新聞記者と参加者が、ともに社会課題解決へのアイデアを探る新しい試み

慶應義塾大学大学院・神武直彦准教授「ひとりひとりが未来を考えるクリエーターです」
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世界のボーダレス化、人口増加、気候変動や、ますます加速するIT化。いま、起こりつつある社会の変化の中において、これからのメディアが果たすべき役割とは何であろうか。こうした社会課題に向けて、ワークショップやフィールドワークを通じて新聞記者と参加者がともに解決策を模索する新しい試みが始まっている。

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2015年11月8日、東京・築地の朝日新聞本社で「未来メディア塾『未来メディアキャンプ』」(主催:朝日新聞社 特別協力:慶應大学SDM研究科 協力:Think the Earth)が開催された。記者が提示した9つの社会課題ごとに一般応募から選ばれた20代、30代中心の若い男女あわせて約50人が参加。「老後破綻のない社会をどうつくるか」「持続可能な農業をどう実現するか」「ニュースとテクノロジーの新しい関係」など多様な社会課題について、現状認識や解決に向けたアイデアを持ち寄った。

参加者は社会人と学生がほぼ半数ずつで、IT、コンサル、建築、金融、政治、農業など多様な専門分野で活動する人が目立つ。ファシリテーターを務める慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)の神武直彦准教授が「システムデザイン」という社会課題の解決アプローチを紹介しつつ、「ひとりひとりが未来を考えるクリエーターです」とエールを送り、テーマごとに分けられたテーブルで記者を交えて一斉に議論が始まった。

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各記者がテーマに込めた想いを、つづいて参加者も自己紹介と参加動機について次々と語った。性的マイノリティーをテーマに取り上げるテーブルでは、「なぜ、他者と自分が一緒に生きられないのか」という自身の体験上の疑問からテーマを追求してきたという男性や、ニュースとテクノロジーの関係を考えるテーブルでは「図書館という機関を通じて行う社会貢献」を研究する女性など、積極的にテーマへの関心を語る姿が目立った。自分なりの解決アイデアをさっそく提案する参加者もいて、記者から思わず「ハハ、もうそれは結論だね。よし、今日はもうおわり!」と冗談がとび、どっと笑いが起こるグループも。

初対面同士ということで最初はぎこちなかった各テーブルの雰囲気が一気に緩むきっかけとなったのは、昼の休憩時間。テーブルの参加者が一斉に弁当を開いたところから、徐々に本音が交わされはじめた。例えば、障がい者雇用について議論するテーブルでは、この問題の現状がそもそも人々に知られていないことへの不満や悔しさがあふれ出た。その原因について、メディアの責任を率直に指摘する参加者もいたが、通常の配信記事の中では十分に伝えきれない難しさ、といったジレンマを正直に打ち明ける記者も。こうして職種や立場を越えた議論がなされるにつれ、各自が既に持ち合わせていた現状認識やアイデアを提示する段階から、お互いの認識、異なる見解を共有しながら、テーブルを囲んだ全員で共に解決策を探求しようとする前向きな議論に変容していった。

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午後は、課題の現状を洗い出し、いよいよ解決の具体的なアイデア出しが始まる。初顔合わせから若干4時間。非常に早い展開だが、システムデザイン・マネジメント研究科から派遣された学生のサポートもあり、たった10分のブレーンストーミングでは、半数以上のチームで50以上、最高で80もの解決アイデアが挙がった。アイデア出しは質より量、というデザイン思考のひとつの手法だ。ひとたび議論が始まれば終了の合図が聞こえなくなる程、どのグループも白熱したやりとりがさらに続く。アイデアを書いた色とりどりのポストイットでホワイトボード一面が埋まってゆく。

ワークショップも終わりに近づき、第1日目の収束に向かおうとするが、チームに用意された、ここまでの議論を集約するための1枚のシートはなかなか埋まらない。それぞれ異なる立場や視点からアイデアをひとつにするのはやはり容易ではない。「農業衰退の打開策は、人を増やすことか、いや、それとも機械の自動化か」。意見が対立することで、「何故そう思うのか」など、議論は終わらない。

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この日最後のプログラムで、各チームが「スキット」(課題の解決方法をひとつのストーリーにした即興劇)を披露した。もちろん、1日目の段階でアイデアがまとまったというわけではない。だが、「それでもまとまらない時は、掛け合わせればいい」とひとりの参加者が語ってくれたように、全員の理想をできるだけ詰め込んだ最初の「ストーリー」をもとに、これから第2日目(12月6日、慶應義塾大学・三田キャンパスで開催)までの1ヶ月間、現状調査と検証を通じてさらにまとめてゆくことになる。

グループごとに実施するフィールドワークや関係者・専門家へのインタビュー予定や各自の役割を確認して、この日は閉会した。1ヶ月後に再び集まる際にはアイデアをひとつのモデルにまとめる作業になる。もし、社会課題解決のための優れたモデルと認められた案が出た場合は、朝日新聞社のクラウドファンディングサービス「A-port」を通じて出資を募り、実現に向けて実際に動き出す道もある。その目標に向けて1ヶ月後、フィールドワークを経て各チームが打ち出す検証結果に期待したい。

(慶應義塾大学SDM研究科 世羅侑未)