夏目漱石、こころ読者の小学生に「およしなさい」 手紙を公開

文豪・夏目漱石(1867~1916)が、洋書の寄贈を申し出た兵庫県加古川市出身の実業家に宛てた直筆の礼状が、同市内で見つかったと姫路文学館(姫路市山野井町)が発表した。
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夏目漱石直筆の礼状=姫路文学館提供 | 朝日新聞社

漱石、こころ読者少年に「およしなさい」 手紙を公開

文豪・夏目漱石(1867~1916)が、洋書の寄贈を申し出た兵庫県加古川市出身の実業家に宛てた直筆の礼状が、同市内で見つかったと姫路文学館(姫路市山野井町)が発表した。文面は大正8(1919)年出版の「漱石全集」第12巻(岩波書店刊)で紹介されたが、実物は所在不明になっていたという。同文学館で11日に開幕した特別展「『こころ』から百年 夏目漱石―漱石山房の日々」で公開している。

礼状は、明治42(1909)年8月19日付。漱石の代表作「こころ」の執筆に使われた同じデザインの原稿用紙2枚に墨で書かれた。漱石ファンの実業家前川清二氏(故人)が英国人所蔵の複数の洋書をオークションで入手し、漱石にリストを添えて寄贈を打診した手紙の返礼とされる。

文面では、前川氏の好意に感謝し、「永(なが)く丁重に保存可致候(いたすべくそうろう)」と記述。さらに、旅に出るため、留守中に洋書を受け取った際は礼状を忘れるかもしれないと続けて「其辺(そのあたり)は御容赦被下度候(くだされたくそうろう)」とつづっていた。

学芸員の竹広裕子さんによると、前川氏は5冊を進呈したといい、「礼状を忘れるかもしれないとつづるところに漱石の真面目な性格がうかがえる」と話す。

文学館の特別展は漱石の生涯をこうした書簡や原稿、愛蔵品など約200点を通してたどる。「こころ」の読者で加古川市に住んでいた松尾寛一少年(故人)に宛てた返書は「あなたは小学の六年でよくあんなものをよみますね。あれは小供(子供)がよんでためになるものぢやありませんからおよしなさい」と記す。ほほえましい交流がうかがえ、「こころ」研究の貴重な資料だ。

会期は11月30日まで。月曜休館(祝日は開館し、翌休館)。一般500円、大学・高校生300円、小中学生200円。問い合わせは文学館(079・293・8228)へ。(藤井匠)

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(朝日新聞社提供)