は紙もウェブも根っこは同じだと思わされる内容だった。

見出しやタイトルを考える......従来であればこういった仕事は出版や広告に携わる人にしか関係が無い特殊な業務だった。しかし現在、多くの企業で「オウンドメディア」と呼ばれる、企業ブログやメディアの体裁をとったサイトが多数展開されるようになった。情報発信をする、そしてその際に見出しやタイトルを考える。こういった事が仕事として多くの人にとって身近になったのではないと思う。

まずは番組で紹介された見出しをめぐるやりとりを追いかけてみたい。

■「ゆるやか」に働く女性は新しい?

番組では子育てをしながら働く女性を表現する言葉として「ゆるやかに働く」という見出しを巡って今尾さんと副編長がやりとりしていた。取材時の次号の特集は新しい働き方を見つけたママを紹介するもので、テーマは「働くママのマイルール」。働き方を変えていくしなやかなママたちを取材、と映し出された資料にはある。仮の見出しは「働き方をゆるくして、幸せになったママたちがたくさんいます」とされていた。

「働く」と「ゆるく」「ゆるやか」は相反するイメージであり、インパクトはある。しかしゆるやかに働くという見出しが、表現したい事を正確に伝えられるのか。番組では今尾さん自身が子育てをしながら夕方には退社するような働き方をしているという。つまりこの企画が今尾さんの現在とリンクするわけだが、現在の今尾さんを「ゆるやか」と表現することが果たして正しいのか。

ナレーションでは、取材した(働く)女性たちに共通していたのは、皆確固たる意志を持っている事、それをタイトルで表現出来ないか、と説明される。おそらくこれは今尾さんにも当てはまるのだろう。

「ゆるやか」と「ゆるく」は違う意味で使っているが、同じ意味でとらえられてしまうのなら変えた方が良いのかも知れない、と企画を一緒に進めている副編集長は悩む。そして一旦決まった見出しは以下の通りだ。

「働く時間・時間帯は自分で決めたい」

そんなママたちが増えています。

番組ディレクターが、ゆるやかにこだわっていたのでは?と問うと、副編集長はわかりにくい上に取材相手にも「ゆるやか」に抵抗を感じると言われた、結局「ゆるやか」はハマらないと判断したといった説明をして、それならばと企画段階からこだわっていた言葉を思い切って削除したようだ。

これで決まったと思いきや、さらに修正が加わる。「時間・時間帯」はシンプルに「時間」と言い切ることにしたようだ。そして締め切りギリギリまで粘り、やっと決まった見出しは以下のようになる。

「働く時間は自分で決める」

そんなママたちって潔いい!

決めたいから決めるへと主体的な表現に、それに合わせてサブタイトルも大きく変えられた。そして最終的に見出しが決まると、決まったー!と今尾さんは笑顔で小走りしていた。番組では見出しが決まるまでこのような流れをたどった。

■突き刺さるタイトルはニュアンスを排除する。

ゆるく・ゆるやかでどうしようか悩んだ結果、どちらも使わないと判断したのはおそらく正しい。取材を受けた側も今尾さんも、短時間で効率よく働く、別の言い方をすれば密度の濃いハードな働き方しており、これを表現するには、ゆるくもゆるやかもフィットしそうにない。

加えて、ゆるくでもゆるやかでも、微妙なニュアンスの表現は見出しには適さない。タイトルの役目は読者に突き刺さる事であり、番組内でも今尾さんは以下のように説明している。

「編集者にとってタイトルは命、企画=タイトルなのでそれがバシっと決まれた伝えたい事もバシっと決まる。短くて伝えられたら最高」

記事タイトルであいまいな単語を使ってニュアンスを表現しようとすると読者に突き刺さらない。つまりニュアンスの表現は企画の中で文章や写真を使ってやれば良いわけで、タイトルで「説明」をする必要は無い。

途中で削られた時間と時間帯も、いずれも意味は違うが、これも本文で説明すれば良いということになる。働くママにとっては何時間働くか、何時から何時まで働くか、どちらも極めて重要な話である事は間違いない。しかしこれをタイトルに埋め込もうとすると時間と時間帯で重複するような表現を使わざるを得ない。

結局は削ってしまった方がスッキリとして読者にも突き刺さる。

■なぜヤフートピックスは読まれるのか?

ヤフーのトップ画面には、検索窓のすぐ下にヤフー!ニュ―スのタイトルが並んでいる。これはヤフー!ニュース編集部が選択した今読むべき、読んでほしい8本の記事でヤフートピックスともよばれる。そこで表示されているのは配信元である新聞社や雑誌社がつけた元々のタイトルではなく、13.5文字以内に編集された極めて短いタイトルだ。

「ヤフートピックスの作り方」という、ヤフーで実際にニュース部門を担当する人が書いた著書では、13.5文字は読もうと思わなくても認識出来る、つまり無意識に読者に突き刺さる文字数だという。ヤフーを利用している人は意識せずともタイトルが目に入り、無意識のうちにクリックしてしまう。このような手法がヤフートピックスの影響力を、そしてヤフーニュースの月間100億PVを超えるアクセスを支えていると言っても過言ではない(2001年以前はさらに短く、11文字)。

この本では、ある研究によれば一度に知覚できる文字数は9~13文字であるとか、新聞の社説の見出しも13文字の会社があると紹介するなど、短い文字数である事の根拠を説明している。偶然か意図的か、「働く時間は自分で決める」は文字数だけで11文字、カッコも含めると13文字となっている。サブタイトルもびっくりマークを含めて13文字だ。

ここまで見出しやタイトルを削ろうとすると、余計な情報は全てそぎ落とされる。そして結局何が言いたいのか?という点について極限まで絞りこむことを要求され、嫌でも突き刺さるタイトルになる(短ければ何でもいいというわけではないが、そこは後述する)。

■実演。

さて、では自分がタイトルをつける時に何を考えているか、説明してみたい。

この記事はつい先日ヤフートピックスに採用された。タイトルだけで選ばれたわけでは当然ないが、いくつかの候補の中から一番シンプルなものを選んだ。

「なぜ○○は××なのか」や「○○が××な理由」といったタイトルは散々使い古されたベタなネーミングではあるが、それだけ使われるには理由があるという事だ。○○で何について書かれているか、つまりネタが分かる。そして××でネタをどのように料理しているか、つまり切り口が分かる。

ウェブに限らず、あらゆる記事は「ネタと切り口」で構成される。それを端的に表現するタイトルとして適しているのがこの二つということだ。このセオリーに沿ってタイトルをつけた記事では「なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?」「グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか?」などがある。いずれも多数のアクセスを集めた

※上記記事のヤフートピックス採用時のタイトルは「スタバにみるマック復活の鍵」。

■濃いワードと薄いワード。

自分は編集長として書き手に執筆指導も施しているが、そこでアドバイスをするのはタイトルに「濃いワード」を使うように、という点だ。濃いワードとは単語一つに込められた情報量が多いモノだ。

以前、こんなタイトルで記事を書いた書き手が居た。

「女性が会社を起こし、事業を継続していくにあたって大事な話~経営者インタビュー」

何となく意味は伝わるが、使われている単語はどれもあまりに情報量が少ない。つまり薄いワードが使われている。「会社を起こし」と「経営者」では意味がかぶっている上に、事業を継続していくにあたって大事な話、は文字数をたくさん使っているのにほとんど伝わる情報が無い。結局このタイトルから分かる事は女性社長にインタビューをした事だけで、どんな社長なのか、何に関するインタビューなのかも全く分からない。つまりネタと切り口が分からない。これではタイトルの意味が無いため、点数をつけるならゼロ点だ。

■タイトルは長くても良い。

では濃いワードによるインパクトのあるタイトルとはどういうものか。過去に一番上手くいったタイトルは以下のものだ。

これは就職活動解禁に合わせて公開したところヤフートピックスに掲載された。就職活動という最も旬なワードを使うと同時に、大学生・NHK・お天気お姉さんと、目を引くワードをテンコモリにしてあえて35文字と長いタイトルにした。記事のキーワードとしてどれも欠かせないものであったため、短くする事よりもインパクトを重視した。

就職活動は大学生のみならず、社会人ならば誰もが気になる時事ネタとなる。大学生というワードも、最近の若者は......という説教は大昔の遺跡からも発掘されたと言われるが、多くの人にとって気になるワードだ。

NHKは知らない人は居ないテレビ局だ。おかしな例え話になるが、中小企業の社員が万引きで逮捕されても誰も興味をもたないが、NHK職員が万引きで逮捕となれば注目されるニュースになってしまう。これは大手有名企業ならばどこでも言えることだが、特にNHKは良くも悪くも注目される。上で紹介したように、マクドナルドやグーグル、スターバックスコーヒーといった企業名が記事タイトルにあるとそれだけで目を引く。

お天気お姉さんも、女子アナとならんでタレントではないけど普通の会社員でもないという、微妙な立ち位置が常に注目を浴びる。これはオリコンでお天気お姉さんランキングが発表される事からも分かる。

こんなのおかしなタイトルでアクセスを増やす「釣りタイトル」じゃないかと思われるかもしれないが、記事の中身を読んで貰えれば分かるように極めて真面目な内容で、他に付けようが無いタイトルである事は分かってもらえると思う。どの記事にも言えるが、当然のことながら良いタイトルは良い記事とセットである事が大前提だ。

■メディアの責任。

タイトルのつけ方だけではなく記事の執筆自体に言えることだが、記事を書いて公開することには極めて重い責任が伴う。批判記事でも賞賛記事でも、記事で言及した当事者からクレームが来たら記事としては失格だと自分は考えている。大手ウェブメディアで公開された記事はかなり高い確率で関係者や当事者の目に入る。自分の場合はヤフートピックスに掲載となればほぼ100%と言っても良い。

その時にトンチンカンな事を書いていると今ではツイッターやフェイスブック、ブログなど、多くの企業・個人が自ら情報発信が出来るツールがあるため、必ず反論を受けてしまう。。見解が異なるといった話ならまだしも、事実関係が間違っているのであれば記事で言及した対象に迷惑をかけ、書き手自身もいい加減な人間として認識されてしまう。場合によっては名誉棄損や営業妨害で訴えられても仕方がないだろう。

読まれるタイトルのつけ方は注目を集めるために重要な事ではあるが、テクニックだけに偏ると人様に迷惑をかける、場合によっては自分にも跳ね返ってくる諸刃の剣でもある。番組内でも一つの言葉が持つ力と怖さ、と説明されている。

雨後の竹の子のように「メディア」を自称するサイトが増えている現在、自戒の念も込めて、記事を書く事、そしてメディアを運営する事の責任を最後に伝えておきたいと思う。

【参考記事】

■なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?

■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか?

■就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。

■KDDIがナタリーを買った理由。 ~デジタルメディア・ビジネスデザインという24番目の利益モデルについて~

■ウェブメディアで稼ぐ方法 ~ナタリー・アップバンク・レシピブログの成功~

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー