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「手紙を書けば、会いたい人に会える」ベンチャー企業が急成長する裏に"手書きの力"

想いを込めて手紙を書けば、「会いたい」気持ちの本気度が目に見えて相手に届く。
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最近いつ文字を書いただろうか。

たまに手書きでメモをとろうものなら、常用漢字すら思い出せず、あわててスマホで漢字を確認するなんて人も少なくないだろう。

そんな中、手書きの手紙を武器に、ビジネスに必要な人脈を広げ、仕事のパートナーや顧客とのコミュニケーションを円滑にし、いくつもの成功事例を生み出している稀有な存在がいる。日本の縫製工場と直接提携して“Made in Japan”のファッションブランド「ファクトリエ」を展開するベンチャー企業、ライフスタイルアクセント株式会社の代表、山田敏夫氏だ。

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■人生のターニングポイントも「手紙」から始まった

山田氏は、自他共に認める手紙のヘビーユーザーであり、自身のブログ(「電話10回よりも直筆の手紙に1時間のほうが価値がある」)でも、「人を喜ばせたいとき、幸せにしたいと思ったとき、直筆の手紙ほど良いものはない」と語っている。

なぜ、山田氏は手紙を書き続けるのだろうか。

そこには人生のターニングポイントにもなった、手紙にまつわるひとつの成功体験があった。

「フランスに留学していた時、どうしても本場のブランドで働きたくてルイ・ヴィトンやエルメスなど30以上の有名ブランドに手紙を書いて送ったんです。そのうち、返事がきたのはたった1通だけ。そして面接を経て、グッチのパリ店で働けることになったんです。今思えば、人生のターニングポイントも手紙がきっかけで、自分にとっては大きな成功体験でした」

その後、グッチで一緒に働く女性店員から言われた「日本には本物のブランドがない」というひと言。この言葉が“Made in Japan”を世界に誇れるブランドにしたいと考える山田氏の原動力になったという。

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「起業したのは、日本のものづくりが『もうだめだ』といわれていた時期でした。日本のアパレル国産比率が著しく下がってきていて、工場で働く人たちも、“今日よりも明日は必ず悪くなっていく業界”の中で元気を失っていたんです。そこで『彼らが自分のブランドを持つことができたら、みんながハッピーになる』という考えを、自分の周囲から少しずつ広げていこうと、ファクトリエの事業を始めました」

■“Made in Japan”を世界に。ファクトリエ創業までの軌跡

山田氏がファクトリエを創業したのは2012年。「世界に誇る“Made in Japan”」を掲げ、各工場が自らの“名前”を前面に出して製造する「ファクトリーブランド」の商品を扱うECサイトとして誕生した。世界の一流服飾ブランドの製品を生産する高い技術力を持った日本の縫製工場が、ユーザーに直接販売できることによって、工場の売り上げを担保すると同時に、買う側にも安価で一流の商品を購入してもらえるという仕組みだ。

初めて形になった商品は400着のワイシャツ。在庫を抱えながらも自ら売り込みに行き、時には企業に出張営業もしながら一人で完売させた。そんな立ち上げ初期から快進撃を続け、ファクトリエは毎年、昨年対比400%という勢いで成長している。

■「会いたい人」に想いを込めて、1日1通したためる

そんな著しい成長の傍らで、山田氏は「会いたい人には手紙を書く」をモットーに、1日1通ペースで手紙を書いているという。便箋と万年筆やペンをいつもカバンに入れて、時間を見つけては手紙をしたためているのだ。

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「1通の手紙でいきなり会えることはほとんどありません。何度も何度も送り続けてようやく会えるのがほとんどで、打率でいうと1割もありません。それこそシャネルの社長に会いたかった時には、日本語で、時にはフランス語で、試行錯誤しながら10回くらい送り続けて、ある時社長が本を書かれたことを知ったので、その感想文を送ってみたら、すぐ翌日に電話がかかってきたこともありました」

「手書きの手紙は、相手も絶対読んでいると思う」と山田氏は笑いながら語る。そう信じて手紙を書き続けることで、小山薫堂さんをはじめとする名だたる有名人とつながり、人脈を広げることができたのだ。そんな山田氏にとって、「会いたい人」とはどんな存在なのだろうか。

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エルメス本社副社長 斎藤峰明氏と山田氏(ファクトリエ「STORY」より)

「会いたい人は、イコール『ファクトリエの応援団になってもらいたい人』だと思っています。いきなりビジネスの話をすることはあまりなくて、まずはファクトリエのファンになってもらったり、困った時には相談させてもらったり。そういう関係を続けていると、何かあった時にはみんな助けてくれる気がしますね」

ようやく会えた相手には「自分は何者なのか、何をしていて何を目指しているのか」をきちんと説明することを心がけているという。工場で働く人や日本の繊維産業の未来を純粋に思い、ファクトリエのことを活き活きと語る山田氏の姿が、自ずと周りを応援したい気持ちにさせるのだろう。

■「なぜ手紙がいいのか」山田流手紙論

では、そもそもなぜ山田氏はアプローチの手段として手紙を選んだのだろうか。手書きの手紙にこだわり続ける理由を聞いてみた。

「起業したばかりで肩書も何もない自分にとって、相手に見てもらえるものといったら、むしろ手書きの手紙しかなかったんです。そんな自分からメールを送っても、他の人と同じフォーマットで相手の目に入るのですから、たくさんの中から目に留まるのは難しい。そうなると、競争相手が少ない手紙の方が、相手に届く可能性は高いと思うんです」

手書きで一文字一文字丁寧に書くのは、時間も手間もかかってとても面倒な作業だ。しかし、みんなが敬遠する面倒さという“参入障壁”を乗り越えて書き上げるからこそ、自分の強い想いが宿り、それは確実に受け取る相手にも伝わる。「会いたい」気持ちの本気度が目に見えて相手に届くのが手紙なのだ。

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「単純に、もらったらうれしいですよね。メールより、SNSのメッセージより、明らかに気持ちが伝わるし、記憶に残ると思います。だからもらったら必ず返事を書きます。たとえお断りの内容だったとしても、返事をくれたという事実だけでもその印象は変わってくると思うんです」

もちろん常に手紙が常套手段なわけではない。始まりは手紙でも、仲良くなれば携帯でのやりとりになるし、ちょっとしたお礼や季節のあいさつにははがき、メールやSNSなどのデジタルツールも目的やスピードに合わせて使い分けているという。

■商船三井に蔦屋書店.. 手紙から実った数々のビジネス

山田さんが手紙で開拓してきた「ファクトリエの応援団」。その人脈の広がりは、新しいビジネスにもつながっている。商船三井が運行する豪華客船「日本丸」の中にファクトリエのポップアップショップを展開したり、蔦谷書店のカフェスタッフが着るシャツにファクトリエの商品が取り入れられたりしているのも、手紙による縁から生まれた新しい試みだ。既存流通は使わず、おもしろい販売チャネルを開拓することで直販の新しい道を創り出していく、そこにファクトリエらしさがある。

6月末から始まった「南の風のシャツ特集」は、沖縄県衣類縫製品工業組合との共同プロジェクトで、組合から送られた「かりゆしウエアをブランド化したい」という相談の手紙が縁を結んで実現したものだ。また、手紙を通じて知り合った人脈から、国際的に有名なデザイナーと奇跡的につながり、仕事を依頼できたこともあったという。

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南の風のシャツ特集」アロハシャツのオリジナルブランド“PAIKAJI”さんと企画した夏のカジュアルシャツシリーズ

■暑中見舞いもフル活用「近況報告にちょうどいい」

そんな手紙ユーザーである山田氏は、1年のちょうど折り返しの時期の近況報告に「暑中見舞い」は最適だと語る。

「お世話になっているのになかなか会えていない人、遠くにいる人には、暑中見舞いを送ります。年賀状に比べると暑中見舞いを出す人は少ないですから、受け取る側の印象に残りやすいですよね。送る側としても1枚にかけられる時間も増やせますし、想いも込められます」

海外では夏に便りを送る習慣があるところは少ない。日本ならではの習慣に倣って、自然なタイミングとして手紙を送れるのは、とてもありがたい機会だと語る山田氏。暑中見舞いは「かもめ〜る」で、もちろんすべて手書きで毎年必ず送っているという。

「大切なのは、送る相手に向けた『あなた用の言葉』。はがきなら、書く時間は10分〜15分程度ですから、ふだん書き慣れていない人でも気軽に始めやすいと思います。『会いたい』『話をしたい』『伝えたい』という気持ちの高ぶりを感じる相手に送るメッセージなら、デジタルより手書きの手紙やはがきを送る方が100%いいですよ」

■「世界って、意外と近い」手書きの手紙が気づかせてくれたこと

最後に山田氏が語ってくれたのは、雲の上の存在だと思っていた相手との距離が、手紙のおかげで「意外と近い」と思えるようになったという話だった。

「手紙やはがきは、住所と名前が分かれば、誰でも送れるはずのものです。真っすぐな気持ちを綴った手紙なら相手にもきっと届くはず。なぜ、こんないい方法を使わないんだろうと思います(笑)。そうして手紙で想いを伝え続けて、実際にお目にかかったり、ファンになっていただいたり、仕事でご一緒させてもらえたりすると、はるか遠くの人だと思っていた人でも、案外近い存在だったんだなって気づくんです」

「会いたい」という強い気持ちから手紙を書くというアクションを起こせるかどうかは、1回の成功体験にかかっていると山田氏は語る。

「一度でも手紙を書いたことで実際に会いたい人に会えたという体験ができたら、その人は書き続けると思うんです。自分はその味を覚えてしまったので、書き続けているんだと思います。スタッフにも、会いたい人には手紙を書いて会いに行くことを勧めています」

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暑中見舞いの季節、「会いたい人に会える」「一緒に仕事をしたい人と会って話をする」、そんなきっかけをつくれる手紙のパワーを信じて、想いをしたためてみるのはいかがだろうか。