なぜ「理念による経営」は、冷笑されるのか?

多くの経営者に人気があるのが、「理念による経営」というテーマだ。「理念を掲げ、従業員のやる気を喚起しよう」「社員の前向きさを、理念によって引き出そう」 そういった事を謳う「経営の定石」は非常に多い。
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ioseph via Getty Images

多くの経営者に人気があるのが、「理念による経営」というテーマだ。

「理念を掲げ、従業員のやる気を喚起しよう」

「社員の前向きさを、理念によって引き出そう」

そういった事を謳う「経営の定石」は非常に多い。

しかし、私はそれを全面に出し過ぎる経営者にはすこし距離をおいている。

実際、私が見てきた多くの現場で、「理念に共感」等と言っている経営者は冷笑されるのがオチだからだ。

もっと言えば、「理念ありき」ではなく、ほとんどの会社では「理念は後付け」であったと感じる。

なぜなのだろうか。私は多くの理念経営の事例と、現場での乖離がずっと疑問であった。

しかし、ある書籍に、この疑問に対する答えが示されていた。

SFの巨匠ロバート・A・ハインラインによる名作「月は無慈悲な夜の女王」という作品は、革命というテーマを扱っている。

革命というと武器を持って戦争、というイメージだが、この著作で扱っている革命は少し毛色が異なり、非常に面白い。

これから本を読む方のためにネタバレはしないでおこうと思うので、核心には触れない。

が、この著作の前半に興味深い「組織論」が語られている。

革命の中心人物ととなる登場人物の1人、ベルナルド・デ・ラ・パスは、主人公に向かって組織づくりの考え方を伝える。

組織とは、必要以上に大きくあってはいけないのですよ...単に参加したいというだけの理由で同士に入れては絶対にいけません。

そしてまた、ほかの人に自分と同じ見解を持たせるという楽しみのために、他人を説得しようとしてはいけないのです。時期が来れば、その人も同じ意見を持つようになるでしょう。

これは慧眼である。私が見てきた多くの現場では、「経営理念の教育・伝達」は、半ば公理のように扱われてきた。

しかし、

「能力はともかく、理念に共感し参加したい人を加える」

「経営理念を社長自ら言明し、社員を説得する」

ということを実行した結果、うまくいかず、苦しんでいる会社もまた多い。

理念による経営を推進する経営者の悩みは、究極的に以下のようなものだ。

「なぜ、社員は理念に共感してくれないのか? 採用が間違っていたのか?」

「なぜ、私は彼らのために尽くしているのに反感を持たれるのか?」

「なぜ、このような立派な理念に共感してくれる人が少ないのか?」

ハインラインによれば、答えはカンタンだ。要は

1.社員を説得しようとしてはいけない。それは自分の楽しみのためにやっていることとみなされる。従って、反感を生む。

2.適切に行動し、理念に基づいた行動をしていれば、時期が来れば、社員は自然に社長と同じ考え方になる。もしそうならない場合は、社長の器に対して、組織の規模が大きすぎるか、行動と理念が異なっている。

私は今まで、「社長が立派なことを言っているのに、なぜ従業員が反感を持つのか」が、今ひとつわからなかったが、その疑問が氷解した。

やはり、ビジネス書だけ読んでいると頭が凝り固まってしまうものだ。

・2014年5月23日 Books&Apps に加筆修正

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