国際テレビ会議「News Xchange」リポート -シャルリ・エブド事件の報道で後悔することは?

何をどこまでいつ出すか、24時間のテレビニュースの製作者からメディアを取り巻く苦悩が語られた。
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(「ニュース・エクスチェンジ」のオープニング。筆者撮影)

秋になると、欧州では様々なメディア会議が開かれる。

世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)による「世界出版エキスポ」(今年は10月上旬、独ハンブルグ)、フランクフルト・ブックフェア(10月中旬)、アイルランド・ダブリンではスタートアップの巨大サミット、「ウェブ・サミット」(11月上旬)-続々とある。

しかし、近年、秋になると筆者が最も知的刺激を受けるメディア会議の1つが、テレビニュースの国際会議「News Xchange(ニュース・エクスチェンジ)」だ。今年はベルリンで10月28日と29日が本会議、30日にワークショップが開催された。

主催は欧州放送連合=EBU=傘下にある組織ユーロビジョンだ。もともとは欧州域内の放送局の集まりだったが、「それだけでは面白くない」ということで、世界のほかの地域の放送局からも人を呼ぶようになった。

参加者は欧米、中東、アジア諸国の大手放送局の制作者、編集者、学者、ジャーナリストなど約500人。

テレビニュースの国際会議ではあるのだが、ネットニュースやテック企業、新聞社も巻き込んで、「ニュースの報道はどうあるべきか」について現場を知る者同士が議論をする場所になっている。ニュース好きにとってはたまらなく面白い会議だ。テレビ局がそれぞれのセッションを制作するため、見せ方にも工夫がある。その日のセッションが終われば、パーティータイムで盛り上がる。

今年の会議の様子は「GALAC 1月号」(放送批評懇談会)や「メディア展望 12月号」(新聞通信調査会)に書いているが、1つか2つの記事で終わらせるにはもったいないほど、中身が濃い。

そこで、興味深いトピックをいくつか、紹介してゆきたいと思う。

シャルリ・エブド事件の現場動画をどこまで出すか

今年1月7日、パリで発生した風刺雑誌「シャルリ・エブド」での射殺事件は、世界中の注目を集めた。編集会議に出ていた風刺画家ら12が、アルジェリア系フランス人男性二人に襲撃を受け、命を落とした。

実行犯の兄弟は襲撃後、パトロール中だった警官に銃を放っている(警官は死亡)。この時の模様を市民が撮影した動画を含め、生々しい映像がメディアを通じて拡散された。

2日後にはパリ東部のユダヤ系スーパーで、別の襲撃犯が人質を取って籠城する事件が発生した。特殊部隊が突入する前に、4人の人質が殺害された。(この襲撃犯は8日、パリ南部で女性警官を一人射殺していた。)

実行犯―兄弟と別の襲撃犯一人―は全員、捜査当局によって殺害された。

シャルリ・エブド事件、女性警官殺害事件、スーパーでの人質事件を通して、計17人が実行犯3人の手によって、亡くなった。

何をどこまでいつ出すか、24時間のテレビニュースの制作者は頭を悩ませた。28日午後のセッションではシャルリ・エブド事件について、英スカイニュースのヘイゼル・ベイカー、米CNNのトミー・エバンズ、フランスのデジタルテレビ局「iTele」のルカ・マンジェが壇上に上がった。

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(左から、マンジェ、エバンズ、ベーカー。News Xchange flickr photo)

マンジェが事件を発生を知ったのは目撃者の一人となった友人からの電話だった。「銃声が聞こえた」と言われ、すぐに制作スタッフを現場に送った。「情報が真実かどうか、確かめる暇はなかった」。

フェイスブック上に、ある男性が警官が撃たれた動画をアップロードしていることに気付いた。男性と連絡を取り、動画を静止画の形で放送した。

スカイニュースのベイカーはフェイスブック上に関連動画がアップロードされていることを知り、放送に使うかどうかをデスクに相談。放送内で使ったのは発見から約30分後だった。

CNNも慎重だった。エバンズによれば、局内の弁護士と相談し、スカイニュースやロイター通信など、ほかのメディアが使っていることを確認してから、自局でも放送した。

マンジェによると、警官が撃たれた様子を撮影した男性はのちに動画を削除したという。

ベイカーは市民がアップロードした生の画像は、今回の事件では「非常に大きなニュース価値がある」。事件が刻々と変化し、「ソーシャルメディアで情報が伝わってゆく」。

iTeleのマンジェは、後で振り返ると、反省事項がいくつもあるという。一つには、「死者の名前を出すのが早すぎたー放送当時、全員が亡くなっていたわけではなかったから」。改めて、どのようにいつ出すのかについての基準を決めることが重要と思ったという。

また、ユダヤ系スーパーでの人質事件では、自局も含め、メディア側が事態の推移を刻一刻と報道。これが捜査の邪魔になったというのが今は定説となっている。

みんなが「シャルリ・エブドと共に」ではなかった

襲撃事件発生後、ソーシャルメディア上で急速に広がったのが、「私はシャルリ」という言葉が入った画像や、ハッシュタグ「#jesuischarlie」。

ニュースメディアは「私はシャルリ」の画像を報道時に頻繁に使ったが、「その意味をあまり考えずに、使っていたところが多かったのではないか」とエバンズは言う。

「『私はシャルリ』を意味するハッシュタグは、シャルリの側に賛同する、という1つの政治的姿勢を意味する場合がある」。そこで、CNNではどのようにするか、編集部内でよく話し合ったという。議論をし、局のガイドラインと照らし合わせることで、扱いを決めていったという。(会場内から、「CNNはガイドラインがないと動けないのか?規則にがんじがらめではないのか?」と聞かれ、エバンズが苦笑する場面もあった。)

iTeleのマンジェは、局で働くジャーナリストの感情と報道姿勢との境界線を明確に引くために、「jesuischarlie」と書かれたバッジをジャーナリストが付けていた場合、放送の前には外すよう指示した。

しかし、「世界中が『私はシャルリ』ではないことを気付くのに、時間がかかった」という。事件発生から数日後、学校で一連の事件の犠牲者のために黙とうする時間が設けられた。このとき、「黙とうをしたくない」という生徒がいたことを知って、「幅広い意見があることを実感した」という。

事件後、初めてのシャルリ・エブドの表紙にはイスラム教の預言者ムハンマドのイラストが出た。ムハンマドの描写事態を冒とくとするイスラム教の教えがあることから、各メディアは表紙を出すかどうかで悩んだ。

スカイテレビのベイカーは「見せないことにした」。CNNでも同様だった。

フランスでは「出さないわけにはいかなかった」とマンジェ。ただし、1,2回、画像を短い時間出しただけだった。

マンジェは、さまざまな不備な点、後悔する点がシャルリ・エブド報道にあったことを認める。「しかし、事件発生から24時間、記者たちが編集室で泣いていた。大きなショック状態で、ほかのことを考える余裕がなかった」とも述べた。

(次回はニューヨークタイムズの記者によるレポートを紹介します。)

(2015年11月12日「小林恭子の英国メディア・ウオッチ」より転載)