映画「カメラを止めるな!」は「パクリだ」と週刊誌報道、弁護士の見解は?

問題となっている、「原案」と「原作」の違いを説明してもらいました
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映画「カメラを止めるな!」公式サイトより

口コミで人気が広まり、一大ブームを巻き起こしている映画「カメラを止めるな!」。この作品が今、波紋を呼んでいる。

ことの発端は、8月21日発売の週刊誌「FLASH」の報道。「『カメラを止めるな!』はパクリだ!原作者が怒りの告発」と題した記事のなかで、原案としてクレジットに載った劇団を主宰していた和田亮一さんが「構成は完全に自分の作品だ」と感じていたと語っている。

同日に更新した自身のブログでは「あの作品が軽く扱われ、さらには今、『オリジナルストーリー』として世の中に出ているのが本当に許せません」と書いている。

原案の作品とは?

和田さんは2011年〜2014年、劇団PEACEを主宰していた。その劇団で演じられていた舞台「GHOST IN THE BOX!」が、映画の原案になっていると、クレジットでは表記されている。

当時、劇団にいた脚本家志望の後輩とともに企画案を練り、脚本はその後輩が執筆。「GHOST IN THE BOX!」は、劇団で初のロングランとなった。劇中には、「カメラは止めない!」というセリフもあるという。

映画を初めて鑑賞したとき、和田さんは「最高でした」とツイート。

しかし、「最初は単純に嬉しかった」ものの、実際に見てみるとクレジットに自分や劇団の表記はなく、監督に問い合わせたところ、話し合いとなったという。

そして配給拡大のタイミングで「ひとまず原案と表記することになった」が、「僕はただ、『原作』として入れてほしかった」とブログで心情を吐露している。

映画公式サイトは「パクり」を否定

映画公式サイトは、8月21日の週刊誌報道を受け、「センセーショナルな見出しや、未だ確定してもいない本舞台関係者との協議過程の内容を含む記事が掲載されたことに強く憤りを感じます」と抗議

この映画が舞台「GHOST IN THE BOX!」から着想を得て企画・製作したという経緯があることに触れ、舞台作品に敬意を表す意味で、8月3日の拡大上映から、舞台関係者に対し、そのクレジットとして「原案:劇団PEACE『GHOST IN THE BOX!』」という表記を提案したとしている。

「舞台とは独自の形で製作を進め、ストーリーは舞台と全く別物である上、脚本の内容も異なるもの」として、週刊誌報道にあるような「著作権侵害」が生じていたり、本舞台を「パクった」といった事実はないと主張した。

そもそも原作と原案って何が違うの?

ここで出てくる、原案と原作という言葉。一般人としては、言葉のあや程度の違いにしか思えないが、実はこの二つには大きな隔たりがあるという。著作権法に詳しい、高樹町法律事務所の桑野雄一郎弁護士に聞いた。

・原作とは?

実は、原案と原作の用語は正確に使い分けられているわけではありません。ただ、一般的に、「原作」とは、著作権法における「原著作物」の意味で使うことが多いです。「原著作物」とは、それから派生してできた「二次的著作物」の元になった著作物のことを言います。

原作のあるマンガを考えてみると、例えばマンガ原作者の手がけた原作の中には、 映画のシナリオのように、コマの絵の構図や人物の表情、セリフなどが詳細に書かれているものがあります。画を担当するマンガ家は、その原作者の原作に忠実に作画をしていきます。もちろん作画の部分はマンガ家によって作られたものですが、作品の基礎はあくまで原作者が作ったものです。

このように、元となった作品を基礎として作られた作品を、二次的著作物と呼びます。

原作に基づいて二次的な作品を作る場合は、ストーリーを含めて原作に忠実に展開しなければいけなません。「原作とは違った展開にする」などといった重大な変更をする場合は、原作者の了解を取ります。その結果、原作者がOKをすれば、ストーリーや設定が違っても、原作として表記されるのが一般的です。

・原案とは?

これに対して、「原案」は、著作権法にはない言葉。一般に原案と表記されるのは、元の作品を踏まえてはいても、新しく作った作品のオリジナルの要素が強い場合です。ただ、「原案」と表記されるのは、元の作品の作者に了解を得ている場合が多いです。

例えば、映画や舞台で有名な「ウエストサイドストーリー」は、現代版「ロミオとジュリエット」と言われますが、ロミオとジュリエットのストーリーに忠実であるわけではなく、まったく別の作品として捉えられています。

ですから、シェイクスピアが生きていたとしても「ウエストサイドストーリー」は「ロミオとジュリエット」の著作権を侵害するわけではありません。でも、「ウエストサイドスーリー」が生前のシェイクスピアの了承を得て製作されていたら、「原案」と表記されていたでしょう。

・違いは?

原作と原案の違いは、元の作品と新たな作品で、どのくらい内容が変わっているかで、元の作品の著作権が及ばないほど違う作品になっていれば「原案」、そこまでの違いがなければ「原作」と、一応は整理することができます。

今回の例でいえば、映画の内容がどれだけ舞台の内容に共通しているのかですね。

両者の脚本を比べ、全体のストーリーの流れから各場面でのセリフ回しを比べる。全体の中でのキーポイントがどの程度似ているか、という点も大切な要素になってきます。

仮に法廷で争うとなったら、「何となく似てる」「自分が似ていると思った」ということだけで勝てるわけではありません。「似ている」ことについてどれだけ裁判官に対して説得力ある説明ができるかということが鍵になります。

結果がどうなるかは、そうした作品の内容はもちろんですが、どのような論点で争うかによって大きく変わると思います。

・裁判で負ければお蔵入りの可能性も

この映画は、すでに大きな話題となっており、今後はDVDなどの販売も視野に入ってくるかもしれません。ですが、原作者と主張している方との間で訴訟になり、映画製作者側が裁判で負けた場合は、DVDなどの販売も、そして映画館での上映やTV放送もできなくなり、作品としてお蔵入りになってしまう可能性もあります。

そこで、裁判ではこのような結果を避けるため、裁判官が和解の勧告をするパターンもあります。その場合、原作者と主張している方の言い分を踏まえ「原作としてクレジットに入れる」、また映画がヒットしたのは原作の寄与も何割かあるということで、原作料として利益の何割かを支払うなどの合意ができれば、和解となる可能性も考えられます。

このほか、「原作を許可なく改変された」と認められれば、原作者の著作者人格権(同一性保持権)を侵害したとして、慰謝料の支払いも問題になるかもしれません。

・事前のコミュニケーションはあって然るべき

今回の件の特徴は、企画が始まった段階で、許可を得るなどの手順を経ないまま製作された映画に「原案」という表記がなされている点にあります。

「原作」と「原案」のどちらの表記にするかはデリケートな問題でもあるので、一方的に「原案」と表記するのではなく、表記するかしないか、するとしたらどう表記するかについて元の作品の作者に当初から確認をすることが必要だったかもしれません。

確認を取る段階で「絶対に使うな」と言われたのであれば、そこでとん挫してしまうわけではなく、オリジナルの要素をたくさん盛り込み、かなり設定を変えるなどして、まったく違った作品として何も表記をせずに出すという選択肢もあったと思います。

何かにインスパイアされて作品を作るというのは悪いことではありません。ただ、原作ではなく原案となる場合でも、「原案」と表記するのであれば、元の作品を作った人に対して、原案として使わせてほしいと打診をしたり、脚本を確認してもらうといったコミュニケーションをとることはあって然るべきだったでしょう。