いつも「ひとこと多い人」の脳で起きていること

小さな失敗まで掘り起こせば、誰でも一つや二つは思い当たるふしがあるのではないか。時に失言は命取りになる。その一言によって辞職、謹慎、降格に追い込まれた人の名前も、一人や二人、誰もが思い浮かぶはずだ。もしや身近なところにも?
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■ 失言、したことありますか?

小さな失敗まで掘り起こせば、誰でも一つや二つは思い当たるふしがあるのではないか。

時に失言は命取りになる。その一言によって辞職、謹慎、降格に追い込まれた人の名前も、一人や二人、誰もが思い浮かぶはずだ。もしや身近なところにも?

だが、もっと恐ろしいのは、あなたが失言とは思っていない(実際に、それほど強烈なインパクトを残すものではない)、言わばプチ失言のほうである。これは自覚がないぶん、日々繰り返される。そして習慣化されていく。たとえば、なんだか気になる口癖、のように。

だからといって、あなたのキャリアや組織に、ただちに危険が及ぶものではない・・・点が、怖いのだ。

私は「上司のコミュニケーション」というものを20年来扱ってきているので(自分が今なお妻に失言を繰り返しているにもかかわらず・・・汗)、それが部下のモチベーションを下げ、組織のパフォーマンスを蝕んでいくリアリティを体験しつづけている。

■ さいきん、どんな判断ミスをしましたか?

しかし事は単にコミュニケーションにとどまらない。人間は言語を通して高度な思考をしている。言語を持たない動物にも思考はあるが(専門的には「思考」をどう定義するかによって解釈は異なる)、それは目の前に対象物がある場合に限定される(よって知覚的思考と呼ばれる)。

社内会議の席上にはいない取引先の担当者や顧客を思い浮かべながら、相手のニーズを汲んで施策を考える、なんていうウルトラC的な思考は、言語なしには不可能である。ある意味、これが天から与えられた人間の特権だ。

こうして高度な判断や意思決定が行われるわけだが、そこで、もういちど思い返していただきたいのが失言だ。失言というのは、人間の得意技である言語的思考のエラーが、わかりやすく顕在化したもの、と解釈できる。ということは、こうしたコミュニケーション上の失敗と同じような意思決定のエラーが、日々あちこちで繰り返されているということだ。それがコミュニケーションとして表に出ているか、裏で動いているかの違いだけである。

そこで、「なんとかの意思決定」というより分かりやすい失言について、そのメカニズムを探る意義が深まる。失言の経緯がわかれば、判断や意思決定のエラーについても、今までにない対策を打てる可能性が出てくるからだ。

仕事や人生において最善の判断ができる確率を高め、誰もが求める成功や幸せ(その定義はさまざまであるにせよ)を実現する手立てが、ここにあるかもしれない(!)。

■ いつも「ひとこと多い人」を、治す手立て

私たちは、「ビジネスにおけるパフォーマンスを高める」という観点から、脳医学をベースとした企業研修やエグゼクティブ対象のコーチングを提供している。脳において人の本能を司るのは、脳幹と呼ばれる場所だ。ここから大脳辺縁系という場所に情報が伝わり、ここで情動(一般的には感情と理解していただいてもよい)がつくられる。

仮の話で恐縮だが、ある著名な政治家でオリンピック委員会のリーダーでもあるような要人が、一人の期待されているアスリートの本番でのミスを目の当たりにしたとしよう。期待値の大きさと結果のギャップは、その要人の心を激しく揺さぶる。つまり、一時的な激しい感情=情動が湧き起こるのだ。

その結果、記者やカメラマンたちの前で、「あの子、いつも大事なときに転ぶんだよね。なんでなんだろう」・・・なんていうセリフを吐いてしまうかもしれない。

これはフィクションだが、十分あり得る話ではないだろうか(笑)。

要人は後で孫からきつくお説教されたりするのだが、残念ながら、私もあなたも、すべての人が、この要人と同じメカニズムから逃れることはできない。

そのメカニズムとは、言語を通じた人間的な思考よりも先に、「悔しい~」とか「ふざけるな」とか「またかよ」といった、目の前の対象物(この要人の場合はテレビ画面だったと思うが)に関する知覚的思考=動物的思考をしてしまう、ということだ。

これは性格だとか好みだとか、そういう日常的な次元の話ではない。言語的思考は生物学的に見て後から発達した、大脳皮質という場所がディレクションしている。そして都合の悪いことに、ここで情報を受信できるのは、生物学的な先輩である大脳辺縁系より後なのだ。

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■ 脳をアップデートする

よく「頭に血が上る」などと言うが、あれはまさに脳の先輩である大脳辺縁系が、忙しく働いている状況を示している。こうして生まれた情動に関する情報が、なんら制御されないまま後輩の大脳皮質に送られると、動物的なままの状態で言語的思考が働いてしまう。これが失言のメカニズムであり、いわゆる拙速な判断、近視眼的なものの見方による意思決定、それがもたらす失敗の元凶ともいえる。

もちろん、脳の仕組みだから仕方がない・・・で結論づけるしかないのなら、誰もが前述した要人になってしまう。しかし実際はそうでないことは、あなたが期待するとおりである。

実は情動というのは、きわめて簡単なトレーニングを正しい方法で継続すれば、多くの人が制御できるようになる。言語を通した人間的思考を操る大脳皮質の特定部位の厚みを増すなど、ちゃんと科学的に可視化できるかたちで脳をアップデートできるのだ。

このハフィントンポストの創設者であるアリアナ・ハフィントン氏も提唱している、マインドフルネスという概念、そしてその実践法が、まさにそれだ。

次回は、その内容についてご紹介させていただこうと思っている。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)理事 吉田 典生

7 Fascinating Facts About Meditation
脳の柔軟性が向上(01 of07)
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持続的な瞑想は、「神経の可塑性」につながる。環境に合わせて、構造的かつ機能的に変化できる脳の能力だ。\n\n前世紀の科学では、成人期を迎えたあとの脳は変化しないと考えられてきた。しかし、米ウィスコンシン大学の神経科学者リチャード・デビッドソン博士の研究によると、瞑想に慣れた人の脳では、瞑想後にも高レベルのガンマ波が発生し、特定の刺激にとらわれない能力があるという。つまり、こうした人は、自分の考えや反応を自動的にコントロールできているということになる。
大脳皮質の厚みが増えた(02 of07)
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1日に40分間の瞑想を行っている米国の男女を対象に行った2005年の研究では、対象者の大脳皮質が、瞑想をしない人と比べて厚くなっていることがわかった。つまりこれは、瞑想をしない人よりも脳の老化がゆっくりと進んでいることを意味する。また、皮質の厚みは、決断力や注意力、記憶力にも関連している。
「注意力の向上」に(睡眠より)効果的(03 of07)
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2006年には、「眠る」、「瞑想する」、「テレビを見る」という行動をとった学生が、それぞれの行動のあとの注意力を測定する調査が実施された(画面が光ると同時にボタンを押すという方法だった)。この結果からは、瞑想をしていた学生が、ほかの行動をとった学生よりも10%高い注意力を持つことがわかっている。\n
血圧低下に効果的(04 of07)
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2008年、マサチューセッツ総合病院のランディ・ザスマン医師は、高血圧の患者を対象に、3カ月間の瞑想をベースとしたリラクゼーションのプログラムを実施した。このプログラムに参加した患者は、薬による血圧のコントロールを受けていない。\n\n定期的な瞑想を3カ月間行った結果、60人中40人の患者に大幅な血圧の降下が見られ、薬の量を減らすことに成功した。この研究からは、リラクゼーションが血管を拡張させる一酸化窒素の生成にもたらす効果がわかっている。
テロメアを保護する(05 of07)
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テロメア」と呼ばれる、染色体の末端部にある保護カバーは、老化防止の科学で現在注目されている。テロメアが長ければ、長生きできる可能性も高いというのだ。\n\n米カリフォルニア大学デービス校の「シャマサ・プロジェクト(Shamatha Project)」が行った研究によると、瞑想をしている人は、瞑想をしていない人に比べてテロメアの活動が非常に高いことがわかった。テロメアの構築を手助けする酵素である「テロメラーゼ」が活性化すると、強固で長いテロメアができる可能性が高いと言われる。
HIVの進行を遅らせる(06 of07)
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リンパ球や白血球は、身体の免疫系システムの「中枢部」であり、HIV感染者にとって特に重要なものとされる。\n\n2008年にHIV感染者を対象に行った研究によると、瞑想をしていない感染者が大幅なリンパ球の減少を示したのに対し、8週間の瞑想コースを受けた感染者では、リンパ球の減少がまったく見られなかったことが示されている。\n\nまた研究からは、瞑想したあとにリンパ球が増加することもわかっている。ただし、この研究の被験者は48人と少数なため、決定的な結論とは言い切れない。
痛み止めの効果もある(07 of07)
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2012年初頭にウェイク・フォレスト・バプテスト大学(Wake Forest Baptist University)が実施した実験では、瞑想によって痛みの強度を40%、痛みの不快感を57%減少させることができ、モルヒネや鎮痛剤を使用した場合の痛みの減少率(25%)よりも効果があったという[実験では、5分間にわたって右脚に摂氏49度の装置を当て、痛みのレーティングを尋ねた。瞑想の練習を行った者では、少ない者は11%、多いものは93%減少したと答えた]。\n\n瞑想は、体性感覚皮質の活動を抑え、脳のほかの部分の活動を増加させるのに効果があると考えられている。ただしこの研究もサンプル数が少ないので、断定的な結論を出すことはできない。